ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミー(フランス・ティーニュ)
橋詰 香菜 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)
研修概要
研修機関:ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミー
研修期間:7月31日~8月22日
担当講師:ブルーノ・リグット先生、ジャック・ルヴィエ先生
研修目的
2年前、このムジークアルプ夏期国際音楽アカデミーに参加した際、様々な刺激を受けた。世界で活躍する著名な先生方のレッスンを受講・聴講し、先生方の音楽・音ひとつひとつに対しての捉え方、演奏する上での体の使い方、言葉での表現の仕方など、仰る事全てが新しい発見であり課題も多く見つける事が出来た。また、様々な国の受講生の皆さんと関わり、様々な個性のある演奏を聴くことで刺激を受けたり、ヨーロッパの自然豊かな環境の中で、毎日リフレッシュしながら過ごすことで自分自身を見つめ直すことも出来、とても充実した毎日であった。そしてそのような環境の中で再び学び、2年前とは違う新たな発見や課題を見つけ、自らの成長に繋げる機会としたい。
研修内容
《一週目:ブルーノ・リグット先生》
リグット先生のクラスは、10日間のうち45分のレッスンが5回行われた。
1回目のレッスン(8月2日)
リスト 巡礼の年 第3年 より エステ荘の噴水
ドビュッシー 前奏曲 第1集 より 2、帆 5、アナカプリの丘
1曲目を演奏した後、2年前に受講したことを覚えていてくださり、「とても成長したね!」と仰って頂き嬉しかった。そして「全体として良いのだけど、この曲はピアノではなく水に聴こえるように弾かなければいけない」と仰り、先生が弾いてくださった。先生の演奏は本当に水そのもののような音色であり、様々な種類の噴水が見えるようであった。その後そのイメージを持ちながら弾くと「よくなった!」と仰り、さらに水の入ったペットボトルと紙コップを取り出し、私が弾いている横で紙コップに水を注ぎながら笑顔で頷いて下さった。
2曲目は、「もっとイメージを持つように」「ここは帆が穏やかに揺れているところ、ここは太陽が射したように」などと細かく曲の情景を説明してくださった。また、楽譜に帆が浮かんでいる様子の絵を書いてくださり、「楽譜ではなく絵をみて弾くように」と仰った。
3曲目は、「全体的に真面目に弾きすぎだから、もっと自由に弾くこと」と注意を受け、横で先生が歌い演奏を引っ張っていってくださり、音楽を感じながら自由に弾くことの感覚を以前より得る事が出来たように思う。
2回目のレッスン(8月4日)
ドビュッシー 前奏曲 第1集 より 7、西風の見たもの
通して演奏した後、「この曲は素晴らしく嵐を表現している曲だから、そのキャラクターをもっと大胆に表現すること、ピアノを弾くと思わずに嵐を弾いて」と仰った。そして最初から細かくタッチの種類や、フレーズの作り方についても説明して下さり、曲のキャラクターを表現する事が出来るようになったように思う。また、音の粒がうまく揃わない箇所があり、どうすれば良いかと質問すると、「指で弾くだけじゃなく、指と耳を連動して作りなさい、耳をよく使えば必ず粒は揃う」と仰った。そして先生が演奏してくださった。先生の演奏はとてもパワフルで大胆であり、嵐の恐ろしさと不気味さを感じさせる演奏であった。一回目のレッスンでも感じたが、イメージをはっきり持つことで音が変わることを実感出来るレッスンであった。
3回目のレッスン(8月5日)
ベートーヴェン ピアノソナタ 31番 Op.110
通して弾いた後、「この曲はとても難しい」と仰った。そして私の演奏に対し「生き生きとしすぎている、これからを前向きに生きていこうという演奏に聴こえる、人生を悟って弾かなければならない」と仰り、先生が冒頭部分を弾いて下さった。先生の演奏は1音目から心が奪われる暖かい音色で始まり、過去の思い出をひとつひとつ大事に思い出しているように、指先からじんわりと音をひとつひとつ作り上げていくように演奏されていて、こうやって演奏しなければいけないのだ、とこの曲の難しさを改めて目の当たりにした。そしてアーティキュレーションの処理やタッチのテクニックなどのアドヴァイスなども頂いた。最後に「難しいけど、必ずあなたも出来るはず。頑張ってね」と仰って下さり、諦めずにこの曲に向きあっていきたいと思った。
4回目のレッスン(8月7日)
デュティーユ ピアノソナタ 第3楽章 「コラールと変奏」
通して弾いたあと、テンポについて「全体的に速く弾きすぎている、デュティーユが楽譜に指示した通りのテンポで弾くこと」「休符の意味やフレージングについて、各変奏のキャラクターについてもっと考える必要がある」と仰って頂いた。冒頭のコラール部分は「鍵盤を押さえつけるのではなく、ピアノ全体で響かせるように」などとタッチの種類についてや、ペダルの使い方についてアドヴァイスを頂いた。第1、2変奏の難しいパッセージの練習方法なども細かく指導して頂いた。第3変奏は、銀河のイメージを持って幻想的に弾くこと、第4変奏は拍感を大事にし、正確なテンポで弾くこと、など各変奏ごとにキャラクターを出しやすいようにアドヴァイスを頂いた。
5回目のレッスン(8月9日)
デュティーユ ピアノソナタ 第3楽章 「コラールと変奏」
前回のレッスンで注意を受けたことに気をつけ練習をし、もう一度レッスンして頂いた。 まだテンポが確実じゃないため、自分の体の中にテンポを養う必要があるとアドヴァイスを受けた。また、「デュティーユに会った時、デュティーユがこの部分は本当に美しく弾かなければならない」と仰っていたというお話もして下さった。前回よりも曲のキャラクターを掴むことが出来るようになったが、基礎となるテンポを体の中で感じられるようになるために、丁寧に練習を重ねることが必要だと改めて思った。
《2週目:ジャック・ルヴィエ先生》
ルヴィエ先生のクラスは、10日間のうち1時間のレッスンが4回、最後に30 分のレッスン1回の計5回のレッスンが行われた。
1回目のレッスン(8月12日)
リスト 巡礼の年 第3年 より エステ荘の噴水
一度通して弾いた後、「すごく良いけれども、色が足りない。」と仰り、最初から細かく色の違いを丁寧に指導していただいた。そして「色の違いを頭で理解していても本当に変えたいと君が思わないと変わらないよ」という言葉がとても印象的であった。「冒頭はハープのように」などと様々な楽器をイメージして弾くことや、「右手と左手が別の場所で聴こえるように」など距離感、奥行きについてもアドヴァイスを頂いた。そして音の種類や距離感への意識の低さに気付き、自分の課題であると思った。また、どんな曲でもすべての音をどんな音色にするべきか、ひとつひとつ選びながら音楽を作る必要があるのだということに改めて気付いた。
2回目のレッスン(8月14日)
ドビュッシー 前奏曲 第1集 より
2、帆 5、アナカプリの丘 7、西風の見たもの
1曲目を弾いた後、「すごく良い、ただテンポを正確にするともっとよくなるでしょう」と仰り、楽譜に書かれているテンポで弾くこととアドヴァイスを頂き、テンポを正確に弾くと、とても弾きやすく曲の流れを掴むことが出来、「ほら、こっちの方が素晴らしいでしょ」と仰って頂いた。そして先生が弾いて下さりながら、強弱の変化にもっと忠実に弾くこと、効果的なペダルの使い方などについてもアドヴァイスを頂いた。
2曲目は、弾きにくい部分について指導して頂いた。そして弾きにくい部分は、準備の遅さや、拍の感じ方が原因となっていたことに気付くことが出来た。また様々な練習の仕方も細かく教えて頂いた。弾きにくい部分や弾けない部分には何かしら原因があり、それを見つけ練習の仕方を選び練習することが大切だと気付いた。
3曲目は、「嵐を表現出来ていて素晴らしいけど、f の音質はもっと耳が痛くなるように」とアドヴァイスを頂き、もう一度通し、全体的な流れをとめないように、と注意を受けた。
3回目のレッスン(8月16日)
デュティーユ ピアノソナタ 第3楽章 「コラールと変奏」
通して弾いた後、「冒頭はfff ではなく ff だから、弾きすぎない事」と注意を受けた。ペダルの切り替え部分についてもアドヴァイスを頂いた。第1変奏冒頭部分は、「指だけでなく腕を使ってリズミカルに弾くこと」と仰り、丁寧に腕の使い方について指導して頂いた。指をしっかりさせ腕を軽く使うことで、テンポが速くなってしまったり、転ぶのを防ぐことが出来ることを発見できた。第 2 変奏は「速いパッセージでもクラリネットなどの音のイメージを持つこと、もっと色の変化を付けること」、第3変奏はペダルの効果的な使い方や、「主となるテーマ以外は ppp であるため、テーマを色づけているだけだから何もないように弾くこと」と仰った。第4変奏は、「テーマにもう少し意識を向けること」と注意を受け、弾きやすい指使い、アクセントの弾き方、強弱の付け方について細かく指導して頂いた。
4回目のレッスン(8月19日)
デュティーユ ピアノソナタ 第1,2楽章
2楽章とも通して弾いた後、「いつものように良く弾けているよ」と仰って頂いた。ただ、unacorda の使い方について、「足に任して使うだけでなく耳も使わなくてはならない、小さくしたいときに使うものではなく音を作るためのもの」と説明して頂き、una cordaを有効的に使うことと注意を受けた。また、una corda を踏まない時の左足を置く最適な場所はペダルの真横である、と教えて頂いた。また、「全体的に前かがみになって弾きすぎている、体をまっすぐにして弾くこと」とアドヴァイスを頂き、体を動かさずに演奏すると、難しいパッセージも冷静に音を聞けるようになり、テンポや音をコントロールすることが出来た。難しくて弾けなかったパッセージも先生が仰ったように練習すると難なく弾くことが出来るようになり、「弾けるようになるんだから、たまには冷静になって考えて」とアドヴァイスを頂いた。
5回目のレッスン(8月21日)
ベートーヴェン ピアノソナタ 31番 Op.110 第1楽章
最後のレッスン時間は 30 分と短かったため、1楽章のみレッスンして頂いた。通して弾いた後、指先の使い方について指導して頂いた。「指先が浮く瞬間がないように」「いつも発音して、よく語らなきゃいけない」とアドヴァイスを頂いた。「細かいパッセージのときに親指が浮くことが多いから気をつけること」と注意を受け、親指の使い方についてもアドヴァイスを頂いた。
レッスン以外の生活について
全てのレッスンが聴講自由であったため、レッスン以外の時間は沢山のレッスンを聴講した。様々な先生方、受講生のレッスンを聴講する事で、客観的に聴いて気付く事や、自分自身の課題にも繋がる部分、自分の演奏に活かせる部分など沢山のヒントを得ることが出来た。また、練習は毎日3~4時間程、ホテルにある練習室で行うことが出来た。レッスンは、ホテルから徒歩またはバスで移動した所で行われた。
コンサート
10 日間のうち計5回ずつ、夜に先生方のコンサートが開かれた。毎回毎回沢山の感動を得る事の出来る、贅沢な時間であった。毎回、私も先生方のように聴いている方を惹きつける演奏をしたいと強く思った。また講習会の最後の2日間には、受講生によるスチューデントコンサートが行われ、2期とも出演させて頂く事が出来た。1週目は、リストのエステ荘の噴水、2週目はドビュッシーの帆と西風の見たものを演奏させて頂いた。様々な国の受講生や一般のお客さんの前で演奏することはとても緊張したが、思い切って自由に演奏することが出来、とても貴重な経験をさせて頂いた。
研修を終えて
今回研修をさせて頂き、とても充実した約3週間を過ごさせて頂く事が出来ました。2年前にも参加していたため、どのようにレッスンが行われ、生活するのかなどわかっていた事もあり、2年前よりも気持ちに余裕を持ちながら、学ぶことに集中できたように思います。新鮮な気持ちで改めて音楽に向き合えたこと、沢山の課題を見つける事が出来たこと、先生方に自信にすべきお言葉を頂けた事、色んな場所色んな状況で音楽を学んでいる方との交流を通して気付いたこと、先生方の演奏を聴いて改めて音楽の持つ力、素晴らしさに気付けたことなど、楽しいことや嬉しいことだけでなく、自分自身や自分の演奏について悩んだりする事も多くありましたが、それら全てが貴重な学びとなりました。今回得た全ての事を生かし、聴いて下さる方に感動を与え、救いとなる音楽が出来るよう、精進していきたいと思います。
国内外研修奨学生として、このような素晴らしい機会を与えて下さいました大学関係者の皆様、学生支援課の皆様、いつも熱心に指導して下さる先生、お世話になった友人、家族、すべての方々に心から感謝致します。本当にありがとうございました。
進藤郁子先生のコメント
ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミーに、二度目の参加となる橋詰香菜さんは、前回、大いに刺激を受けた経験を生かし、更に充実した貴重な時間を過ごされました。
リグット先生のレッスンでは、前回の受講を覚えていてくださり、「成長したね!」の嬉しいお言葉を頂き、自信を持って前向きに取り組まれました。毎回、先生の素晴らしい演奏に接し、その中から多くのことを感じ取り、学ばれた様子が伝わってきます。
ルヴィエ先生のレッスンでは、「色の違いを頭で理解していても本当に変えたいと君が思わないと変わらないよ」という言葉がとても印象的であった、と記述されています。
まさしく、自から求める姿勢の大切さと、どの曲でもすべての音をどのような音色にするべきか、自分自身で、ひとつひとつ選びながら音楽を作る必要があるという、新しい気付きを得られました。また、様々な練習の仕方、腕の使い方、指先の使い方、姿勢なども丁寧にご指導頂き、演奏しやすくなる事を実感できました。
感性豊かな橋詰さんは、今回の研修で益々、自分を高める意欲を持たれた事と思います。
今後のご発展を、期待しております