アルク夏期国際音楽アカデミー
舩津 美雪 4 年 演奏学科 弦管打楽器専修(オーボエ)
研修内容
アルクでの研修は、とても充実した素晴らしい時間となった。
オーボエの生徒は私と、フランスで3年間勉強している17歳のイギリス人の二人であった。多くのオーボエ奏者の音を聴けなかったことは残念であったが、その分毎日密度の濃いレッスンを受けることができ、とても勉強になった。
Frederic Tardy先生は、リヨン歌劇場管弦楽団の首席奏者を務める傍ら、パリ音楽院のアシスタントとして教鞭も取っていらっしゃる。不得意箇所に対する丁寧な指導はもちろんだが、できないことをも受け止めて、私がコツを掴むまでじっとこらえて待っていてくれる、そんな寛容さを持っている先生で、レッスン中も焦ることなくひとつひとつの課題に取り組むことができた。
先生はとても独特な音色を持っており、常に響きを身体にまとい、ppでもffでも枯れることのない豊かな音が飛んでくる。そんな音の秘密を知りたいと思っていたところ、もう一人の受講生のレッスンの際に、オクターブの跳躍練習をしていた。それは、ppでもffでも音程の幅がずれないことはもちろん、フランスの管楽器奏者の誰もが考えているであろう喉を使ってのバランスの取り方やコントロールの仕方、また、たとえ音量を絞り切ったところでも、振り切れんばかりに吹いた時にも、響きが死なないようにすることを練習していた。それを見た私は、絶対にその響きを習得してから帰国したいと思い、電子辞書片手に片言のフランス語でその思いを伝えた。そうすると、先生はその思いを受け止めてくれ、それ以降の毎回のレッスンの最初15分程度はそのオクターブの跳躍練習を見てくれた。標高1800mの高地でありったけの息でffを吹いた時にはめまいもしたが、それを伝えるフランス語も分からず、がんばるのみ。朝一番にppに息を詰めた時には、身体も硬くなるが、そんな私を横目に先生は私の楽器を取り、生き生きとしたppを吹いてみせる。負けていられるか......そんな強気にはなれないが、私も同じ楽器と同じリードを吹いているし同じ人間......諦めちゃいけない、そんな思いの沸き立ってくる、毎朝の15分であった。
レッスンは11日中10回ととても多く、初日にそれを聞いた時には、用意した曲数が足りるか不安になった。余分に持って行っていた譜面もあったので、何とか10回の濃いレッスンを受けることができた。
Holliger / Sonata よりII、Dutilleux / Sonata、Milhaud / Sonatineとフランスのレパートリーを勉強し、その後には音の響きをとらえるためにSchuman/3 Romancesを選んだ。そして最終日にはMozart /ConcertoよりIを演奏し、10回のレッスンを終えた。
指や音程、ソルフェージュには、もちろん厳しいし、求められる水準はとても高い。それとともに、フランスの音楽家の長所である正しいソルフェージュの上に成り立つ、幅広い表現の幅を感じることもでき、理想とするべき姿がありありと見えた。私は鼻で息を吸うくせがあり、それは本当に特別な時にしかしてはいけないことで、ppのアタックができないこともffが鳴り切らないことも、まずはそこに問題があると初回のレッスンで見抜かれ、みっちりと特訓された。たとえAdagioでppの出だしであっても、そのブレスには深さや勢いがないといけなく、それが弱弱しくまた鼻で吸われたものであっては、出した音が死んでしまうと、何度も注意された。また、音程を微調整するために使っていた替え指も、チューナー上では音程があっているが、響きが合わないのは分かるか?と、何度も丁寧に指導された。日頃そんなことを注意されることは少なく、耳の優れているフランス人ならではの観点だと思い、とても感銘を受けた。
また、このアカデミーの特色として、希望者は室内楽のレッスンも受講することができる。私は木管五重奏でLigeti/6Bagatellesを演奏した。Flアメリカ人、Clロシア人、Hr / Fgフランス人、それに加えて日本人の私と、国籍の異なるメンバーが集まり、とても楽しい時間であった。
室内楽のレッスンはほぼ1日おきに5回あり、私たちは1人の先生に1回、もう1人の先生に4回のレッスンを受けた。2人ともとても素晴らしいチェロ奏者で、この曲は知らない、と言いながらも、的確な指示やアドバイスを与えて下さった。また、弦楽器の先生からの要求は同じ管楽器の先生が難しいだろうと思い遠慮して言ってこないような、聞こえないようなppも求められ、それはとてもとても難しかったが、また音楽の幅が広がったように思う。
最終日には室内楽の発表会もあった。私たちの団体は偶然一番広い体育館のような会場にあたり、また、最終日の演奏会ということもあり、多くのお客さんに聴いてもらうことができた。リハーサルでは雰囲気が悪くなり、どうなることかとひやひやした部分もあったが、本番はたくさんミスもあったものの、お互いを信頼し合って楽しむことができた。
何より悔しかったのは言語に関してである。Tardyには初日にフランス語と英語どちらがいい?と聞かれ、素直に英語と答えた。もう1人の受講生がイギリス人であることもあり、困った時には通訳をしてもらった。レッスンの聴講中には、電子辞書を片手に単語を調べメモを取り、レッスン後には注意されたことをフランス語で譜面に書き込むようにした。レッスン中に私がフランス語混じりで話すと、先生は美雪がフランス語を喋った!と褒めてくれた(......悔しかったけれど)。
室内楽のレッスンでは、ほとんどがフランス語で進められた。Clのロシア人は数字も分らないほどフランス語ができず、とても苦労しているように見受けられた。という私も、純音楽の話題なら、何となく意味も汲み取れ、歌声混じりにくれるアドバイスには大きくうなずくこともできるが、ここはその辺の牧場で草を食んでいる馬みたいに......なんて言われた日には、一単語も分らなくて、目がテン......アメリカ人のFlの子に、後から教えてもらった。また、メンバーで練習をしている時にも、フランス語で飛び交う会話についていけない部分がたくさんあり、メンバーには迷惑をかけてしまったと思う。また、そこはもっとこうした方がうまくいく、あなたがちょっと早いから全体が崩れている、なんてことを、ストレートに言うことはできても、それでは人間関係も大切なアンサンブルではうまくいかない......言葉を探して考えているうちに次の個所に話題は移ってしまった。また、はっきりしているフランス人同士、ずけずけと相手にも注意をするものだから、雰囲気が悪くなる時も多い。そんな時に、うまく茶化したり場を和ませたりする言葉も分からず、演奏会前のリハーサルは、最悪な空気で終わってしまった。その後メンバーに会ったらこんな言葉をかけようと考えながら道を歩くも、皆がにこにこしながら舞台袖に現れたものだから、またしても言葉を口にしないまま終わってしまった。
悔しい思いをたくさんした分、これから少しずつでもフランス語を勉強し、早く先生たちや友人たちと音楽の話ができるよう、がんばらないといけない、と気合いが入った。11日間のアカデミーで、これからの課題も多く見つかり、また、卒業後の目標もはっきりしたものへと変わった。また、オーボエ奏者はドイツへ留学する人が多い中、私はやはりフランスへ行きたいと惹きつけられるものが多くあった。
卒業を半年後に控えたこの時期に、この奨学金を頂きフランスへ行くことができたのは、私にとって本当に有意義なものであった。
この研修を自信に変え、夢に一歩でも近づくことができるように、卒業後は邁進して行きたい。
待ってろフランス、そんな強気な言葉を、胸を張って言えるようになるまで......夢が現実になるまで......精一杯がんばろうと思う。そう決心させてくれた、とても素晴らしい時間であった。