くにたち未来プロジェクト~楽器製作・100周年に向けて~
2009年12月、キャンパスのシンボルでもあった中庭の木々の伐採が始まりました。
新校舎建設のための土地を確保しなければならず、議論を重ねた末、苦渋の決断が「伐採」でした。
玉川上水に移転してから約半世紀を共にしてきた木々たち。人の背丈にも満たなかった高さも、校舎3階分ほどにまで成長し、その年月の重さを感じました。
“くにたち”らしい形で、どうにかして残したい。
ならば、“楽器”として生まれ変われないか。
そのような声があがり、「くにたち未来プロジェクト」として、伐採した木々の楽器製作・再生プロジェクトが進行することになりました。時を重ね、新しい命を吹き込まれる木々。現在~未来へ向けたメッセージをお届けします。
Vol.1「この木は楽器に生まれ変わる日を待っています」
新校舎の建築にあたり、庭園の木材をやむを得ず伐採しなければならなくなったとき、「楽器として生まれ変わってもらいたい」という声があがりました。楽器用の木材の処理には時間がかかります。楽器になって生まれ変わるのは、きっとまだ何年も先のことでしょう。伐採された木材は、自然の力でゆっくりと乾燥してゆきます。このような天然乾燥が、楽器製作には最適とされています。
木材なら何でも楽器にできるのでしょうか。
もちろん、そうではありません。木材の種類や状態、大きさなどによって、楽器に生まれ変われるものとそうでないものが存在します。まず、木材の種類によって、楽器の響板や外装材など、それぞれ使える場所が異なります。まさに適材適所といえます。さらに木材の中にひび割れや虫食いなどがあれば、その部分は使うことができません。育った場所と天候によって、年輪の幅も異なり、できあがった楽器の音色に大きな影響を及ぼします。
やむを得ず伐採しなければならない庭園の木材は、楽器にすることに決まりました。そこでまず、楽器にできそうな木材を一本一本選んで行くことになりました。当初、使える木材は選んだうちの半数程度だと予想されました。状態の良くない木材が混在していることが予想されたからです。しかし、伐採された木材は、いずれも素晴らしい状態でした。良く陽のあたる広い庭に適度な間隔を置いて植えられた木材は、下草がきれいに整えられていたこともあり、極めて良い状態で生育していたのです。
伐採された木材が楽器に変わるのは、まだ何年も先のことです。今回からしばらく、ずっと昔に製材された材料を用いて行われている楽器作りをご紹介します。2004年にスタートした新しいカリキュラムには、楽器を製作できるコースが新設されました。また、別科調律専修では、ピアノを1から手作りする授業があります。写真は、製作中のピアノの響板の製作風景です。響板はピアノの音を作り出す最も大切な部分ですので、木材も特別なものが選ばれます。
ピアノの響板に最適とされるのは、スプルースと呼ばれる木材です。残念ながら伐採した木材の中にスプルースはありませんでした。もっとも、もしあったとしても響板には使えなかったことでしょう。東京は、響板に使うスプルースが育つには温かすぎるのです。響板には、寒いところで育ち、目が細かい木材が必要なのです。ピアノの響板はとても大きいので、細い板を何枚もはぎあわせて作られています。細い板は、すべてきれいな柾目になっています。このようにすると音が良く響くことを先人が見つけ出したのです。
これは、現在作成しているチェンバロの外装です。今回伐採した木材の中には、チェンバロの外装にぴったりのケヤキの木が何本もありました。ケヤキは耐湿・耐久性が高く木目も美しいので、外装材にはちょうど良いのです。庭にあった太いケヤキは、和太鼓の胴などにも使えるでしょう。ただ、乾燥させるのにとても時間がかかります。良く乾燥しないうちに楽器に使うと、楽器が歪んでしまいます。