国立音楽大学

モスクワ音楽院夏期講習会

青木 彩 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)

研修概要

研修機関:チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院
研修期間:2014年8月8日〜8月21日
担当講師:エレーナ・ルドーリファブナ・リヒテル教授

研修目的

私が大学1年生だった時、国立音楽大学でのナターリア・トゥルーリ教授(モスクワ音楽院教授)のマスタークラスを聴講したのをきっかけに、私は長い間、ロシアのピアノ教育に強い興味を持ってきた。そのレッスンは、具体的で細かい技術的、音楽的解説、アドヴァイスに、先生自身による素晴らしい実演が伴っていて、私にとって、とても分かりやすいものであった。その後、様々なロシアのピアニストの演奏を聴くうちに、ロシアのピアニストに共通する音の響きや演奏スタイルに魅力を感じると同時に、そのハイレヴェルな演奏はモスクワ音楽院の教育によるものも大きいのではないかと思った。今回、現地である程度の回数のレッスンを受けることで、実際にどのような教え方をしているのかを体験し、自分の目指している音の響きや音楽の作り方へのヒントを得るということが1番の研修目的である。

研修内容

第1回レッスン

最初のレッスンでは、ショパンの「幻想ポロネーズ」をみていただいた。1回通して聴いていただいた後、「音楽的には良い」とおっしゃった。ショパンの音楽はすべてが歌なので、メロディーの弾き方が非常に重要で、いかに歌のように響かせるか、ということに重点を置いてレッスンが行われた。特に、私の場合、肩から指先へもっと体重を乗せて右手を響かせることが必要だという指摘を頻繁に受けた。メロディーがあまり魅力的に響かない、響き自体が足りず、線が細い音になっているということは、以前から私自身の課題であった。リヒテル先生が隣で弾いてくださる音は、ピアノの音自体が歌っているような、長く響く音で、私もその音を出したいと思った。これまで勉強してきて、指に体重をかける、という意識はあまり持ってこなかったので、最初のうちはあまり音の響きにつながっていかなかったのだが、レッスン後に練習室で工夫していくうちに、だんだんと重さのかけ方のコツをつかんできて、自分の音の響きが変わっていくように感じた。

レッスンでは、指摘すべき点が多いところは細かく、フレーズごとにみてくださり、その都度、実際に弾いてくださった。技術的に難しいところは、弾きやすいフレーズの取り方や、意識の持ち方、先生自身の指番号なども参考に教えてくださった。ペダルの踏み方も、私が考えていたよりももっと細かくコントロールすべきだということを学んだ。印刷された楽譜に書かれている指番号や、ペダルは、もう一度自分自身で考え直してみる必要がある、とおっしゃった。

ショパンは、リヒテル先生の重要なレパートリーであるだけに、来週また持ってくるように言われた。

第2回レッスン

今回は、2コマ分を1回で、2時間続きで見てもらうことになった。ラフマニノフの「ピアノソナタ第2番」(1931年版)をもっていった。全楽章を通して弾いた後、曲の頭からレッスンしていただいた。1楽章では、細かいアーティキュレーションのかけ方、間を取るべきところでない場所で休まない、アクセントが付いた和音への重さのかけ方などを教わった。アーティキュレーションは、指摘通りに直すと、その場所がかなり弾きやすくなった。2楽章は、よく歌えているが、もう少しテンポを感じて弾くと流れがよくなる、と言われた。3楽章は、第2主題をより長いフレーズで歌うこと、どの部分においても、ソプラノとバスが大事であり、内声は音質を変えて抑えること、クライマックスでは、もっとペダルを大胆に長く使って、響きを作ることなどを学んだ。

第3回レッスン

今回のレッスンから、講習会も2週目に入った。1回目のレッスンから時間がたって、自分の演奏がまとまってきたので、幻想ポロネーズをもっていった。前回は前半部分中心のレッスンだったので、後半からレッスンが始まった。主に、カンタービレの箇所でのルバートの仕方を詳しく教わった。また、うまくいっていなかった和音のフレーズやトリルも、手の使い方についての指導をしてもらい、とても弾きやすくなった。そして、たとえfのところでも、左の伴奏には重さがかからないように注意して、まるで眠っているかのように静かに弾くこと、左右のフレーズのクライマックスの箇所が違うところは注意して弾き分けることなどを言われた。

第4回レッスン

グリーグの「コンチェルトイ短調第1楽章」を見ていただいた。冒頭やコーダでもっと長くペダルを使うべきであることを言われた。私は和音が変わるごとにペダルを踏みかえていて、あまり迫力が出ていないと感じていたのだが、思いきって長く踏んでみても、はっきり打鍵すれば、あまり濁ったりせずに、逆に響きの広がりが出てスケールを増すことができたので、このほうがコンチェルトの演奏としてはふさわしいと思った。また、私が伴奏型だと思ってかなり音を抑えていたところも、リヒテル先生はメロディーのクレッシェンドを助けるためにかなり音を出して弾いており、演奏表現がとても濃くなっていたので、その点の認識の違いに気づくことができた。カデンツァはまるで即興するかのように弾き始めることが大事で、実際に先生の弾いてくださったものを聴いて弾いてみると、より音楽的になった。オーケストラとの掛け合いのところでは、もっと大胆にルバートすること、レガートの部分で黒鍵から白鍵に指を滑らせるようにすることも学んだ。

第5回レッスン

第2回目が2コマ分のレッスンだったので、今回が最後のレッスンとなった。音響がとても良いことで有名な音楽院内のラフマニノフホールが空いているので、音の響きや、レッスン室よりも大きなホールでの演奏表現を学ぶために、ホールレッスンをしてくださることになった。時間が限られているので、今回の講習会で特に多くのことを学んだショパンの幻想ポロネーズをみていただくことになった。リヒテル先生は客席の方で1回通して聴いてくださった。私は、ホールで弾くことにあまり慣れていないので、ホール全体の響きを聴くのが難しかった。響きが豊かに広がり、エコーが多いホールなので、ペダルをもっと細かく踏みかえたり、減らしたりする必要があること、響きを聴いてから次の音を入れること、演奏表現自体を、もっとスケールアップして、明確にする必要があること、アーティキュレーションをよりはっきりさせることなどの指摘をいただき、今後のホールでの演奏に生かすことができ、また、本番のリハーサルなどでどのようなことに気を付ければよいのかも教えていただけたので、非常に勉強になった。

レッスン聴講

ラフマニノフ像の前で
ラフマニノフ像の前で

私は、ユーリ・スレサレフ教授と、ナターリア・トゥルーリ教授のレッスンを聴講した。スレサレフ教授のレッスンで生徒はプロコフィエフを勉強していた。スレサレフ教授は曲の中の重要な音、複雑なテクスチュアの中でも特に響かせるべき音を生徒の演奏に合わせて弾いていたのだが、その音の響きが素晴らしいと感じた。強くて長く響く音である。それと同時に、音が多い曲、多声部の曲で、例えテンポが速くて複雑でも、役割ごとに音の響きを変えて弾き分けることの重要性も学んだ。また、スレサレフ教授がモスクワ音楽院付属学校の生徒だった時に、同じ曲のスヴャトスラフ・リヒテルの生演奏を聴いた話などを聴くことができた。トゥルーリ教授は、講習会の生徒のレッスンが始まる10時より前に、さらにピアノを始めたばかりの幼い子のレッスンをしており、音の出し方を徹底的に教えていた。私は、ベテランの教授が、本当に初歩の段階からピアノの弾き方の基本を教えるということ自体に驚くと同時に、最初から良いテクニックで、良い音の響きで学び始めることは、とても大事だと思った。講習会の参加者のレッスンでは、プロコフィエフを教えていたが、ひとつひとつのフレーズごとに、タッチやペダル、ハーモニーについて細かく解説していて、とても勉強になった。

ロシア語の授業

私は、ピアノのレッスンのほかに、ロシア語も現地で勉強したいと思っていたので、2週間で計7回の授業をしていただいた。ロシア語を取ったのは私1人で、毎回2時間、マンツーマンのレッスンを受けることができた。基本的なことの確認から始まり、主に音楽を勉強していくうえで必須の語彙、作曲家や音楽家に関する文章を読んだり、表現を徹底的に練習したりすることができ、ピアノのレッスンでの、先生のアドヴァイスの理解に非常に役に立ったので、通訳なしでピアノのレッスンを受けることができた。

コンサート鑑賞

音楽院内のラフマニノフホールでは、音楽院が休みの期間であるにもかかわらず、毎日のようにコンサートが開かれていた。出演者は、ほぼ全員がモスクワ音楽院の卒業生達で、非常にハイレヴェルな素晴らしい演奏を聴くことができた。特に印象に残っているのは室内楽のコンサートで、各楽器の奏者がお互いに、まるで実際に会話しているかのようにいきいきとアンサンブルをしており、聴いていてとても楽しかった。オーケストラの曲を室内楽で演奏していたのだが、ほんの数人でも演奏者の表現するエネルギーが凄まじく、オーケストラに劣らない迫力があった。また、ヴァイオリンとピアノのコンサートでは、シリアスな曲が多かったのだが、その曲の内容を心から感じて表現していることが伝わり、とても感動した。私もこのような良い演奏ができるように精進していこうと思った。

最後に

今回の講習会で、非常に内容が充実したレッスンを受けることができ、また、一流の演奏家のコンサートから多くを学ぶことができました。私に貴重な機会をくださった、諸先生方、学生支援課のみなさんにこの場を借りて感謝いたします。ありがとうございました。

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