ニース夏期国際音楽アカデミー
細谷 香朋 4 年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)
研修内容(Françoise CHAFFIAUD先生)
第1回 7/24 Chopin Ballade No. 1
Françoise CHAFFIAUD先生にショパン作曲のバラード一番を見ていただきました。
まず一度通して弾いた後に、「いまいくつ?今後の音楽人生はどう計画している?」と先生に聞かれました。
その後、良い意味でも悪い意味でも、とても日本人っぽくないショパンである、というご指摘をいただき、全体の流れについてレッスンをしてくださいました。先生が先に弾いたフレーズを、私が模倣していく、という方法で、私の悪いクセが浮き彫りになりました。
そして残り5回あるレッスンの大雑把なカリキュラムを立てて、第1回目のレッスンは終了しました。
第2回 7/25 Chopin Ballade No. 1
第2回目のレッスンでも、前回に引き続きバラード1番をみていただきました。今回は前半に焦点を絞り、とても細かいレッスン内容となりました。そこで「周りが見えなくなってはダメ、静かでも、騒がしくても、視界が広くなっても狭くなっても、絶対に動いてはいる」例えば始めのフレーズ一つをとっても、次に長い音符がある故にぶつ切りになってしまっている、との指摘を受けました。そしてその後、長いフレーズが出てくるが、そこは大雑把に弾きすぎず、一音一音慈しむように弾くのだ、気持ちのいい練習だけじゃ進歩しないわよ、と厳しいお言葉。日頃、言われ続けている「一定のレベルに達した時にこそ、p初心を忘れない練習をすること」の大切さを痛感しました。
「pの練習は指の指圧を感じるところから」と言われ、今日練習をして、明日、成長したの音色を聞かせてと言われました。
第3回 7/26 Chopin Ballade No. 1
第3回目のレッスンはバラードの後半をみていただきました。まず、昨日の指摘を受けて、私なりに練習した前半を聴いていただきました。その時「トレボン!」をいただきました。「の音色を指が覚えるまで怖いと思うけど、あなたは指が柔らかいからすぐに上達しそう」と言ってくださいました。最後の3ページがなかなか上手くいかないことを伝えると、「なかなか上手くいかない、と思い込んでいる部分もあるわよ」「一度、ミスを気にせず好きに色づけして弾いてみて」と言われたので、本当に好きなように弾いてみたところ、「これがあなたの音楽なのよ、ここからレッスンはようやく始まるわ!」とおっしゃいました。私はとても驚き、どう考えても散らかっているように聞こえると言うと「あら!香朋が日本人になっているわ!」とおっしゃって、「ここはフランスであなたはまだ若いじゃないの。だから気にせず暴れていいのよ!」と言われました。このお言葉で、なぜ私がフランスで音楽の勉強をしたいと長年強く思い続けてきたのかがわかったような気がしました。
その後、「もう少しの練習でできそうな箇所がいくつかある。練習をして、また最後のレッスンの時に聞かせて」と言われ、日本だけじゃもったいない、ヨーロッパの音楽学校を受ける気はないのか、という嬉しいお言葉をいただきました。嬉しさのあまり、少し泣いてしまいました。
第4回 7/27 Chopin Polonaise No. 5
今回は、ポロネーズ5番をみていただきました。3年後期の試験で上手く弾けなかったトラウマを払拭したいという気持ちで挑んだレッスンでしたが、先生に「右手と左手が喧嘩をしていて、大きな音がより一層それを大事(おおごと)にしている、ショパンが悲しむ」という酷評をいただきました。レッスン中何度も先生が私の肩、腕で指圧の具合を伝えてくださり、それを真似していきました。
そこで私は、ピアノはやはり「打楽器」ではないように思いました。ハンマーで「打って」音を出すのは確かですが、先生の指に反応したハンマーは弦を決して「打って」いる様子がありませんでした。ハンマーの上げ下げを自在に操るような指の動きを習得するにはまだまだ未熟であると感じましたが、今後、少しでも近づきたいと思いました。
まずは音に反応する耳を敏感にして、指にそのままその信号を送れるように。そして先生の指圧を思い出しながらゆっくり練習を繰り返すように、というお言葉で第4回のレッスンは終了しました。
第5回 7/28 Ravel La Valse / Bach 平均律第1巻 14番 fis moll
まずラ・ヴァルスを見ていただきました。この曲には様々な弾き方があり、色々な音源を聞いてみることを勧められ、その一例として、と先生自ら弾いてくださりました。注釈で書かれている箇所の説明や、弾いたほうがいいパッセージや弾かないほうがいいと思われるパッセージについて教えてくださりました。この曲を卒業試験で弾きたいことを伝えると「あなたにぴったりな曲ね!ナイスな選曲よ!」と大爆笑。応援をしていただきました。
バッハの平均律は「アジア人はよく手堅く弾くけど、あなたは本当にアジア人っぽくないわね」と言われ、「それはいい点でも悪い点でもある、その例に、香朋のバッハは非常に多彩だが不安定だ」と言われました。特にフーガでは、響きをゆっくり受け止める練習と、指を強化することを何度も注意されました。
第6回 7/29 Chopin Ballade No. 1
再度バラードの1番を見ていただきました。「私が注意した箇所は全て直っていて、上達が早い、素晴らしい」という嬉しいお言葉をいただきました。ただやはり最後の2ページで混乱してしまい、それが演奏に出てしまったようで、先生と一緒にゆっくり、何度も最後の2ページを研究しました。ペダリングや音の長さ、大きさ、方向、アクセントやクレッシェンドの具合、「楽譜をなめるように読んでようやくわかることがある、それが一番の上達のコツなのかもしれないね」というお言葉で締めくくられました。
第7回 7/30
この日は最終日で本来はレッスンがない日とされていましたが、CHAFIAU先生は最後のレクチャー兼お披露目会と題してレッスンをしてくださりました。
クラス全員が各々一番練習した曲を演奏し、皆で意見を出し合いました。私のバラードでは、「才能があるよ!」「好き放題弾いてるね!」「とても流れていて聞いていてあっという間だった」という意見をいただきました。
研修内容(Yeve HENLY先生)
第1回 7/31 Chopin Polonaise No. 5
Yeve HENLY先生のレッスンは、打ち合わせ初日から始まりました。一度通して弾いたあと、中間部分への指摘から始まりました。「マズルカの拍の数え方を意識して」「左手で弾く音域は弦が長いから、とっても音が大きくなってしまうということはずっと意識しておかなくてはいけない」あとは譜面上に書いてあるペダリングと違う方法で弾いた方が綺麗に聞こえるよ、と教えていただきました。
だんだんと遡り、第3テーマ、第2テーマ、冒頭部分をレッスンしていただきました。アドバイスが全て細かく、先生の奏法を真似するだけで必死になった1時間強でした。
第2回 8/1 Chopin Polonaise No. 5
今回も昨日と同じくポロネーズ5番をレッスンしてくださいました。
最初のテーマの細かいトリルの音の運び方、テンションの保ち方や中間部の細かい指摘を受けました。先生は一貫してハーモニーの大切さを論じてくだいました。そして、変わり目には「もっと時間をかけること」「同じハーモニー間でしつこく何度も音を言わないこと」を心がけるようにと言われました。
先生が弾いてくださった第2テーマは圧巻でした。「ちょっと大げさに弾いてみたんだけどね」とおっしゃいながらでしたが、本物の濃いバラードを弾いてくださいました。先生が弾くと、聞こえなかった旋律が耳に心地よく届きます。それを自然と真似することを意識したら「セボン!」をいただきました。
あとは、2拍目を長めに取る意識、左の拍の感じ方、それを受けた右のメロディーラインの描き方、終わらせ方を学びました。
第3回 8/2 Chopin Ballade No. 1
まず、「ハーモニーの中を泳がせる弾き方をマスターする必要があるね」とおっしゃった後、先生はメロディーを和音でとりながら、楽譜通りに弾いてくださいました。そうすると、見えていなかった大切な、移り変わる拍があったことに気付きました。そしてそう聞こえるための独自の指使い、左手の和音の個々の大きさ、そこに繋がるようなイントロを細かく教えてくださいました。そこで「和音で弾いてごらんよ」と言われ、先生が先ほど弾いてくださった和音を思い出しながら弾きました。すると先生に「なんだ!キレイに弾けるじゃないか、そのノリとは全然違う弾き方していたね、なぜだろうね?」と言われました。私も常日頃自分はハーモニーを把握せず、メロディーばかりを追いかけてしまうクセがあると感じていました。そのため、和音で感じる練習も欠かさずにしていたのですが、いざ本番に一通り弾く時、すぐにメロディーの美しさに耳と指がつられてしまうことが多々ありました。そのことを伝えると、「香朋は指が自分が思っている以上に自分の意志と直結できている、と考えたほうがいい。もっと指を信じて、でも過大評価しないで」というアドバイスをくださいました。
第4回 8/3 Chopin Ballade No. 1 / Ravel La Valse
今日も引き続き、バラード1番をレッスンしてくださいました。
今日は主に、中間部に差し掛かるところから中間部、最後のクライマックスの部分を聞いていただきました。中間部をとても細かく見てくださいました。
一音一音、どの音量でどのくらいの長さで、どんなハーモニーが裏にあるのか。それらが明白になることによってつながりが見えてきました。
クライマックスは、「弾きにくそうだね、もっとjazzyなアクセントをつけてごらんよ」と言われました。そして「いちいち重く弾く必要ない、ペダルもあるから軽いタッチで弾けるように」とのアドバイスをいただきました。そうするともっと音楽的なふくらみがあることがわかりました。同じ和音を連打する時は、とても神経を尖らせて、耳障りにならないように弾かなければならないこともよくわかりました。
イヴ先生のラ・ヴァルスが聞きたい、そう強く思って河村先生に無理を言ってこの曲を始めていたので、この日が私のこの夏期講習のメインイベントといっても過言ではありませんでした。
私が一度弾いた後第一声に、まず、もっとオーケストラ色を強く出すべきだ、と言いイヴ先生自らの編曲で弾いてくださいました。その時に、「このワルツは最後、狂って狂って終わるんだ。その表現はわかっているみたいだけど、ずっと一定してワルツの拍を数える必要はないのだよ」とおっしゃいました。例えば最初、ここははっきりと3拍子を感じて弾くべき箇所。次に流れるように弾くようなところが何小節か続く。そこは全く拍を感じさせないように弾くべき箇所だが、次は遠くからワルツの3拍子が聞こえてくるように弾くべき箇所。そしてはっきりと安定した3拍子が出てくる。拍子だけでもめまぐるしく変わるこの曲ですが、その先生のアドバイスを受けて、弾いていて不安であった点が解消できたことに驚きました。先生が横で「アン!ドゥ!トヮ!」と歌うように拍子を打ってくださった時は本当にノリノリで弾くことができました。「いいね!僕の指揮があるととてもいい!本番も僕がいた方がいいかな?香朋のコンダクターになるべき?」と先生もお茶目に褒めてくださいました。
最後に
今回、このような貴重で唯一無二な体験をさせていただけたことを感謝いたします。卒業の年に、これまでのピアノと共にあった日々を、異国の地、しかもクラシックの故郷とも言えるヨーロッパで振り返ることができました。
いただいたこの2週間を大切に、これからの長い人生を歩きはじめていきます。お世話になった多数の先生方、本当にありがとうございました。