国立音楽大学

オルヴィエート夏期国際講習会(イタリア・オルヴィエート)

山中 奏子 4年 演奏学科 声楽専修

研修概要

研修機関:SPAZIO MUSICAによるオルヴィエート夏期国際講習会
研修期間:2015年8月20日~8月31日
担当講師:Gabriella Ravazzi

研修目的

・オペラの本場のイタリアで、声楽の発声面、技術面を学ぶと共に表現の仕方を学びたい。
・各国の講習生と積極的に話し、各国の文化などについて知識を深めたい。
・オペラ公演に参加することによって、日本とのオペラの現場の違いを体験したい。

研修内容

1日目(8月20日16時~19時)

講習初日は講習生全員の声を聴くことをした。一人一人歌っていき、先生がそれぞれの良いところ、直さなければいけないことを一言ずつ言って、その場で少し直される人もいた。講習生は16人で、イタリア各地、フランス、エジプト、エストニア、ロシア、グアテマラから来ていた。日本人は私を含めて3人いた。
私はHändel作曲オペラ《Rodelinda》よりMio caro bene!を歌った。「上のポジションは良いのだが息の使い方が邪魔をしていて、横隔膜が支えきれていない」と教えて頂いた。そこで少し直していただいた。息を吸うとき、お腹の前だけを使うのではなく、後ろもしっかり使うことを先生のお腹を触らせて頂いて把握し、私の前のお腹をつかんで、ここでは駄目ということを教えて頂いた。

2日目(8月21日16時~19時)

本格的なレッスンが始まった。レッスンを講習生全員で聴いて勉強するというレッスン方法。1人あたり15~30分のレッスン。レッスンしている時も時折先生は、全体に向かってお話しされ、今の歌い方は違うことの説明や、歌詞が聞こえたか、どこが良かったか悪かったかなど問いかけもされた。イタリア語が母国語ではない講習生には今の説明分かった?と確認して下さる時もあり、分からなかったときはまたゆっくり説明して下さった。
私は初日に引き続きMio caro bene!を歌った。前日直されたことを意識して歌うことができ、良くなっていると言って頂いた。新たな課題は子音が聞こえないことであった。この課題は私も以前から自分の歌で気になっていることだった。T,D,N,Rの子音の発音する位置、子音を言うところと歌うポジション(頭の後ろ)の距離を離して考えることを教えて頂いて歌うと、自分でもしっかり発音できている感じがした。また、16分音符で転がすところは、しっかり1音1音に音があるように歌うことを指摘された。音が流れないように意識することは難しいことではなかったが、意識しないと充分に行うことができないので、しっかり意識しようと思った。

3日目(8月22日16時~19時)

この日は順番が回ってこなかったので、自分のレッスンはなかった。先生はVaccajで歌うことの基本を学ぶことを大切にされており、他の講習生はVaccajを見て頂いている人が多くいた。テンポ通りに歩きながら歌ってみることを、ある講習生のレッスンの中で言われ、実際にやってみると、その講習生はなかなかテンポ通りに歩けず、拍からずれてしまっていた。先生は他の講習生を呼び、一緒にやってみさせた。しかし、2人でやっても上手くいかない。そこで先生は、「日本人はソルフェージュができるから上手くできる。」とおっしゃり私の隣にいた日本人を呼んで1人で実践させた。彼女はしっかりできた。そして私を呼び、やってみると、なかなか緊張したがなんとかできた。しかし歩き方が綺麗ではないと指摘され、その場に残らされ、あと一緒にやりたい人に前に出るように先生がおっしゃり、何人か出てきて、みんなで歩きながら歌った。

4日目(8月23日10時~13時)

順番が回ってきて、レッスンがあった。他のアリアをと言われたので、ドニゼッティ作曲《マリア・ストゥアルダ》のO nube,che lieveをと言うと、「あなたのレパートリーではないけれど、やってみましょう。」と言って頂き、聴いて頂いた。「レパートリーではないから、ポジション間違えてしまっている。でもしっかり息を流せば支えられるから、ちゃんと支えて歌いなさい。」と言って頂いた。

5日目(8月24日10時~12時30分)

今日は順番が回ってこなかったので、自分のレッスンはなかった。他の講習生に、「後ろのポジションを感じさせているけど、声はしっかり前に出ているから。」とおっしゃっていた。先生は頭の後ろの2つのポイントから息を流すことを発声の基本の1つとしていて、でもそれを感じていても、声は前に出ているということを確認することができた。また今日は、オペラワークショップに参加しているソリストのソプラノの方が発声を見てもらっていた。先生がおっしゃることをその方が直すと、また一段と良い声が出ていた。

6日目(8月25日16時30分~19時)

レッスンの順番が回ってきた。次も同じ曲をやりましょうと前回のレッスンで先生がおっしゃったので、再びO nube,che lieveを歌った。最後のhigh Bでの伸ばしが上手く出来ず、そこを改善するために、sopracutoを聴いて頂いた。全部上にホワホワッと感じてしまっているから、まっすぐ感じるようにと言って頂き、やってみると、自分でも納得のいく音が出て、先生もそちらの方が良いとおっしゃって下さり、講習生たちも頷いて聴いてくれた。この日のピアニストはオペラの合唱指揮の方で、その方からもアドヴァイスを頂けた。よく付点のリズムを読んで、もっと勇敢な感じにすると良いとおっしゃっていただいた。弾きながら歌って下さってとても分かりやすかった。

7日目(8月26日11時30分~13時)

今日はお休みと思っていたら急遽レッスンが入った。最初の20分ほどピアニストが来ず、誰か弾けないかという雰囲気だったため、私がピアノを弾くことにして、ピアニストが来るまで弾いた。順番が回ってこなかったので、自分のレッスンはなかったが、他の講習生のレッスンを聴くことはとても勉強になった。先生も「他の人に注意していることは、自分にも生かしなさい」とおっしゃっていて、たくさんの生かせることが毎回のレッスンで発見できている。それを実践することはなかなか難しいが、しっかり覚えていてだんだんと生かしていきたいと考える。

8日目(8月28日9時~10時45分)

この日はオペラの舞台稽古があったため、先生は演出をされているのでレッスンは早く終わった。順番は回ってこなかったが、この日も多くのことを学んだ。歌い終わりにしっかり、喉の後ろを開けて次への準備をすること、話すときもその筋肉を意識することの大切さを感じた。話すときも響きがある話し方にしなければいけない。

9日目(8月29日16時~18時)

今日は最終日の修了演奏会で歌う曲の確認を行った。まだ決まっていない人が歌っていき、私は先生から初日に歌ったMio caro bene!が良いと決めて頂いていたので歌わなかった。

10日目(8月30日17時~18時)

前日に歌わなかった人が曲の確認のため歌ったので、私も歌った。ポジションが全部閉まってしまっているから気を付けるようにと一言頂いた。前日にオペラの本番があったこともあり、講習仲間も先生も少し疲れ気味であった。

最終日(8月31日)

10時40分から13時過ぎまで、修了演奏会の会場でリハーサル兼レッスンがあった。外観からは想像が出来ない、近代的な作りの内装で、講演会などができそうなスクリーンのついている舞台。60人ほどの定員のホール。通して歌って、一言ずつ先生が感想をおっしゃっていく方法で進み、私の時は、両手を降ろしたまま歌わないで、手も動かして表現しなさいと言って頂いた。なかなか動かすことは難しかった。終わった後、もう少しレッスンの必要な人の名前が呼ばれ、18時からレッスンするということだったので、私は呼ばれなかったが、聴きに行った。歌うには絶対coraggio(勇気、決意など)が必要で、恐れがあると歌えない、ということを学んだ。

修了演奏会

21時15分から修了演奏会が始まった。地元の方々、オペラの関係者など多くのお客様が来て下さった。ピアニストは、オペラのコレペティもしている方で、最後の3日間しかレッスンに来ることができなかったが、とても素晴らしいピアノを弾いてくださった。先生に教えて頂いたことを意識して歌い、手も少しではあったが、表現することができた。終わった後、講習仲間、オペラでご一緒した地元の方々にBrava!と声をかけて頂き、とても嬉しかった。先生に感想を伺ったところ、良くなってきているからこれからも勉強を続けなさいとおっしゃって頂いた。

オペラ公演

オペラ公演が行われたマンチネッリ劇場前にて
オペラ公演が行われたマンチネッリ劇場前にて

8月29,30日にオペラ≪蝶々夫人≫の公演がオルヴィエートのマンチネッリ劇場であった。講習生全員合唱で参加し、地元に住んでいる方も何人か参加していた。この公演は講習会と同時に開催されているオペラワークショップであり、勉強に来ている人は、ソリストだけではなく、指揮者も10人ほど来ていた。時間を決めて指揮者の交代の合図があり、いつも違う指揮者が振っていた。本番も当日になるまで誰が指揮をするのか私たちは分からなかった。

合唱稽古は私がオルヴィエートに着く前から始まっており、着いた日から早速稽古に参加した。蝶々さんと一緒に入場する友人たちのパートは埋まっていたので、後から入ってくる蝶々さんの親戚パートをさせて頂いた。蝶々さんと入場するパートの人たちは、和傘を開いたり閉じたり、後ろを向いたりするなど、歌詞や音をキッカケに動くところが何か所かあり、なかなか難しそうだった。親戚は母、叔父、叔母、従妹の4人で、私は従妹の役をもらい、蝶々さんの嫁入り道具(扇子や髪飾りの入った風呂敷)を渡すことをした。
本番3日前からは劇場でオーケストラ付き立ち稽古だった。演技をしながら指揮を見ることはなかなか難しく、ずれてしまったりしていたが、馬蹄形の客席、シャンデリアを舞台から見るとこが嬉しく、とても楽しい稽古であった。
本番前日は19時からGP。早めに来て、合唱仲間の着物の着付けをした。人に着せることはなかなか難しかったが、帯の締め方など事前に勉強していたので役に立った。
本番は両日とも21時15分から本番だったが、2日目は15分押しで21時30分から始まったようであった。
レッスンと並行して連日の稽古は少し大変なこともあったが、とても勉強になった。また、舞台入りしてからは午前中にソリストのオケ合わせがあり、見学が自由だったので2回ほど観に行き、本番を観られない分、すべての幕を観ることができた。ソリストの方はどの方もとても素晴らしかった。私もいつの日かこの舞台にソリストとして立ちたいと思った。

講習生との交流

色々な国から来ていてもイタリア語を学んで来ており、イタリア語でお話しすることができた。分からない時は英語も混ぜて話してくれた。オペラの稽古がお休みの日があった時、先生に何年か習っているイタリア人の講習生から一緒に勉強しようと誘われ、イタリア人、フランス人2人、日本人2人で歌の勉強会をした。みんなで発声をしたり、Vaccajを歩きながら歌ったりした。その勉強会の後、いま勉強しているグノー作曲オペラ≪ファウスト≫の宝石の歌をフランス人の講習生に聴いてもらった。イタリア人の講習生も聴いてくれ、表現のアドヴァイスをくれた。フランス人の講習生は、イタリア語で訳を言ってくれ、こういう表現が合っていると身振り手振りで教えてくれた。
またエジプト人のコントラアルトの講習生にピアノを弾いてほしいと頼まれ、2回一緒に練習をした。彼女は英語のほうが得意なのだが、私はイタリア語で話そうと言い、イタリア語で会話をしながら練習した。アドヴァイスしようと思っても、なかなか適切な言葉が出てこず、ボキャブラリーの少なさを感じてしまったが、あまり聴く機会のないコントラアルトのとても良い声を間近で聴け、知らないシューベルトの歌曲、ラフマニノフの歌曲を弾くなど良い経験ができた。

生活について

講習会が用意するアパートに宿泊した。アパートはオルヴィエート市内にいくつもあり、多いところで6人が暮らすところもあった。私は3人で暮らした。1部屋に2つベッドがあり、そこを日本人の講習生と使い、リビングにベッドがあり、グアテマラの男の子で同い年の講習生が使った。食事は自炊で同じ部屋の方と食事をした。稽古がつまっていた時は、稽古場でパニーニだけなど軽食で済ませることもあった。
レッスン会場、稽古場、劇場、練習室は全て徒歩圏内にあり、遠くても歩いて20分くらい。レッスンと稽古がそのまま続いてあった時は、カルミネという小さい劇場のようなところでレッスンをした。他には小学校でレッスンがあった。
練習室はフニコラーレ駅の近くの音楽学校にあり、開いていれば自由に使うことができた。そこは講習会の事務局もおかれているところで、時間によってはカギがかかっていて、タイミングが悪いと使えなかった。練習室もレッスン会場も天井が高く、良く響き、歌っていてとても気持ち良かった。
オルヴィエートは街全てが昔のままという感じで、近代的な外観の建物はなく、全て歴史のありそうな建物であった。観光地なので、お店も多かったが、店員さんはみんな優しく親切だった。スーパーは20時までしか開いてなかったが、日曜もやっていてとても助けられた。

研修を終えて

今回の研修でたくさんのことを学ばせて頂いた。きちんとした発声、楽譜をしっかり読むこと、ソルフェージュの大切さ。どれも当たり前のようなことかもしれないが、イタリアに行って、このことをより深く感じた。実際にすべてきちんとできていれば、自然と良い音楽ができているということを実感することもできた。自分がどういう音楽をしたいのかという音楽に対する考えを新たにし、より良い声を目指して自分を磨く喜びを感じることのできた研修であった。いつの日かこの地でソリストとして舞台に立てるようにこれからも精進していきたい。

最後になりましたが、国内外研修奨学生として講習会に参加させて頂ける機会を下さいました学生生活委員の先生方、学生支援課の皆様、語学の先生方、奨学生として決まったときに声をかけて下さった先生方、いつも親身にご指導下さる澤畑先生、石上先生、応援してくれた友人、家族に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

久保田真澄先生のコメント

山中さんはイタリア・オルヴィエートで開催される夏期国際講習会に参加されました。この地でGabriella Ravazzi先生の下、発声、ディクション、楽譜の読み方、ソルフェージュなど演奏をしていく上で一番の核になることを学ばれました。
イタリア、ロシア、エジプト、エストニア、グアテマラ、日本と国際色豊かな講習生と共に充実した研修を行ってきたようです。レッスンは講習生全員で聴きあいながら行われ、先生もレッスンをしている生徒だけではなく聴講している生徒にも問いかけながら進行する形で、客観的に先生の言葉を聞くことが出来たことも大きな収穫になったようです。また同地で開催されているオペラワークショップにも合唱として参加し、馬蹄形の客席とシャンデリアというヨーロッパの歴史を感じることのできる劇場の舞台に立てたことと最終日に出演したコンサートは研修の中でも大きな経験になり、声楽家として演奏活動を行っていきたいという目標をこれまでよりも強くされました。
これから国際的に活躍をしていく上で大事になるのは語学力ですが、講習会の期間中積極的に先生、講習生とコミュニケーションをとったことも大きな財産となるに違いありません。
今回の研修で自らの夢を確信することが出来、また身に着けていかなければいけないことをしっかりと自覚が出来た山中さんの更なる飛躍を願っています。

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