国立音楽大学

モンテプルチアーノ国際マスタークラス

江角 梨衣 3 年 演奏学科 声楽専修

研修内容

モンテプルチアーノ国際マスタークラスは、6月下旬から10月上旬までさまざまなクラスが開講されており、私は8月下旬から9月上旬にかけて開講された声楽/オペラ表現というクラスに参加した。イタリアで開催される講習会だったのでイタリア語がメインかと思っていたが、実際はドイツ語圏の人が多く、お陰でドイツ語にも触れることが出来た。

受講生は10人程で、1人20〜30分のレッスンが毎日行われた。レッスンの開始時間などは決まっておらず、Branisteanu先生の体調によって、又は午後にレッスンを受ける受講生の人数によって決められていた。レッスンには始めから終わりまで受講生全員が参加し、レッスン中は先生だけでなく他の受講生も意見を言っていた。レッスン曲はアリアに限らず、歌曲や重唱も指導されていた。練習室は、施設のロビーに設置されているボードに貼紙がしてあり、使用したい時間のところに名前を書き込みさえすれば自由に使用することが出来た。

同期間中に声楽/伴奏というクラスも開講されており、レッスン開始前日に行われた施設の説明・案内や3日目に行われたワインテイスティングを合同で行ったことにより、より多くの人と接することができた。

8月25日

この日は本来、施設の案内や講習会の説明、先生方や他の受講生との顔合わせで済む予定だったが、このクラスはBranisteanu先生の意向により1日早くレッスンがスタートした。

午前は受講生の声を聴くため、1人1曲ずつ歌曲やアリアを披露した。私はRossiniのオペラ『Semiramide』より“Bel raggio lusinghier”を歌った。国外で自分の歌を披露するのは初めてのことだったので少し緊張してしまったが、いつも通り楽しんで歌うことが出来た。Branisteanu先生は褒めて伸ばすタイプの方なのか、1人が歌い終わる度に“Bravo!”とおっしゃっていた。また、他の受講生に私の演奏はどう思われたのか不安に思っていたが、後で同クラスを受講していた日本人の男の子から「みんな好感を持っていた」と聞かされ、とても嬉しかった。

午後は、希望する受講生のみのレッスンだった。私は聴講していたが、この日レッスンを受けたほとんどの受講生が支えについて指導を受けていた。背筋を下に広げるという指摘を受けただけで、声のエネルギーが格段に増していた。

8月26日

午前中にDonizettiのオペラ『Don Pasquale』より“Quel guardo ilcavaliere”を見ていただいた。発声や身体の使い方に関しては何も言われず、「もっと自由に動いて表現しなさい」という指示を受けた。大学では、あまり動きすぎるのは良くないと耳にしたこともあったので、どのように動くか、どれくらい動けばいいのか、すぐにイメージが固まらず戸惑ってしまった。もう一度通して歌い、自分では前後左右動いたつもりだったが、先生からは「誰もあなたを食べたりしないから、もっと動いて」と指摘を受けた。また、ピアニストにテンポをしっかりと示さなければいけないという当たり前の注意を受け、分かってはいたがうまく伝えられない自分に憤りを感じた。この日も何人かの受講生は支えについて指導を受けており、「声を大きく出せば出すほど、支えは下にしっかりと」とおっしゃった。また、日本人の男の子はドイツリートを見てもらい、nとmの響きが弱いことと、öの発音を直されていた。彼は、高校卒業後すぐにオーストリアの音楽大学に進学しているためか少々発音が甘いような気がした。大学でのディクションの講義が如何に大切なものだったのかということを強く感じた。

8月27日

このクラスは発声を見ず、早速曲に入る。この日も同様で、昨日に続き“Quel guardoil cavaliere”とRossiniのオペラ『Il signor Bruschino』より“Ah! voi condurvolete-Ah! donate il caro sposo”を見ていただいたが、この日はほぼ2曲を通して歌いレッスンが終了した。どちらのアリアも“Bravo!”と褒められただけだった。他の受講生は、頬を上げる、鼻腔を開ける、お腹回り全体に息を入れる、胸は上げないという指導を受けていた。また、ピアノの上に横になり、息を吸った時に背筋が膨れているか、その状態のまま歌ってみたら発声がどう変化するかという指導をされていた。先生から見たら、私は基礎が出来ているそうだ。

8月28日

“Bel raggio lusinghier”では、カデンツァが遅いという指摘を受けた。「もっと前へ持っていくように」とおっしゃった。また、「息を吸う時に身体に力を入れてはいけない」と注意された。「音楽の流れを止めてはいけないが、しっかりとクールダウンすること」とのことだった。Mozartoのオペラ『Le nozze di Figaro』より“E Susanna non vien!- Dove sono i bei momenti”では、たっぷりと歌うように指示された。「休符でしっかりとリラックスし、身体が落ち着いた状態で歌い出す」と指導を受けた。歌い終わった時、窓の外から“Bravo!”という声が聞こえ、とても嬉しかった。また、「笑う時は喉ではなくお腹を使う」「息を吐く時はお腹を広げる」とおっしゃっていた。

8月29日

この日は、翌日催されるコンサートへ向けてのレッスンだった。私はコンサートで、『Semiramide』と『Le nozze di Figaro』のアリアを演奏することになった。“Belraggio lusinghier”では、high Cisの音を注意された。「鋭く出すのではなく、dolceで」という指導を受けた。dolceを「柔らかく」という意味で捉えず、「甘く」と解釈しイメージを抱き歌ってみたら、驚くほど出しやすかった。“Dove sono i bei momenti”では、他の受講生からgiuやgiòの発音を指摘された。私はジィュやジィォと発音してしまっていた。ジュ!ジョ!と鋭く発音するよう気をつけてはいたが、なかなか直せなかった。しかし、正しい発音を教わることが出来たことをとても嬉しく思う。

8月30日

コンサート当日。午前は本番会場であるPalazzo RicciのサロンでG.P.を行った。2曲続けて演奏するのではなく、出演順は作曲家毎に決められた。コンサート前最後の演奏でもCisが低くなるなど、不安要素が残ってしまった。本番は思っていたよりも人が入っており、初めての海外演奏会だったが緊張することもなく楽しんで終えることができた。レッスンとは違い“Bravo!”という言葉はもらえず。この言葉が響いたのは、音楽の持つエネルギーがとても力強く、声が前に突き刺さるように飛んでくる人たちのパワフルな演奏だった。私は、悲しい曲や静かな曲になると声や響きを自分の中に収めてしまうので、前に飛ばすエネルギーがまだまだ足りないと実感した。

9月1日

講習会最終日。この日はコンサートも終わり、2人ほど支えのレッスンを受けていた。その後、遺伝子についてのDVDを鑑賞した。「頭で考えたことは遺伝子に伝わり、行動に反映される。例えば、高音を出す時に怖がってしまったら高音は出ない。怖がらずに出しなさい」ということを教えられていたのだろうと解釈した。解散後、Branisteanu先生に「私の母音の発音はどうですか」と質問したところ、「Bene, bene!」と返答された。また、レチタティーヴォの演奏方法を聞いたら、「とにかく喋って、読み込むように」とおっしゃられた。

研修を終えて

Horiana Branisteanu先生と
Horiana Branisteanu先生と

今回の研修では、想像していたレッスン内容とは大きく違い、初めのうちは少し戸惑いもあったが、結果的には多くのものを得ることができたように思う。giuやgiòの発音は今でも間違えてしまうが、同じクラスを受講した仲間のお陰で意識することができている。また、その仲間たちの音楽に触れたことにより、音楽・言葉のエネルギーを前へ送るということがどれほど大事で、どれほど力強いものなのかということを感じることができた。

更に、もう1つのクラスも含め、音楽を表現するということ、聴いてくださっている人々に自分の音楽を伝えるということがどういうことなのか、他の受講生を見ていて考えることができた。表現の仕方は十人十色。私も、自分なりの表現の仕方を発見したい。

今回の研修は、自分を見つめ直すいい機会となった。レッスンで指摘されたことの中には随分前から日本でも指摘されていたこともあった。また、日本を出たことにより、初めて言葉の壁の高さを実感することができた。それと同時に、自分の考えが如何に甘かったかということを感じた。同じクラスを受講した人の年齢層は幅広く、下は18歳、上は74歳であった。年齢に差はあったが、皆音楽や自分の課題に真摯に向き合っていた。そして、言葉がほとんど理解出来ていなかった私にも温かく接してくれ、このクラスであったからこそ、無事講習会を修了することができたと思う。またいつかこのような機会を得ることができたら、今度は自分の力で海外での生活を充実したものにさせたい。その為にも、自分自身としっかり向き合い、自分から逃げず、日々成長していけるよう努力していきたい。

最後に、このような素晴らしい機会を与えてくださった大学関係者の皆様、困った時などいつも優しく丁寧に対応してくださった学生支援課の皆様、時には温かく、時には厳しくご指導してくださった先生方、いつも沢山のアドバイスをくださった先輩方、辛い時に支えてくれた友人、いつも温かく応援してくれる家族、そして国内外研修奨学生を受けるにあたりご尽力いただいた全ての皆様に心より感謝申し上げます。

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