草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル
新井 千晶 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修
研修概要
研修機関:草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル
研修期間:2015年8月17日~8月30日
担当講師:クリストファー・ヒンターフーバー教授
研修目的
2週間集中できる環境に身を置き、世界で活躍する音楽家たちの音楽に触れること、音楽的表現や技術を磨くこと、音楽に対する気持ちを改めて見つめなおすことを目的とし、このアカデミーに参加した。
研修内容
レッスンについて
ヒンターフーバー先生のクラスは事前に音源オーディションがあり、前半、後半だけ参加した生徒を含め13人の受講生がいた。1人50分、1日3~5人のレッスンがあり、期間中4回のレッスンを受けることができた。休講日以外は毎日9時から12時30分、人数の多い日は15時頃までレッスンが行われた。基本的に自分のレッスン以外の時間は自分のクラスで聴講することになっており、良い刺激を受けることができた。
第1回レッスン(8月18日) モーツァルト ピアノソナタ第18番 第1楽章
1楽章を通して弾いた後、先生がフレーズを作るということがとても大切だというお話をされた。この曲では、ドイツ語という言語をいつも考えること、頂点を作り美しい線を描くことが足りていない、という指摘を受け、様々な部分を取り出してみていくことになった。2小節のフレーズをみただけでも、先生が隣で弾いてくださると、いかに自分が平坦に弾いていたかということがよく分かった。
その後、オペラだと思って物語を作り、構成をはっきりさせることも大事だというお話をされたが、モーツァルトのオペラや他の楽曲を例に出しての説明が本当に分かりやすかった。一つずつのフレーズをとても丁寧にみてくださり、この日のレッスンは提示部を中心に1楽章だけで終わった。
第2回レッスン(8月21日) モーツァルト ピアノソナタ第18番 第2、3楽章
全楽章を通して弾いた後、1楽章は前回のレッスンでみたことで良く変わった部分とまだ変わっていない部分があること、2楽章は音が綺麗だったが控えめすぎたこと、3楽章はリズム感が良かったがテンポをほんの少し上げ元気なキャラクターを出すこと、全楽章を通しては、コントラストをもっとつけてキャラクターをはっきりさせる必要がある、との指摘を受けた。その後、2楽章と3楽章を中心にみて頂いた。
2楽章では、何度も繰り返される同じフレーズがあり、その時にどういう違いを聴かせるか、ということを教わった。和声の違いでバランスや緊張感を大きく変えることができるということで、自分なりに変えてみたがなかなか上手くいかずにいると、先生が少し弾いてくださった。先生の演奏は、それぞれ違いはあるが全てが綺麗に繋がって聴こえてきた。「変えていくことで全体にまとまりが出てくるから、自分でも色々なパターンで試してみてほしい。」と仰った。
3楽章では、主にキャラクターの話をされた。先生は、この楽章は『魔笛』のパパゲーノを思い浮かべると言い、少し動きをつけたり歌ったりしながら弾いてくださり、とても納得することができた。キャラクター同士が対話することが大事だと何度も仰った。
第3回レッスン(8月23日) ショパン スケルツォ 第4番
最初に一度通して弾いた後、柔らかさと美しい響きが良かったとお褒めの言葉を頂き嬉しかった。しかし少し盛り上がりに欠けるところがあり、特に最後のpiu prestoの部分ではテンポや強弱についても工夫し、テンションをあげることが必要、という指摘を受けた。
この日のレッスンでは中間部のPiu Lentoの部分を中心にみて頂いた。ここはテンポも音楽も変わる部分だが、聴く人が長く感じて飽きることを避けるためにどうしたら良いか、ということを教わった。右手と左手と分けて、フレーズや音の作りをとても細かく解説して頂き、それまでとは別の角度から楽譜をみることができたような気がした。
先生は、「右手が旋律で左手が伴奏のここのような音楽の場合、いつも右手がボスなんだ。旋律が何を必要としていて、伴奏はどうしたら良いか。まずフレーズを先に考えて、伴奏はそれを上手に助けてあげてね。」と仰った。「洗練され、よく考えられたrubatoが必要だが、まだ音楽の意味に合う動作をコントロールできていないね。」という先生の言葉で、自分は考えも練習も足りてないと痛感した。
次の日にこの曲でホテルのロビーコンサートに出演しないかというお話を頂き、8月26日に行われるコンサートに出演できることになった。
ロビーコンサート
ホテルのロビーコンサートがどのようなものなのか不安だったが、とてもあたたかい雰囲気で、集中して弾くことができた。アシスタントの先生が聴きに来てくださり、とても良かったという言葉を頂き嬉しかった。人前で演奏できる機会を頂けて、本当に良かったと思えるコンサートだった。
第4回レッスン(8月27日) ショパン スケルツォ第4番
一度通して弾いた後、やはり最後の盛り上がりがまだ足りない、という指摘を受けた。一番最後の音は椅子から立ち上がる位の勢いで、と言われそのつもりで弾いてみたが、まだまだ足りないということで、本当に立ち上がってみて、と言われた。実際にやってみると想像よりも上手くいかず、自分の動きが不自然なことが自分でも分かった。隣で先生がお手本を見せてくださったがとても自然で勢いがあり、「動きで魅せることも大事だよ。」という先生の言葉の意味が分かった気がした。
中間部では、左手の伴奏の動きがまだ旋律を助けてあげられていない、という指摘を受けた。柔らかい動きを作るために水を想像してみて、と言われ少しかえて弾いてみたところ、良くなったと言ってくださった。
また、提示部と再現部で、ショパンが意図的に違う長さで書いているペダルや、クレッシェンド、デクレッシェンドの長さの違いを本当に正確に表現して、と言われ弾いてみると、今までと違う演奏になり、自分の楽譜の読み方の甘さを反省した。
「もっと細かいところまでみたかったけど、道筋は教えたから、自分でどう実践するかが大事だよ。」という言葉を頂き、レッスンは終了した。
レッスンを終えて
ヒンターフーバー先生のレッスンは、楽譜に忠実に音楽をつくること、フレーズの線を美しく描くこと等、今まで分かっていたような気がしていたけれど実際にはできていなかったことの多さ、その大切さを痛感するものだった。先生は、オペラや他の音楽だけでなく、本や映画、自然や生活で起きる様々なこと等を例に出してお話をされていて、ずっと聞いていたくなるレッスンだった。またクラスのレベルも高く、他の受講生の演奏を聴きレッスンを聴講するのはとても良い勉強になった。
レッスン以外の生活
毎日、午前中は各クラスのレッスンが行われ、13時~15時頃には様々な先生の公開レッスンが、16時からは先生方をはじめとする世界で活躍する音楽家たちによるコンサートが開かれた。
公開レッスンは、先生方のレッスンの仕方がそれぞれ個性的で素晴らしく、聴講していてとても楽しかった。コンサートは毎日聴くには贅沢すぎるようなプログラムで、オーケストラ、室内楽、声楽、ピアノソロ、どの日も本当に素晴らしい演奏ばかりだったため、とても良い環境だった。
宿泊したペンションは受講生のみで、同じ部屋の方をはじめとても仲良くなることができ、出会いに感謝した。普段も様々な楽器の練習が聞こえてくる環境で、たくさんの刺激を受けた。移動はバスか徒歩で、8月だったが草津はとても涼しく、また温泉街も近く、快適な生活を送ることができた。
研修を終えて
2週間音楽尽くしの毎日で、本当に良い時間を過ごすことができました。悔しい思いをする時もありましたが、レッスンでも聴講やコンサートでも刺激を受け、音楽に対する思いがより深くなりました。先生方に接する機会も多く、一流の音楽家は人としても素晴らしい人ばかりだと感じることができ、本当に良い環境でした。
先生方をはじめ、受講生との出会いもとても大きく、まわりの方々に恵まれて充実した毎日を過ごすことができました。刺激を受け、成長したいと思ったこの経験を忘れずに、今後も音楽と向き合っていきたいと思います。
最後になりましたが、このような貴重な機会を下さった大学関係者の皆様、学生支援課の皆様、いつも熱心にご指導くださる堀田万友美先生に心より感謝申し上げます。この経験を生かし成長していきたいと思います。
本当にありがとうございました。
濱尾先生のコメント
新井千晶さんは、草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティバルに、明確な目的を持って参加され、充実した2週間を過ごされました。
ヒンターフーバー教授のレッスンでは、モーツァルトのピアノ・ソナタをオペラだと想定して物語を作り、構成をはっきりさせて表現することを学び、実際のモーツァルトのオペラのキャラクターや他の様々な作品の知識が、曲の理解に役立つことを実感されました。ショパンのスケルツォでは、柔らかさと美しい響きを褒めて頂き、今後の課題として、旋律を引き立たせるための伴奏法や最後の盛り上げ方を学ばれました。楽譜に忠実に音楽をつくること、フレーズの線を美しく描くことなど日頃指摘を受け、自覚している点を教授のレッスンで指摘され、その大切さを痛感し、真剣に取り組む新井さんの今後の成長を楽しみに思いました。また、ロビーコンサートで演奏発表もでき、教授陣の演奏や受講生との交流なども通して多くの刺激を受け、音楽に対する思いをより強く深くされました。
この貴重な経験を生かして、さらに発展されますよう期待しております。