国立音楽大学

モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー

小林 麗 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)

研修先:モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー
研修日程:2012年7月30日~8月11日
担当教授:Prof. Ya-Fei Chuang(ヤ=フェイ・チャン)

研修目的

オーディション

受講初日、私の志望するディーナ・ヨッフェ教授クラスのオーディションが行われた。オーディションの開始時刻が近づくと部屋の前には30人以上が集まっていた。教授がいらして、部屋に全員が入ると、そのまま公開でオーディションが始まったので驚いた。どの生徒も、異なる作曲家の曲を2曲演奏する形でオーディションは行われた。私はラフマニノフとバッハを弾いた。17時から始まり、全員が終わるころには20時になっていたので、結果は翌朝発表された。受かったのは10名と少なく、私は落ちてしまっていた。ロシア人である教授にラフマニノフをレッスンして頂きたかったのでとても残念だったが、他の人の演奏も聴いたことによって覚悟はできていたので、すぐ人数に余裕がありそうなクラスを探しに向かった。ちょうどレッスン室の前でチャン教授に会えたので、事情を説明しクラスに入れて頂けるようお願いした。するとその場でオーディションをしてくださり、受講生として受け入れて頂けることになった。チャン教授は台湾出身で、現在はボストンで教えているため、クラス生はボストンに留学している人が多かった。レッスンは1回45分で、2週間で合計4回行われた。

レッスン(1)

ラフマニノフのソナタ第2番(改訂版)から第1楽章を見て頂いた。一度通して弾いたあと、教授から「冒頭のフレーズは何処まで続いていると思っている?」という質問があり、私は2段ほどだと考えて答えたが、教授が仰った答えは第2主題に入るところまでだった。1ページ半以上の長さをひとつのフレーズとして捉えることに驚いたが、ラフマニノフを演奏する上で大事なことは、フレーズを大きくとらえ推進力をなくさないことだと学んだ。クラス生になってから知ったが、教授はこの曲を演奏したリサイタルのCDを出していることもあり、丁寧で細かいレッスンだった。「もっと歌うように」というアドヴァイスを頂いて、それを心がけようとすると推進力がなくなってしまい、「先へ先へ」と何度か注意されることがあった。歌心を持ちながらも、フレーズが途切れないよう音楽を作っていくバランスがとても難しいと実感した。

レッスン(2)

前回のレッスンでは半分ほど進んだところで時間になってしまったので、続きを見て頂いた。たくさんの声部が重なっている部分で、それぞれの声部を効果的にバランス良く響かせるために、教授が研究した指使いを教えて頂いたり、内声のメロディを左右どちらの手でどう分担して弾けば聴かせやすいかなどのアドヴァイスを頂いた。ペダルにおいては、音が濁ることを気にして細かく踏み変えすぎている現状が問題となり、ペダルを二分の一や四分の一だけあげて踏み変えるだけでなく、トップ声部のメロディの弾き方で濁りさえも美しく聴かせるやり方があることを教えて頂いた。踏み変えすぎて流れがなくなってしまったり、楽譜に書いてある長さより音価を短くしてしまっていたので、ラフマニノフを演奏する時には他の作曲家の作品の時とは違う感覚を持つことを意識しなければいけないと学んだ。

レッスン(3)

前回と同じく、ラフマニノフのソナタ第2番から、今回は第3楽章を見て頂いた。1楽章と同じく「先へ先へ」と注意されてしまうことが多く、音楽をどこへ向けて進め、どこでゆるめるかの加減がやはりテーマだった。重厚な低音を響かせたい時に、自分がちょうど良いと感じる場所に左足を置き、腰から足のほうへ向かって体重をかけ、体も使って音を出すという方法をアドヴァイスして頂いた。試してみると、自分でも意外なほど楽に低音を響かせることができたので、積極的に取り入れようと思った。テンポルバートの指示がある再現部では、「私は私のルバートがあって、あなたはあなたのルバートがあるはず。今の演奏ではまだルバートが足りなさ過ぎるから、もっと研究してあなただけのルバートを見つけて」と仰っていた。もっと時間をかけて研究して、私らしい表現を作り込む必要があると痛感した。

レッスン(4)

最後のレッスンで何を見て頂こうか迷ったが、教授は多くのオーケストラと共演され、コンチェルトの舞台でも活躍されているので、グリーグのピアノ協奏曲から第1楽章を持っていった。レッスンの中で、教授は何度も「有名なメロディをいかに美しく、自分らしく魅力的に弾くかが大切」と仰っていた。そのために必要な手首の使い方や、力の逃がし方などを丁寧に教えて下さった。拍の感じ方が全体的にダウンビートになってしまい、踊りのような軽やかさが欠けていることに指摘があるまで気付いていなかったので、気をつけたいと思った。いくつか注意されたことを同時に全部直そうと思ってもなかなか上手くいかず、もう一度、もう一度と何回も繰り返しているうちに時間になってしまい、提示部までで終わってしまった。レッスン中、もっと瞬時に反応できる力も身につけていかなければならないと感じた。

大学主催のイベント

講習中、大学が主催するイベントが毎日行われていたので、出来るだけ足を運ぶように心がけていた。教授の推薦を受けた受講生が出演できるアカデミーコンサートも何度か聴きに行った。ピアノだけでなく、ヴァイオリンや声楽を学ぶ受講生の演奏も聴ける機会だったので勉強になった。日本人も多く出演していたが、他の国の受講生に比べて表現が薄い印象を受けた。自分も今後、もっと表現に対して敏感になるよう気をつけたいと思った。

教授陣が出演するコンサートも何度か行われた。チャン教授がピアノで出演していたフランクのヴァイオリンソナタを聴いて、教授の奏でるppの透き通った美しさに心から感動した。一流のピアニストに習うことができて、自分は本当に幸せだと感じた。

受講生がドビュッシーを演奏して競い合うコンクールもあった。どの受講生も堂々とし、自分の音楽を作ろうとしていたのが印象的だった。

聴講

自分のクラスだけでなく、全クラスの聴講が自由だったので、他のクラスのレッスンも何度か聴講した。大きな声で熱く指導する教授、お話や例えが面白くユーモラスな教授など各クラスで様々なカラーがあり、聴講だけでもとても勉強になった。

クラスコンサート

チャン教授のクラスは他のクラスとは少し異なり、大学内で行う内輪のクラスコンサートだけでなく、バロックミュージアムという美術館でもコンサートを2回行った。私はバロックミュージアムでのコンサートに出演し、美術館の真ん中のスペースで、絵画に囲まれながら一般のお客様の前で演奏するという貴重な経験ができた。ラフマニノフのソナタ第2番から第1楽章を演奏した。レッスンから1週間ほど時間があったので、できるだけレッスンで教えて頂いたことを取り入れたいと思い準備を重ねたところ、演奏後に教授から「レッスンでやったことはすでに出来ていて良くなっていた」と言って頂き、嬉しく思った。同じクラスの受講生は自分より若い人ばかりで、自国を離れ留学している人が多かったので演奏を聴いていてとても刺激になった。

最後に

バロックミュージアムでのコンサート終了後、チャン教授と
バロックミュージアムでのコンサート終了後、チャン教授と

初めて講習会というものに参加し、初めてオーストリアを訪れ、レッスンだけでなく国際交流や文化を肌で感じたり、作曲家ゆかりの場所に直接足を運んだり、達成できた目標はたくさんあった。しかしそれ以上に、演奏する上で必要なテクニックや表現力、音楽的教養、海外で学ぶために必要な語学力、精神力など自分には足りないものがまだたくさんあると痛感した時間でもあった。今後もこの気持ちを忘れずに、山積している課題と真摯に向き合って勉強を重ねていくことを決意した。

国内外研修奨学生としてこのような素晴らしい機会を与えて下さった先生方、関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。とても充実した3週間を過ごすことができました。本当にありがとうございました。

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