ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミー(フランス・ティーニュ)
粟谷 明菜 四年 演奏学科 弦管打楽器専修(クラリネット)
研修概要
研修機関:ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミー
研修期間:2015年7月31日~8月11日
担当講師:ロマン・ギュイヨ先生
研修目的
西洋の音楽を勉強するにあたり、自分自身が実際にヨーロッパに行き文化や伝統、習慣を学んだり、自然や景色を体感することで、自分の視野を広げる。そうして、自分の音楽への理解をより深める。また、現地の先生のレッスンを受け、フランスのスタイルを学び表現の引き出しを増やす。
研修内容
ギュイヨ先生のクラスは私を含め全部で五人でした。一回一時間のレッスンを五回、二日に一回のペースで受けました。自分のレッスン以外の時は、他の人のレッスンを全て聴講していました。
第1回目レッスン
コヴァーチ「ファリャヘのオマージュ」
初回のレッスンでは、やはり日本との環境の違いにとても苦労しました。標高や湿度が全然違うため、リードの状態も変わり、音を出すことがとても苦しく感じるのです。そこで先生はまず、リードの保管方法や使い方について細かく教えてくださいました。そのまま、体の使い方や息の使い方、アンブシュアの確認など、基礎的なことを細かく、とにかく丁寧に説明してくださいました。できるようになるまで根気強く何度も教えてくださいました。そのおかげで、今の自分の課題がなんなのか、なぜその問題が起きてしまっているのか、解決するためにはどのような練習をすればよいのかを知ることができました。
曲の解釈についても、この曲を演奏するに当たって大切にすべきこと、曲の背景について、イメージについて、ジェスチャーを交えながらとても分かりやすく説明してくださいました。この曲のタイトルにもある「ファリャ」はスペインの作曲家なのですが、スペインっぽさとは何なのか、スペインの踊りや文化について熱弁してくださいました。
また、曲の中でうまくいかないところがあると、その都度練習方法を提示してくださったり、実際に吹いて(かなり大げさに)表現をしてくださったりと、とても分かりやすかったです。
第2回目のレッスン
モーツァルト「コンチェルト一楽章」(伴奏付き)
この日はピアノ伴奏をつけてのレッスンでした。伴奏がついたことで、とにかく和声感について沢山注意を受けました。古典の曲なので和声自体は複雑なものはあまりありませんが、とにかく全部、どの瞬間も感じ続けるのはなかなか難しいことでした。また、モーツァルトは沢山のオペラを作曲しています。そのため、ギュイヨ先生はこのコンチェルトもオペラのように解釈をしていてとても新鮮でした。ここは結婚式のところ、ここで花嫁が登場するんだ!でもここはちょっと浮気をしていて・・・、ここはドン・ジョバンニのレクイエムの部分を想像して!と、次から次へころころと場面やキャラクターが変わり、実際に先生が吹くと本当にそのキャラクターが登場してきたように感じて、とても面白かったです。技術的にうまくいかないところは、僕は普段こうやって練習しているよ、と吹いて示してくださったり、これを練習するといいよ!と手作りのエクササイズの楽譜を貸してくださいました。
そして、この日も息の使い方について言われました。モーツァルトの曲はフレーズが長いのですが、いつもはどこか途中でブレスを取っていました。それを先生は一息で吹き、ちゃんと効率よく息を使えば持つよ!と言い、息の入れ方や支え方などについて指導してくださいました。
第3回目レッスン
ウェーバー「コンチェルト一番一楽章①」
この日のレッスンでは、音の発音とレガートについて何度も繰り返しやりました。詰めが甘いと何度も言われ、普段どれほど自分に甘く練習していたかを痛感しました。自分の中でもっとクオリティの高いイメージを持ち、そこに到達するまで、自分の納得するまで練習をすることが大事と言われ、レッスン中もできないところは同じところを何度も繰り返してやりました。曲の場面によって発音の種類を変えるために、もっと引き出しを増やした方がいいと言われました。発音が上手くいかないのはブレスを取るタイミングが遅いからだと言われ、今までより気持ち早めにブレスを取って準備をするようにしました。やはり、楽器を吹く上でまず一番大事なのは呼吸法についてだな、と思いました。
また、前回がモーツァルトのレッスンだったこともあり、モーツァルトとウェーバー、20年ほどの差の中で何が変わったか、どう吹き分けるかなど先生の考えを沢山教えていただきました。ウェーバーもオペラ作品を書いていることから、今回もモーツァルトの時と同じようにオペラっぽくジェスチャーを交えながら教えてくださいました。
第4回目レッスン
ウェーバー「コンチェルト一番一楽章②」
この日はリードや仕掛けの問題についてから始まりました。いつもよりリードの調子が悪かったこともあり、今回のレッスンでは先生の楽器を使って演奏しました。とても吹きやすく、仕掛けをどのようにするとよいのかというのをよくイメージすることができました。前回の続きから演奏しましたが、早いパッセージのところなどで、普段のスケールの練習が足りないということを何度も注意されました。フランスではみんな当たり前のように毎日スケールやアルペジオを全調やるけれども、日本はその習慣がないのがよくない、と言われ、根本的な基礎練習の習慣の違いを改めて感じました。
この日は伴奏付きではありませんでしたが、大事なところなど部分的に先生が弾いてくださり、クラリネット的には同じ部分でもオーケストラが入ることでこんなに響きが変わるんだ、と細かく何回もやってくださいました。そして、オーケストラに対してクラリネットはこうあるべきだ、と、オペラに喩えたりしながら吹いて示してくださいました。ピアノ伴奏と合わせてやったことはありますが、オーケストラと合わせてやったことはありません。そのため、伴奏=ピアノというイメージになりがちで、表現の幅が狭まり、固定され気味でした。そのため、もっと鮮明にオーケストラのときの音色感、ダイナミクス、目立つ楽器などをイメージして演奏したいと思いました。
第5回目レッスン
シューマン「幻想曲一楽章」(伴奏付き)
前回言われたことを生かして、リードの選び方やアンブシュア、息の使い方を常に気をつけてレッスンに臨みました。すると、今まで悩んでいたことがうまくいくことが多くなり、その分音楽の表現のことについて沢山考えられるようになりました。それは先生にも伝わったようで、とてもよくなったと言われ、ようやく言われてきたことを自分のものにすることができました。
曲について、この日は伴奏がついていたため、ピアノとの旋律の掛け合い、シューマンのクララへの愛について、細かいニュアンスの付け方を丁寧に教えていただきました。ピアノは伴奏と思わず、デュオをしているつもりでもっとしっかり聞いて!と言われ、相手の動きをもっと気にかけて聞きながら演奏するとだいぶ吹き方も変わりました。フレーズを、クラリネットの譜面の中だけでなく、もっとピアノと一緒に考えて曲を組み立てていくことが大切なのです。当たり前のことですが、それでもピアノ譜を見てそれを一番に考えながら演奏すると曲の印象もだいぶ変わりました。この曲に限ったことではありませんが、今までどれほどクラリネットの譜面だけにとらわれてしまっていたかがよく分かりました。
研修を終えて
自分のレッスンはもちろんですが、他の受講生のレッスンも聴講していてとても勉強になりました。四人ともとても上手で、コンクールや試験にむけてたくさん曲を持ってきていました。曲はかぶっていても、やる場所や楽章が違ったり、人によって違う練習方法を提示してくれたりと、毎回吸収することがたくさんありました。また、自分ではなく第三者がレッスンを受けているのを見るのは、客観的に聴くことができ、新しい発見などがありました。同じ曲をやっている時は特に、なるほど、こういうことだったのかと改めて思うことがありました。私以外のレッスンは通訳無しでフランス語か英語で行われていたのですが、何回も聴いているうちに内容も理解できるようになりました。
夜は毎晩のように講師の先生方の演奏会がありました。クラリネットはもちろん、フルートやオーボエ、弦楽器やピアノなどの一流の方々の演奏を聴くことができ、毎日とてもたくさんの刺激を受けました。
五回のレッスン、そして聴講を通して、技術的なこと、音楽の捉え方、聞くという行為の大切さ、様々なことを学ぶことができました。また、自分の中でのこだわりを強く持つこと、納得するまでやること、沢山のキャラクターの引き出しを作ることなど、当たり前のことですが大切だと改めて考えることができました。加えて、まったくの無伴奏、という時以外は常にアンサンブルをしているということを忘れてはいけないなと思いました。伴奏、というよりもアンサンブルをしている、と思うことでいつもよりも聴くことができたり、曲のフレーズや構成を大きく捉えることができると思いました。固定概念を無くし、視野を広げて柔軟な頭を作ることが大事だと思いました。
レッスンや聴講がない時は、湖を散歩したりリフトに乗ったり、宿泊先のすぐ近くでやっていた収穫祭をまわったりしました。朝早くレッスンがあった日は、体を起こすためにも早く起きて湖のまわりを散歩しに行き、ホテルを出た時はまだ薄暗かったのが、湖に着く頃には完全に日が昇り、それが湖に反射して光る様子は、今まで見た景色の中で一番きれいでした。収穫祭ではサヴォワ地方の特産品の蜂蜜やワイン、また、いろいろなお菓子やハンドクリームなど、手作りのものがたくさん売っていました。見て回るだけでもとても面白かったです。また、その周辺にはレストランやカフェがいくつかあるのですが、どこに入ってもとても食べ物が美味しく、店員さんも気さくで明るく、楽しく食事をすることができました。
ティーニュという場所は、パリより南のシャンベリーという場所へ三時間ほどかけていき、そこからまたバスで一時間半くらいかかるところにあります。とても田舎なところですが、湖や山などの大自然に囲まれ、空気がきれいで、真っ直ぐな気持ちで音楽に向き合うことができました。今回の講習会では、真剣に音楽と向き合えるいいきっかけになったと感じています。
福田隆先生のコメント
粟谷さんは非常に理知的で、浮ついたところがなく、今回の研修のレポートも、レッスンで得られた素晴らしい体験や自分に足りないところを、冷静に見つめたものだったと思います。レッスンごとの内容も、現実的で具体的に理解している事がよく分かります。これから大学院に進むということで、ますます豊かに成長してくれるだろう事を確信しました。今回の研修は、粟谷さんにとって大変、有意義だったと思います。