国立音楽大学

モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー

内川 夏子 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)

研修概要

研修機関:モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー
研修期間:2014年7月28日〜8月9日
担当講師:ジークフリート・マウザー教授

モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミーは、毎年夏にモーツァルトの生地ザルツブルクで開催される「ザルツブルク音楽祭」の一環として、国際モーツァルト財団とモーツァルテウム音楽院が世界の若い音楽家の育成を目的として開催しているもので、1916年の開催以来90年以上の歴史を誇る、伝統・規模ともに全ヨーロッパにおける音楽講習会としては最大のものである。

1期・2期・3期と期間が分かれており、私は第2期に参加した。

研修目的

海外の音楽環境に身を置き、本場の空気を肌で感じながら自分自身や音楽と向き合い、考えを深め、視野を広げることを目的とする。著名な教授たちのレベルの高いレッスンを受講・聴講することや、世界各国から集まる受講生との交流から刺激を受け、学ぶ機会としたい。

研修内容

オーディション、レッスン打ち合わせ

講習会開始の前日に大学で受講登録を済ませ、講習会初日のオーディションの時間と部屋を確認した。マウザー先生のクラスは朝10時からと記載されていた。オーディション当日は練習室を30分間借りることができたので、私は朝9時に予約をしておき、指ならしをしてオーディションに向かった。緊張と不安を抱えながら指定された部屋に着くと、集まった受講生は私を含め3人で、しかも全員日本人であった。少し遅れて先生が現れ、笑顔で私達に挨拶をしてくださった。そして、受講生も少ないのでオーディションではなく全員受講できるとのことで、少し安心した。それぞれ通っている大学や今回用意してきた曲などについて聞かれた後、これからのレッスンの方向性を決めるために一人ずつ少し弾いてほしいと言われた。私はショパンの幻想ポロネーズを聴いていただき、鍵盤と身体の距離が近すぎることや音のバランスが課題であると指摘された。レッスンは6回(各45分間)していただけることになった。

第1回目レッスン(7月30日)

ショパンの幻想ポロネーズOp.61の序奏部分を重点的にみていただいた。ポロネーズの部分に入る前の美しい序奏部分がこの曲でとくに重要で、集中力の必要な難しいところであり、maestosoの雰囲気の部分と幻想的なアルペジオの部分との比較をもっと明確に表現した方が良いと言われた。また、拍子やリズム感が曖昧であることを指摘され、フォルテの部分はもっと厳格に、兵士の行進のようにと説明してくださった。先生が弾いて示してくださった音が、とても重厚で深みがあり、聴き入ってしまった。

冒頭の二つの和音の部分を繰り返し注意され何回も弾いたが、フォルテの音色、ハーモニーの違い、逆付点のリズムのタイミングなど、今まで明確な意識を持って弾けていなかったことに気付かされた。拍子の感じ方やフェルマータの部分の間の取り方、メロディーの歌い方なども教えてくださり、今日みていただいた1ページ半の中にまだまだ表現を工夫するべきところが沢山あるなと思った。

第2回目レッスン(7月31日)

前回の続きの、ポロネーズの部分からみていただいた。

なかなかポロネーズのリズム感を出すことが難しくどう弾けば良いのか迷いがあったが、先生が体を動かし歌いながら躍動感を説明してくださったのがとても分かりやすかった。リズムを体で感じながら弾くことを学べた。

今日はとくに左右のバランスについての注意をされた。左手の伴奏が重音ということもあり、重くうるさくなってしまって肝心の右手のメロディーを聴かせることができていないと言われた。そして、左手はバスのラインを出したいのは分かるが、無理にレガートで弾こうとしなくてもペダルに任せてノンレガート気味に弾いた方が重くならないとアドヴァイスをいただいた。

練習として試しに右をフォルテッシモで左をピアニッシモだと思って弾いてみてとおっしゃったので、そう意識して弾いてみると、より立体的に、二つの層の重なりをはっきりと感じることができた。これは極端な練習だが、左右を弾き(聴き)分けてバランスを作っていくための耳の使い方のコツを少しつかめた気がする。

第3回目レッスン(8月1日)

前回と同じところから始め、少し先もみていただいた。前回より良くなっていると言ってくださったが、メロディーのレガートがうまくできていないことを注意された。ショパンの音楽でとくに重要なのが美しいメロディーラインで、それを表現するためにも指のレガートができないといけない、とおっしゃった。なめらかに聴かせるためにも三連符をテヌートぎみに、強調するような感じで、と先生がメロディーの部分を弾いて示してくださったが、とても密度の濃い音で、レガートとはこういうものなのかと理解できた。

今回でちょうど講習の半分が終わったが、マウザー先生のレッスンは予想以上に細かく丁寧で、私がきちんと理解できるまで繰り返し同じところを聴いてくださり、片手ずつの練習にも付き合ってくださった。不自然なところや少しでも甘い音を出すと指摘されるので緊張感もあり、もっと自分の音に意識と責任を持たなければいけないなと痛感した。次回もショパンの続きをみていただく。

第4回目レッスン(8月5日)

Poco piu lentoの部分からみていただいた。

その直前にある右手の十六分音符からなるカデンツァ的な長いパッセージは、ただひとまとめに一気に弾いてしまうのではなく、フレーズを頭の中で細かく分けて考えるようにと言われた。そのように意識してみると、弾きやすくもなるし音型がはっきり出て表情が豊かになった。

今回も伴奏型がうるさくなってしまうこととメロディーの歌い方について言われた。歌い出しを丁寧に聴かせることや、音程の広がるところをとくになめらかに弾くこと、流れが止まってしまいがちだったのでフレーズを長く意識することなどを教えていただいた。

この部分はsempre pianoであり内向的で穏やかな美しさを表現するのが難しいところだなと思っていたが、先生が弾いてくださった弱音が本当に素敵で、とくにデクレッシェンドをとても美しく効果的に弾いていたので参考にしたいと思った。

第5回目レッスン(8月6日)

前回の続きから終わりまでみていただいた。コーダに向けて盛り上がっていくところの、左手に繰り返される付点のリズムを強調するように弾くと良いとおっしゃった。やりすぎるとしつこくなってしまうが、その左手のリズムを意識するだけでも、急き立てられる感じや勢いが出るようになったと思う。

また、もっとフレーズ感をはっきり出すように、そして楽譜に書いてあるスラーをよく見るようにと言われた。改めて楽譜を見直してみてスラーの通りにフレーズのまとまりを意識してみると弾きやすくなり、フォルテッシモで和音やオクターヴが続くところも脱力のポイントを見つけやすくなった。コーダではとにかく豊かな音量が必要だが、左手のバスの音を思いきり出してピアノ全体を響かせるように、とアドヴァイスをいただいた。先生は、クラスコンサートではこの曲を弾いてもらうから頑張ってね、と言ってくださった。

今回でようやく曲の最後までみていただけたので、次回はベートーヴェンを聴いてほしいとお願いした。

第6回目レッスン(8月7日)

ベートーヴェンのソナタ第31番Op.110の第1楽章をみていただいた。とにかく柔らかく、と何度も言われ、この曲のもつ雰囲気に合った柔らかい音色を作り出す難しさを改めて感じた。冒頭の和音は音色とバランス共にとくに注意をはらうよう言われた。また、音数が少ない時に拍子が詰まって急ぎがちになるので、伸びている音をよく聴きながら拍子を刻んで数える(練習の時は「1、2、3」と声に出しながら)ように言われた。ゆったりとした心地よい流れを崩さないためにもテンポの安定は不可欠であると思った。

レッスンではほとんど先生が弾きながら説明してくださった。音色やテンポ感、間の取り方など、先生の演奏にひきこまれてしまったが、それらを肌で感じることができて、言葉で説明される以上に納得ができたし印象深かった。

クラスコンサート(8月8日)

マウザー先生のクラスコンサートはいつものレッスン室で行われた。緊張はしていたが、この講習で先生から教わったことを色々試してみよう、成果を聴いてもらおうと思い臨んだ。

演奏は、納得のいくところもそうでないところもあり色々反省したが、これからもっとこの曲と向き合い弾きこんでいきたいなと前向きな気持ちになれた。また、レッスンをお互い聴き合い一緒にこの講習を頑張ってきた同じクラスの受講生達と、最後にこのように演奏を聴き合うことができてとても嬉しかった。

先生は笑顔で「ブラボー!」とあたたかい拍手をくださり、一人ずつにディプロムを渡してくださった。そこで講習が終わったことを実感し、ほっとしたのと同時に名残惜しさも感じた。

現地での生活について

ザルツブルクは予想以上に小さな街で、綺麗な街並みとのどかな雰囲気がとても居心地良く、すぐに馴染むことができた。橋を渡った先にある旧市街に観光名所が集中しており、ほとんど徒歩で周ることができた。レッスンがない日はゆっくりと観光することもできた。私は歩くことが好きなので気分転換によく街中を散歩していたが、それだけでも様々な発見や気付きが多くあり、とても新鮮な気持ちになれた。

気温はわりと涼しく過ごしやすかったが、変わりやすい天気で雨の日も多かった。

私は学校から徒歩10分ほどの寮に滞在していたが、朝のひんやりとした空気がとても好きで、清々しい気持ちで毎朝練習室に向かっていた。

私は期間中毎日、朝8時〜10時と15時〜17時に練習室を借りており、その他の時間に空いている部屋で弾くこともでき、落ち着いて練習時間がとれた。広い部屋や良いピアノもそろっており、とても恵まれた環境であると感じた。朝から夜まで、常に練習室からは音が聴こえていた。

研修を終えて

マウザー先生と
マウザー先生と

ザルツブルクで過ごした2週間は、私にとって毎日すべてのことが新鮮で、様々な音楽に触れることができ、本当に充実したものであった。

マウザー先生は素晴らしいピアニストであり指導者であったが、いつも明るく気さくでとても素敵な方だった。みっちりレッスンをして頂けてとても光栄だった。連日のレッスンはもちろん、先生方によるコンサートや選ばれた受講生によるアカデミーコンサートなど演奏を聴く機会も非常に多く、良い刺激を受ける毎日であった。空いている時間は積極的に聴講し、様々な教授のレッスンを見ることができたが、どれも興味深いものであった。外国の方々を見ていて、やはり日本人より意志主張がはっきりとしていて、それが演奏にもあらわれていると感じた。

レッスンでなかなかうまくいかなかったり、レベルの高い受講生達に圧倒されたり、自分に足りていないものがよく見えて落ち込んだり悩んだりすることも多かった。この先音楽を続けていくうえでの不安や難しさも痛感した。しかし、自分と向き合い、音楽とどう関わっていくべきかを改めて考える良い経験となった。

日本を離れて、いつもとは全く違う環境の中でじっくり勉強できたこの2週間は私にとってかけがえのないもので、これからの励みにもなった。この貴重な経験をいかし、この先も音楽を学べる喜びと探求心を忘れずに、前向きに音楽と向き合っていきたい。

最後に

国内外研修生として、このような素晴らしい機会をくださった大学関係者の皆様、あたたかくサポートしてくださった学生支援課の皆様、日頃から熱心にご指導くださる先生方に心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

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