国立音楽大学

ニース夏期国際音楽アカデミー

中村 亜実 4年 演奏学科 声楽専修

研修概要

  1. 研修機関 第53回ニース夏季国際音楽アカデミー
  2. 受講期間 2010年8月3日~2010年8月15日
  3. 講座名 Technique Vocale et Interprétation
  4. 担当教授 Lorraine NUBAR / Mireille ALCANTARA

研修目的

フランスの空気や文化、言葉に触れることで、これからのフランス歌曲の勉強及びその上での意識に役立てたいと考えた。また、将来フランスへの留学を希望しており、現地で先生や学校についての情報収集や、周囲と積極的にコミュニケーションをとり語学力向上や精神面での強さを得ることを目的とした。

研修内容

第1週目: オリエンテーション

一週目はNubar先生のクラスを受講した。ミーティングは3日の11時~で、40人程受講生が集まり、レッスンのシステム ――クラスをA・Bの2グループに分け、一日交替で先生のレッスンを受け、間の日はアシスタントの先生のレッスンを受ける―― の説明を受けた。ほとんどの受講生が前の週から、または講習会以前から先生に師事している生徒だった。そこで、今週からの受講生(私含め3人)が、声を聞いて頂く事になり、G.FauréのFleur jetéeを歌った。その後全員でエクササイズをした。このエクササイズは大変ユニークで、まず全員で大きな円を作り、円周に沿って歩き、走り、その後円の中心を向き、パチンと指を鳴らし向かいの人と回転しながら入れ替わる。次に、また円の中心を向き、一人の生徒から順に表情を作り、隣の生徒がその表情を真似した後、新しい表情を作り隣の人へ伝える。これを表情から動作へ変えて行う。次に二人組を作り、一組ずつ円の中心に出て、鏡のように同じ動きをする。私はアタフタして皆に笑われてしまった。エクササイズは、動作と共にイメージに合った声を出しながら行わなければならず、動きで一杯一杯になってしまう時、先生は時折「With sound!!」と仰った。受講生はアメリカ人が多く、10人ほどが韓国人で、日本人は私を含め4人だった。ミーティングやレッスンはすべて英語で行われた。

レッスン

第1回レッスン 8/3

私はBグループになり、18時半からNubar先生のレッスンだった。レッスンは一回25分だった。朝歌ったFleur jetéeを見て頂いた。歌詞を読むと、「子音をもっと前で発音するように。」、続いて歌うと、「今朝より良いですね、声は良いですが舌が奥に入ってしまうのでこもってしまいます。舌の位置をもっと前に。」とおっしゃった。舌を下の前歯に付けてイの母音で歌う練習をした。また、勢いよく息を吸いすぎ、鼻からゆっくり息をして体を緊張させないように、との事だった。「頭声に頼りすぎです。もっと体との関連を持って、胸声を使わなくては」とおっしゃった。先生は「頭声・胸声」、「素敵」、「もっと」、「母音・子音」、など日本語もいくつかご存知で、時折日本語を交えてレッスンして下さった。

第2回レッスン 8/4

この日はアシスタントの先生方のレッスンを受けた。G.Fauré のNotre amourを見て頂いた。コレペティのMatthew先生からは主にディクションの指導を受けた。この曲は言葉が多くテンポも速いため、発音をゆっくり練習することと、やはり子音の発音位置をもっと前に、人差し指を顔の前に立て、そこに子音を飛ばすようなつもりで歌うように、とおっしゃった。発声アシスタントのCynthia先生のレッスンでは、やはり胸声が足りないということで胸を鳴らす感覚を掴む為の様々な練習をした。「母音の位置が奥で、低い。これは日本語の影響が大きいから、難しいけれど意識してclearな母音を目指しましょう。」との事であった。また、歌う際の感覚として「体が楽器だから、体の中で全て起こらなくてはいけない。響きがどこかに逃げていかないように。常に自分が響いているように。」とおっしゃった。昼休みに、6日のDalton BALDWIN先生(同じ週に開講されている伴奏法と歌の解釈のクラス)との合同コンサートのための、こうもりの「乾杯の歌」の合唱練習をした。

第3回レッスン 8/5

Nubar先生のレッスンでNotre amourを見て頂いた。「言葉の練習が必要ね、子音も母音ももっと前で発音するように。」とおっしゃった。また、「唇を使えていません。これは日本語の影響ね、日本語はほとんど口を動かさずに話せてしまうから。癖が強いですね。もっと唇を使って。あなたが思うよりもっとはっきり発音するように。」との事だった。普段の日本語がこんなにも影響するのか…と、改めて痛感した。最後に、「明日の合同コンサートで、あなたも歌う?」と聞かれ、ぜひ歌いたいと答えると、「Notre amourは長いから、他の曲は?」との事で、Mandolineを歌ってみたが、「Notre amourの方がよく歌えているから」という事でNotre amourを歌うことになった。この日も合唱練習があった。

クラスコンサート 8/6

コンサートは何時からなのか、何番目に歌うのか、伴奏者は誰なのか、そもそも本当に今日歌うのだろうか、など不安を抱えつつ学校へ向かった。レッスン室に張り紙があり、「13時からホールでリハーサル」とあった。Cynthia先生に10分程発声を見て頂いた後、ホールへ向かった。クラスメートから、伴奏者は自分で探して頼まなければいけないと聞き、急いでMatthew先生を探し、伴奏を頼むと、快く引き受けて下さった。結局16時近くにリハーサルをした後、コンサートは17時からだと知って、慌てて準備をして再びホールに向かった。コンサートでは、皆、楽しそうに堂々と歌いあげていて、非常に勉強になった。袖に向かうと、Matthew先生が緊張で引きつった私の顔を見て、「君はいい物を持っているよ、大丈夫、楽しもう。」と声をかけて下さった。先生のお言葉通り、貴重なこの瞬間を楽しもう!と思い、何とか歌いきる事ができた。コンサートの最後、全員で練習してきた「乾杯の歌」を合唱しながら、音楽を学んでいる幸せを噛み締めた。コンサート後、Nubar先生から、「とても良かったですよ。あなたは難しい生徒だったけれど、よく頑張りました。これからはディクションの勉強が必要ね。」とのお言葉を受けた。

第4回レッスン 8/7

Nubar先生のレッスンで、G.Fauré のMandolineを見て頂いた。「Notre amourよりも言葉の練習がしやすいから、こういう曲をこれから勉強すると良い。」との事であった。私は特にアの母音がこもりやすく、そのせいでピッチが低くなりがちだということと、あまり笑顔で歌わないように、笑顔で歌うと今の私の場合声がつぶれてしまいがちだという事であった。常にあくびの感覚を持って、鼻の奥を空けるようにと注意を受けた。表現としては、もっと具体的に情景を目の前に見て、それを説明するように歌って欲しい、その為にももっと言葉をはっきり発音して、唇を使うように、との事だった。また、時折喉で歌う事があるから、気をつけるように、常に舌の上を空気が通っている意識を持って、とお言葉を受けた。この日でNubar先生のレッスンは最後で、修了証を頂いた。

第5回レッスン 8/8

Matthew先生にMandolineを見て頂いた。狭いエと広いエの違いをもっと出すように、との事であった。発音を正確にするために、ゆっくり歌う練習をたくさんするように、とアドバイスを頂いた。Cynthia先生のレッスンでは、胸の声を使う練習と、舌の奥に力が入ってしまうため、力を抜く練習をした。「頭声だけでは弱すぎる。胸声を使わなければ、大きいホールでは聞こえない。あなたはいい楽器だからこれから頑張って。」とお言葉を頂いた。8/9はレッスンがない為、この日で一週目の受講は終わった。

第2周目: オリエンテーション

Alcantara先生のクラスは昨年も受講した為、レッスンのシステムなども分かっており、気持ちにも少し余裕があった。10日、学校の受付で先生に再会した。私の事を覚えて下さっていて、「Ami, また会えて嬉しいわ、フランス語は話せるようになった?」などと声をかけて下さり、とても嬉しかった。10時半~のミーティングでは、1人ずつ先生と面接をして名前、年齢、国籍などと、指導を希望する曲目を伝えた。レッスンの順番などは特に決めずに進める為、午前から午後まで基本的にはレッスン室にいる事と、午前中は発声、午後は曲をみます、とのお話があった。ミーティングやレッスンは全てフランス語で行われた。

レッスン

第1回レッスン 8/10

G.FauréのRencontreを見て頂いた。「体に力を入れないように、特にお腹は常に柔らかく。」との事であった。その後先生に続いてフランス語の発音練習をした。私はやはり広いエと狭いエが曖昧らしく、かなり指摘を受けた。先週から言われている事がなかなか直せず、悔しかった。レッスンの後、他に何の曲を持ってきたか聞かれ、Toujourを見てもらいたいと話すと、「それはテノールがよく歌うのよね…Au bord de l'eauをやってみたらどう?」とおっしゃった。この曲は知っているが歌ったことはなかった為、かなり不安に思ったが、ぜひ勉強しなさいと言われ、急遽勉強することになった。

第2回レッスン 8/11

午前中に発声を見ていただいた。息を吸いすぎる、また吸う時に体に力が入って胸が動いてしまうとの事だった。「お腹を常に開くように意識をするように。souple(柔らかく)」とおっしゃった。思い切って体とお腹の力を抜くと、楽に高音が出たので、驚いた。「お腹や胸、顎の力を全部抜いて、下腹の奥だけを引いていくような感覚を持って。」と、そして「一年間頑張って勉強してきたわね、フランス語も歌も上達していて嬉しいわ。」と褒めて頂いた。最後に「あなたはフランス歌曲が好きみたいだけど、まだ若いし、テクニックの練習の為に、少しアリアも勉強した方がいいわね。来年も来る?ジュリエットやティターニアを持ってきて。」とおっしゃった。

第3回レッスン 8/12

午前中、先生から14日と15日にあるStudent Concertについてのお話があり、私は14日に出演することになった。この日は午後、G.Fauré のAu bord de l'eauを見て頂いた。発音を先生に続いて練習した後、歌うと、「とても良いから、これをコンサートで歌ったらどうかしら。」とおっしゃった。まだ一昨日譜読みを始めたばかりなので暗譜ができない、と話すと、本番譜面台を置くこともできるから大丈夫、と、あっという間にこの曲をコンサートで歌うことに決まってしまった。「語尾の曖昧母音を決して強く歌わないように、決して体を締め付けないように」と注意を受けた。

第4回レッスン 8/13

午後にAu bord de l'eauを見て頂いた。やはり暗譜が不安で、なかなか思うように歌うことができずかなり悪戦苦闘した。細かいフランス語の発音と、「歌詞をもっと感じて、リラックスして歌って。」とのアドバイスがあった。また、やはり語尾の曖昧母音を、体を締め付けて強く歌ってしまうので気をつけるように、とのことであった。

第5回レッスン・コンサート 8/14

午前中に発声を見て頂いた。「コンサートがあるから軽めに」との事で、10分程スタッカートの発声練習をした。とにかく下顎を楽に、ということで先生が私の両頬をおさえて、その状態で歌った。先生に譜面台を用意するかと聞かれたが、頑張ります!と答え、暗譜で歌うことになった。今回は、普段のレッスンの伴奏者であるAlessandro先生が本番も伴奏して下さることになった。

16時半からホールでリハーサルをし、17時からコンサートが始まった。先週一度ホールで歌ったせいか、今回は会場の響きや客席の空気などを感じながら少し落ち着いて歌うことができ、気持ちが良かった。歌い終わって会場の外に出ると、クラスメート達が、「表情豊かでとっても良かったよ!」などと声をかけてくれて、とても嬉しかった。

第6回レッスン 8/15

午後にG.FauréのAuroreを見て頂いた。「鼻母音が鼻にかかりすぎて声がつぶれてしまうから、鼻と口の奥に十分空間を感じて歌って。」とおっしゃった。また顎が動き過ぎるとのことで、顎はできるだけ動かさず、舌の位置をかえて言葉を発音するように、とのことだった。また、「全部の音が生きているように」とおっしゃった。別れ際、「よく頑張りました。あなたの努力が見えて嬉しかったわ。この調子でまた日本でも勉強を続けてね。また会えるのを楽しみにしています」と抱きしめて下さった。

研修を終えて

振り返るとあっという間ですが、非常に充実した時間を過ごし、講習を終えた時には、一年くらいニースにいたような気さえしました。音楽を学ぶことができる幸せ、そして、本当に音楽が好きだということを、この貴重な体験を経て改めて実感しています。

また、今回、ニースに着いて早々、アカデミーのホームページに載っていたバスの情報が間違っていて、海岸沿いを延々歩き続けたり、トラブルもいくつかありましたが、毎回親切な方に助けられ、人のあたたかさを実感する機会にもなりました。

レッスンはもちろんですが、世界中から集まってくる他の受講生との交流からもたくさん得るものがありました。一緒に野外コンサートに行ったり、ご飯を食べたりお茶をしながら音楽について語り合った時間は、私の大切な思い出です。音楽に対する姿勢や、考え方など、非常に刺激を受けました。

そして何より、フランスの空気に触れ、フランス語に浸って生活したということが、私にとても大きな影響を与えてくれたと確信しています。この講習を終えて、フランスに留学したいという思いがますます強くなりました。

私は不器用ですし、何をするにもとても時間がかかります。音楽を勉強する上で、挫けそうになることも多々あります。ですがこの体験をとおして、諦めずに私らしく、これからも少しずつ前に進んでいこうと強く心に決めました。

最後になりましたが、このような素晴らしい機会を与えて下さいました、学生生活委員会の先生方、学生支援課の皆様、いつも熱心に、そしてあたたかくご指導下さる澤畑恵美先生、私を励まし支えてくれる家族や友人、見守ってくださる全ての方々に心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

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