国立音楽大学

第31回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル

鷹巣 響子 4年 演奏学科 声楽専修

研修概要

  1. 研修機関:第31回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル
  2. 研修日程:8月17日~8月30日
  3. 担当講師:Prof. Lynne Dawson(ソプラノ)

研修目的

今回私がこの草津夏期国際音楽アカデミーに参加したいと思ったのは、まず2週間という長期間、世界的に演奏活動をされている先生のレッスンを受けながら、良い勉強を集中的に出来るという点に魅力を感じたからであった。また、毎晩講師の先生方によるコンサートを鑑賞できたり、共に講習を受ける仲間となる人たちと一緒に生活することで、日常を過ごしている大学という枠から離れてより広い世界を知ることが出来るであろうという期待も持っていた。このように普段のレッスンや練習とはまた少し違った視点で自分の歌とじっくりと向き合うことが今回の研修の目的であった。

アカデミーについて

群馬県草津町で毎年行われている「草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル」は、日本国内で行われている数々の音楽アカデミーの中でも、その規模と講師陣のレベル、また開講クラスのバリエーションなどの点で最高水準のものであるといえる。開催期間は例年8月半ばから2週間にわたり、ほぼ毎日午前中にマスタークラスのレッスン、午後は講師の先生方によるコンサートととても贅沢な研修環境が整えられている。講師の先生方も世界的に演奏活動をされている一流の方々を集めており、日本にいながらにして貴重なレッスンを受けられる場となっている。

私の参加したDawson先生の声楽マスタークラスは、半期のみ受講していた人も合わせて述べ8人が受講していた。

研修内容

レッスン

1週目

最初のレッスンは開講式の翌日8月18日から行われた。この時点での受講生は半期のみ受講するひとも含め6人で、学生は私だけであった。

レッスンは、受講生が少なかったため毎日30分前後ずつして頂くことができた。私が一週目にレッスンしていただいた曲は、G.Fauré/ Lydia、G.Donizett/ Quel guardo il cavaliere、W.A.Mozart/ Chi sà, chi sà, qual sia の3曲であった。

まず、全体を通して、歌うときの目線をまっすぐにすること、舌を常にリラックスさせて下の前歯につくようにしておくこと、というアドバイスを頂いた。私自身では、普段から舌を奥に引っ込めて歌っているつもりは無かったが、先生と一緒に鏡の前で声を出してみると「前歯より1センチくらい置くに引っ込んでいる」と指摘された通りであった。しかし、これは改善するのが難しく、意識しすぎてしまうと逆に舌の筋肉が緊張してしまい、自然な声を出すことができなくなってしまう。このことは殆どの受講生が注意されていたことであったが、結局私は一週目のうちはあまりピンとこないままであった。

曲については、初めてのレッスンでフォーレの "Lydia" を歌ったとき、「あなたの思っている Lydia は何人? 髪や目の色は? 何歳くらい?」と具体的なイメージを質問された。私は拙い英語で自分の想像していた Lydia を説明したが、そのイメージを常に頭に描いて演奏することは出来ていなかった。演奏をする上で、とても基本的なことではあるが、その曲の詩から具体的なイメージを作り出し、それを歌うことで表現する、ということの重要さを改めて実感することが出来た。

2週目

この週から後期のみ受講の生徒2人が加わったが、前期のみの受講生も2人であったため、人数は変わらず6人で受講することになった。

2週目にレッスンしていただいた曲は、C.Debussy/ Nuit d'Etoiles、W.A.Mozart/ Exsultate jubirate、G.F.Händel/ "Messiah" Rejoice gleatly であった。

私は前半の週からの課題であった「舌をリラックスさせて前の方へ置いておく」ということがまだ上手くできていなかったこともあり、歌う度に無意識のうちに体全体が硬く、身構えすぎているような状態になってしまっていた。そのような状態でドビュッシーのNuit d'Etoilesを歌ったとき、数小節歌ったところで先生は演奏を止め、「あなたは普段怒ることはある?今怒ったつもりで歌って見なさい」とおっしゃった。私は言われたとおり、他の事は何も考えず、少し強すぎるかなと思うくらいの調子で歌ってみた。すると自然と以前より足、下腹、大角膜など身体全体での支えがしっかりとした感覚があり、発している声も多少乱暴なようにも思えたが、先ほどよりスッキリと明確な響きになった実感があった。先生は私のそのような様子を見て「そのくらい身体全体を使って歌うように」と仰った。このレッスンで、それまで自分が歌うことに変に慎重になっていて、とても重要な「支え」が疎かになっていたことを実感できた。そしてこの感覚を忘れまいと毎日練習していくうちに、少しずつではあったが舌のポジションの問題への意識も負担ではなくなっていった。

また、この週のレッスンは8月29日(日)までであったが、その次の8月30日に各クラスの選抜者によるスチューデント・コンサートが予定されていた。その二日前のレッスンの休憩時に、受講生全員に「しばらくレッスン会場から出ていてください」という指示があり、その間伴奏の岡田先生とドーソン先生でコンサートの出演者について相談していたようであった。そして休憩明けに私のレッスンが回ってきて、「フランス歌曲の2曲を歌ってみて」と指示された。私が歌い終えると、先生は「この2曲を明後日のコンサートで歌ってくれますか?」とおっしゃった。私は正直自分がコンサートに出演するとは思っていなかったので、少し戸惑ってしまったが、とても嬉しいことでもあったので、引き受けさせていただいた。

この日からはこの2曲に絞って練習し、レッスンしていただき、また伴奏をして下さる岡田先生とも合わせをしていただいて、同時にたくさんのアドバイスを頂くことができた。岡田先生は様々なソリストと共演していらっしゃった経験から曲の作り方、ピアノとの上手なアンサンブルの作り方などを教えて下さり、声楽家とはまた違った視点でとても貴重な勉強をさせて頂くことが出来た。

最後のレッスン後は受講生と先生で写真を撮ったり連絡先を交換したりと最後のひと時を楽しんでいた。集まっていた受講生は前述の通り殆どが社会人として働く傍らで歌を続けている方々であったが、だからこそそれぞれの生活の中での音楽との、歌との接し方楽しみ方などたくさん学べることがあった。中には毎年この講習会を受講することを生きがいのようにしている受講生もいて、その人の歌っているときの幸せそうな姿はとても印象的であった。

私は声楽を勉強させていただいている身であるが、歌が好きであること、演奏できることが幸せであることが伝わるような演奏が出来るようになりたいと、今回の研修で強く思った。

スチューデント・コンサート

講習会最終日に行われたスチューデント・コンサートは午前9時開演という、大変朝の早い時間の演奏会であった。幸い私の出番は後半であったが、リハーサルの場所からホールまで車で移動するという形であったため、少しバタバタした中本番を迎えることになった。

舞台へ上がってみると、やはり朝早いためかお客さんはあまり多くなかったが、同じペンションで仲良くしてもらっていた受講生たちが座っているのが分かり、また座っている人の殆どが2週間同じ場所で講習を受けてきた人たちであったので、思ったより安心して演奏することが出来た。

演奏を終えて、すぐに着替えてロビーに戻ったところでドーソン先生にお会いすることができ、先生からは「Super! Well done!」と言っていただくことが出来、「来年また会いましょう」と言ってくださった。自分の感覚では、無事に歌い終えることが出来たことにはホっとしていたが、良い演奏が出来ていたのかどうかの実感が無い状態であったのだが、同じ声楽クラスの受講生が皆「今までで一番良かった」と言ってくれたことで、単純ではあったかもしれないが、すがすがしい気持ちで草津を後にすることが出来た。

帰りは、急遽コンサートを聴きに来てくれた両親と車で自宅に向かった。

生活面について

私はアカデミー期間中ずっと事務局から斡旋していただいたペンションに滞在していた。ペンション内には私を含め6~8名の受講生が宿泊しており、基本的に二人部屋で生活していた。前期のみの受講生もいたが、全日程参加していた5名は特に仲良くなることが出来た。年齢は高校生から大学院卒業生まで様々であったが、一緒に花火をしたり買い物に行ったりととても楽しい時間をすごすことが出来た。

また、ペンションの方も親切で、レッスン期間中は、レッスンの開始時間に合わせて通常より早めに朝食を用意してくださった。毎日おいしい朝食を食べ、またコンサートから帰ってボリューム満点の夕ご飯に舌鼓を打つという大変贅沢な生活を送ることが出来た。もちろんお風呂は温泉であり、受講期間中私が体調を崩さずに済んだのも、毎日温泉に入っていたからかも知れないと思っている。

練習環境については、事務局から借りることの出来る練習室があったが、一日一時間と決められていたため、時間が足りない時はペンションの部屋で練習していた。またその練習室やコンサートホールなどへの交通手段として無料のシャトルバスが運行されていたが、このバスはレッスンやコンサートの開始・終了時間等にあわせてのみ運行されていて、それ以外の時間帯の移動については全て徒歩や地元の交通会社のバスなどとなっていた。

最後に

今回の研修を終えて、素直に「楽しかった!」とまず感じました。

レッスンの中では上手くできなかったり、自分の今までの、歌と向き合う姿勢等について反省したり、今なお課題として残っていることはたくさんありますが、ドーソン先生のエネルギー溢れるレッスンに、そして素敵な演奏に生で触れられたこと、また声楽以外のすばらしい演奏をたっぷりと聴くことができたこと、そして立場や年齢は違っても、同じ音楽を好きで、学んでいるたくさんの人たちと2週間もの間一緒に過ごせた時間は、本当に幸せでかけがえの無いものとなりました。

この研修で教えていただけたこと、そして歌うことの楽しさ、楽しい!という気持ちを大切にしてこれからの勉強への新たな動力としていくつもりです。

最後になってしまいましたが、今回の研修にお力をお貸し下さいました学生生活委員会の先生方、学生支援課の皆様、日ごろよりご指導頂いている小泉惠子先生、友人、家族に大きな感謝の気持ちをお伝えできたらと思っております。

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