ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミー
田胡 綾子 3年 演奏学科 弦管打楽器専修(クラリネット)
研修概要
研修期間:ムジークアルプ夏期国際音楽アカデミー
研修期間:2014年7月31日〜8月11日
担当講師:ロマン・ギュイオ先生
研修目的
大学在学中に学んできたクラリネットのレパートリーを大学の外で、どのように評価されるのかを知ること、そして多くの日本人が音楽留学をするヨーロッパのレッスンの本当の良さを探すこと(講師であるロマン・ギュイオ先生は、ヨーロッパの全土で通じる演奏スタイルの持ち主)、また、大学でもフランス語を専攻しているので実際に現地に行き語学を学習することを目的とした。
研修内容
ギュイオ先生のクラスでは全員、10日間で5回、1回につき55分でレッスンが行われました。
1回目:F.プーランク「クラリネットソナタ」1楽章
初回のレッスンでは思ったよりもリードが乾燥していて苦労しました。標高2,100mの会場ではこれまで経験したことのないような乾燥に見舞われ、音をひとつ出す度に毎回負荷がかかる状態でした。それは私だけではなかったため、先生はそういう状況でもどうリードを保持したらいいか詳しく教えて下さりました。
プーランクのソナタ1楽章の冒頭は、クラリネット奏者にとっては技術的な面において決して易しくないのですが、その部分を利用して、先生はいつもどうやって練習をしているのかの方法を教えて下さりました。その方法はいたってシンプルでしたが、大事なのは頭に焼き付けるために一つ一つのアクションを納得いくまで練習をするということでした。何時間も何回も練習することは決して大事ではなく、よく自分の音を聴いて理解していることが大事だと仰っていました。先生は今まで教えてきて、聴くことができていない人が多いということを常に考えていたそうで、「自分の耳が、自分の一番の先生」という先生の言葉は強く心に残りました。また、そうした耳を鍛えるためのエクササイズも教えて下さりました。
2回目:F.プーランク「クラリネットソナタ」1楽章・2楽章
特に早いパッセージでは最初から音になっていない音があることを指摘されました。それは演奏しようとするテンポに対して、指が動いていないことだけではなく、音を出す前の息がもっとすぐ出る位置までに(水道の蛇口をひねると水がでることに例えて説明していた)来ていないことも大きな原因だと仰っていました。
1楽章の中間部で、楽譜上にかかれていないディミヌエンドを効果的に使うことを教えて下さりました。それは簡単に「歌い方」などと言われることが多いですが、レッスンではその音楽の仕組みを教えてもらっているように感じました。先生は、耳を鍛えさせる為に「先生の真似」をするように指導して下さりました。先生の演奏は私も納得のいく内容で同じように演奏しようと試みましたが、「僕はそんな風に吹いていないよ」と私が完全に真似できなかった部分をどう演奏したかを説明して下さり、再び何回か繰り返して聴かせて下さりました。前回のレッスンで言われたことを、身をもって知ることになりました。
3回目:F.プーランク「クラリネットソナタ」2楽章
この日はリードが不完全なことをきっかけに先生に私の吹いている楽器を見てもらうことから始まりました。今回はこの標高2,100mの環境を私も想定していませんでしたが、それでも私の使っているマウスピースがよくないということを指摘されました。日本では使用している人も多いですが、無駄な負荷が多すぎて「なぜ皆重りをつけながら『走れない』って言うのかわからないよ」と仰っていました。私は多少想定できなかったとはいえ、良いコンディションでレッスンに臨めなかったことにショックを受けていましたが、なんと先生が先生の楽器を私に吹かせて下さりました。結局そのままレッスンを受けたのですが、苦しさを感じずに表現のできるセッティングでした。それで私の演奏は大きく変わり、先生もそれを私に伝えて下さりました。自由に表現できる感覚が私の中にでき、それは日本に帰って見直すべき事となりました。
4回目:C.ドビュッシー「第一狂詩曲」
講習会中にマウスピースは替えられませんが、前回よりはリードを良い状態で持ってくることが出来ました。
ドビュッシーはブレスができない曲(非常に長いフレーズがあるため)なのですが、先生は、それを克服するためには練習のときに今よりももっと遅いテンポで、しかも大きい音量(=息を非常に多く使う)で練習するように教えて下さりました。私は今まで、どうにか乗り切るために自分の出来る量でぎりぎりまで保つことだけを考えていましたが、先生はレッスンでも、それがもっと良く出来るようになるためにはあきらめずに鍛えないといけないと考えてその練習をするよう私に伝えたのです。限界を作ってはいけないということでした。また最初の部分での、音符と音符の間にある時間の取り方を教えて下さりました。この曲は誰しもがレッスンに持ってくるが、音楽的に非常に難しい曲だと言われました。
5回目:C.ドビュッシー「第一狂詩曲」
前回のレッスンで教わったトレーニングを繰り返し、少しでも言われたことを改善していったことは先生にも認めてもらえました。また今回はそうしたコンディション以外の、奏法のことについても教えてもらえました。私は無駄な力を極力使わないことを考えていましたが、それが過ぎていたのか、口や指など身体の使うべきところにも力が行き届かない状態になっていることがわかりました。ドビュッシーの曲に関しては、それぞれの部分でのキャラクターをもっと明確に表現しなければならないことを教わり、先生は、言葉でその曲に対するイメージを伝えて下さりました。そこには、様々な設定があり聞いているだけでも興味深かったのですが、先生の演奏は、先生の言葉の通りに聞こえることがとても印象的でした。誰にでもイメージを作ることはでき、イメージを持っているだけでももちろん演奏は変わるのでよく言われてきましたが、技術的な視点でもどうやって表現するのか考える必要がありました。
レッスン以外の生活
レッスンは1日おきに行われるため、ホテルの一室でしたが練習に専念できる環境で練習をすることができました。また、ホテルのすぐ外に出れば空気の綺麗なアルプの山々に囲まれ、思い立ったときにすぐリフレッシュできる良い環境でした。8月上旬でしたがフランスと日本は気温差が約10度(ティーニュは朝晩さらに寒くなる)あるため日本の暑さに比べて非常に快適でした。
夜は、ほぼ1日おきに講師によるコンサートが催されました。コンサートでは、この講習会でしか見られないような豪華メンバーによる室内楽演奏を見ることができます。これは講習会中の楽しみでもありました。
まとめ(研修を振り返って)
私の今回の研修での目標は、もちろん有名なプレイヤーであり指導の経験も豊富なロマン・ギュイオ先生のレッスンを受けることでした。しかし、それと同時に講習会という狭い範囲内でも、多くの日本人が留学するフランスではどんなレッスンが行われるのかを実際に見てくる事は同じぐらい大きな目標のひとつでした。様々なレベルの受講生がレッスンを受けていましたが、自分も含めてやはり日本人の受講生は表現力に欠けていることを指摘されることが多いように思いました。それに対して先生方は音を出すことにもっと執着するように教え、なぜそう表現しようと思ったのか、そのためにはどうしたらいいか解決につながるヒントや練習方法を必ず与えることを重点的にレッスンしているように感じました。
元々この講習会には日本人が多く、まだ講習会期間に日本語を聞く機会が多かったのですが、既に日本の大学を出てフランスに留学している方から留学についてのお話を聞くことができました。比較的若い受講生が多いとはいえ、様々な状況・経歴・国籍の受講生達と接することができ、この短い期間ではほんの少しかもしれませんが私の中で世界が広がったのは確かです。
私にとっては、初めてのフランスでの講習会どころか、初めての海外旅行でしたが、今回の講習会で新しい知識・見解が得られたことは非常に自分にとって良いことでした。それだけでなく、これからの課題も同時に得られたのが特にこの先の自分の為になると思っています。この国内外研修奨学金に関してサポートしていただいた学生支援課の皆様、学生生活委員会の方々、先生方には心よりお礼申し上げます。今回講習会中に得たことはこれからも大切にし、自らの原動力にしていきたいと思っています。有難うございました。