国立音楽大学

シャルミーサマースクール 研修報告書

氏家 厚文 4年 演奏学科 弦管打楽器専修(打楽器)

研修概要

  • 研修先:The Chalemie Summer School
  • 会場:Headington School(イギリス・オックスフォード)
  • 講座名:Instrumental Music
  • 担当教授:Bill Tuck 教授
  • 研修日程:2009年8月11日~8月16日

研修の動機

私は太鼓を叩いていると笛が吹きたくなり、笛を吹いていると太鼓が叩きたくなる。そして出来ることなら両方同時に演奏したいと思っていた時にテイバーパイプという楽器に出会った。テイバーパイプとは片手で笛を、もう一方の手で太鼓を演奏するバロック以前の時代に用いられていた楽器であるが、日本ではあまり知られておらず、奏者、資料は皆無に等しいという現状がある。そのため、古楽の本場であるイギリスでバロック以前の音楽を直に学び、テイバーパイプの生の音を聴き、この楽器への理解を深めるため、この研修を希望した。

講習について

古楽、バロックダンス、16~17世紀の衣装作成、コメディア・デラルテの講習会であるChalemie Summer Schoolはイギリス、オックスフォードの名門校Headington Schoolで行われた。

バロック時代以前の音楽や芸能について総合的に学べるよう、多彩なコース設定がされており、一つの分野にとらわれず、自由に複数のコースの内容を受講することが出来ることが大きな特徴である。

コースは「歌」「バロックダンス」「コメディア・デラルテ」「器楽」「衣装作成」の5つに分かれている。私は器楽のコースを受講。受講生は30名ほどで、年齢層は12歳から60代以上と幅広く、プロの音楽家の他に趣味で楽しむ人も多く見られた。また、「衣装作成」のコースには洋裁専門の大学から勉強に来ている人もいた。アジアからの参加は私1人で、イギリス、ドイツからの参加者が多く、他にアメリカやオーストラリアなど様々な国から参加していた。外国の人は男女問わず綺麗に見えたが、向こうの人に言わせるとそうとも限らないとのことだった。

研修内容

研修スケジュール

 午前…様々な楽器のソロやアンサンブル等器楽コースの専門領域を学ぶ。

  • 8 : 00- 9 : 00 Breakfast
  • 9 : 15-10 : 00 General warm-up
  • 10 : 00-11 : 00 Principal study
  • 11 : 00-11 : 15 Coffee
  • 11 : 15-13 : 00 Principal study
  • 13 : 00-14 : 15 Lunch

午後…日によって内容が異なり、専門領域のほかに他のコースの領域も含め総合的に学ぶ。


11日

12日 13日 14 日 15日 16日
14:15 Principal study Principal study Free time Principal study Principal study Acting Games
15:15 Tea Tea Free time Tea Tea Tea
15:30 Principal study Commedia Free time Comic Dance Principal study Barbecue
16:30 Singing Singing Free time Singing Free Barbecue
17:30 Free Free Free time Free Free Barbecue
18:30 Dinner Dinner Dinner Dinner Dinner Barbecue
20:00 Barn Dance Costume talk Lecture & Demo Party Concert Students Concert Barbecue

General warm-up(ウォーミングアップ)

毎朝、朝食後にすべてのコースの受講生が集まりウォーミングアップをする時間があった。

ヨーロッパの即興喜劇であるコメディア・デラルテの講師、Barry先生の指導の下、ダンスや喜劇の動きを取り入れた体操や発声など、とてもユニークなウォーミングアップを行った。ダンスはやはりヨーロッパの人のほうが似合うと思った。

Principal study(専門実技)

中世の器楽曲を中心に、ソロや様々な編成のアンサンブルの演奏を行った。演奏を通して様々な舞曲のリズムや演奏法について学んだ。担当のBill Tuck先生は主に中世、ルネサンスの管打楽器を専門とされている先生で、アンサンブルの際には一緒に演奏しながら曲の表現のみならず、背景にある文化や歴史の事などを説明して下さった。

8月11日午後

私を含む4人の受講生にBill Tuck先生が加わったアンサンブルでスザートのパヴァーヌを演奏した。アンサンブルの編成はリコーダー、トロンボーン、アイリッシュハープ、バスーン、打楽器。先生は打楽器を、私はリコーダーを担当した。

パヴァーヌのリズムについて教えて頂き、ゆったりとしたフレーズを大きくとるための呼吸の方法についてアドヴァイスを頂いた。

アンサンブル開始から1時間後にティータイムがあった。先生や受講生が全員食堂に集まり、紅茶とケーキを楽しんだ。ケーキはさまざまな種類から選ぶことができ、私はニンジンのケーキを選んだ。日本のケーキの3倍は甘いのではないかというくらい甘いケーキだったが、なかなかクセになる美味しさで、研修中5回あったティータイムのうち4回はこのケーキを選んだ。ケーキをはじめ、イギリスの食事はとてもボリュームある上、1~2時間おきに食事やティー、コーヒーの時間があったため、このティータイムから研修終了まで空腹を感じることは1度もなかった。

ティータイム後はアンサンブルでプレトリウスのパヴァーヌを演奏した。編成はリコーダー2本、トロンボーン3本。先生はトロンボーン、私はリコーダーを担当。

先生は笛と太鼓を演奏する方だと思っていたらトロンボーンも吹いていたので驚いた。私も先生くらいの歳になったら金管楽器も練習してみても良いかなと思った。先生に金管楽器は吹けるかと聞かれたので、特に演奏したことは無かったが出来そうな気がしたのでYes.と答えておいた。

8月12日午前

ファンファーレの演奏をするということで、先生から私の身長ほどの長さのあるラッパを渡された。私が渡された楽器は、バルブなどが付いていないため口のみで音程をとるというイギリスの古いトランペットであると教えて下さった。

当然満足に音が出なかったため、タンギング等基本から教えて頂き、とにかく今回演奏するファンファーレの基音であるDの音を出すことに専念することになった。前日に吹けると言ってしまったが、あまりいい加減なことは言わない方が良かったかなと思った。

ファンファーレの編成はトロンボーン3本、トランペット2本。尚この講習で用いられているトロンボーンも通常オーケストラなどで用いられているものとは異なり、大きさがひとまわり以上小さい古くからのものだということだった。

8月12日午後

テイバーパイプの演奏法について教えて頂いた。これまでテイバーパイプの実際の演奏を聴いたことがなく、本当に僅かな録音や資料を頼りに勉強してきたので、この時間はとても新鮮なことばかりだった。

テイバーパイプの演奏には、大きく分けてメロディーとリズムの2つの要素が必要であるが、この時間には主にリズムの出し方、太鼓の演奏法について学んだ。

テイバーと呼ばれる太鼓の打面には紐が付いており打面の革とこの紐を振動させることにより独特な音色を得る。この音色を生かしたリズムづくりをするため、バチの持ち方、太鼓の打つ位置等細かくアドヴァイスを頂いた。また、太鼓のリズムは極めて単純なものであるが、譜面があるわけではなく即興の要素が強いため、曲ごとのリズムの考え方についても先生の演奏を交えつつ教えて頂いた。

8月13日午前

ファンファーレの練習をした。時代ごとのマウスピースの違いについて教えて頂いた。

8月14日午前

トロンボーンを吹いている人の絵が書いてある資料を見た。

8月14日午後

アンサンブルでイギリスの宮廷音楽を演奏した。編成はトロンボーン3本、ファゴット、打楽器。先生はトロンボーン、私は打楽器を担当。イギリスをはじめ、ヨーロッパ各国の歴史について解説して下さった。

8月15日午前

テイバーパイプの演奏を見て頂いた。アーティキュレーションや装飾など、メロディーを演奏する上で大切なことを教えて頂いた。

テイバーパイプで演奏出来る曲をたくさん教えて頂いた。それまで知っている曲数が少なかったので今後のレパートリーにしていこうと思う。

8月15日午後

ダンスのクラスの伴奏をした。実際に踊りと合わせ、リズムの大切さを実感した。

8月16日午前

アンサンブルでガイヤルドを演奏。編成はルネサンスフルート、リコーダー、トロンボーン2本、アイリッシュハープ。先生はルネサンスフルート、私はリコーダーを担当。

軽快な3拍子のリズムを活かすためのアーティキュレーションについてアドヴァイスを受けた。

8月15日午後

リコーダーデュオ。

8月16日午前

バグパイプとダルシマーを演奏した。

Singing(合唱)

毎日夕方に、Bill先生と歌のクラスの合唱に参加した。Bill先生は私の横で歌ってくださり、歌詞や曲について説明してくださった。イギリスの曲が中心で、ネイティブの英語の合唱の中で歌えた事はとても良い経験になった。

レクチャー

夕食後には、全受講生を対象に様々な分野のレクチャーが行われた。

中でも印象に残っているのは12日に行われたIan Chipperfield先生の16~17世紀の衣装のレクチャーである。レクチャーの中でバロックダンスの衣装を実際に見せながら作成の工程を説明してくださり、大変勉強になった。資料では何度か当時の衣装の絵を見たことがあり、漠然と暑苦しそうな服だと思っていたが、実際にスカートなどは何枚も重ねたものをはいており、見ていて暑かった。しかし日本も外国も昔の人は重ね着が好きなのだなと思った。

Party Concert(パーティー)

14日の夕食後には親睦会を兼ねたパーティーが行われた。受講生の有志が音楽や話、コメディア・デラルテなどを発表した。

私はドラムとリコーダーの即興演奏、バグパイプとのセッションをした。リコーダーで日本の音楽を尺八風に演奏したのだが、歓声があがったり「本当に同じ楽器なのか」と言ってもらったりと、日本人である私にとってはオーバーな位喜んでもらい、気分が良かった。やはり日本人は西洋音楽をやる前に日本のレパートリーを持っておくべきだと感じた。

日本で言う漫談のようなものや、替え歌などで笑いをとっている人もいたが、笑うタイミングも分からず、1人取り残された様になってしまったのが少し寂しかった。英語でユーモアが理解できるようになったら300倍は楽しいだろうと思う。

Students Concert(受講生コンサート)

15日夜に受講生コンサートが行われた。音楽のみならず、ダンスやコメディア・デラルテ、衣装の各分野の発表があった。

私は参加した合唱も含め10曲ほど演奏したが、Bill先生とデュオでテイバーパイプを演奏できたことはまたと無い貴重な体験になった。自分と同じ単純なリズムとメロディーを隣で演奏している先生は、自分の100倍深い躍動感に溢れていた。

生活について

前日~

遠方から参加する場合は研修開始前日の8月10日から宿泊できるということだったので、宿泊を申し込んでおいた。

10日の20時頃に会場到着。イギリス国外等からの参加者10名ほどがすでに到着していた。キッチンに案内され、お腹はすいているかと聞かれたのでYes.と答えたら、近くの店から出前を取ったという中華料理をくれた。ヨーロッパの人も中華料理を食べるのかと少し驚いた。ご飯が少し黄色く、全体的にヨーロッパ風の味付けのように感じたが、美味しかった。しかし、八宝菜にレモンが乗っており、そこの部分だけは口に合わなかった。

キッチンには紅茶が常に飲めるようになっており、先生も受講生もみんな1日中飲んでいた。ミルクを入れる人が多かった。 研修初日の11日は13:30に集合し、顔合わせや予定等の説明が行われた。

食事

イギリスの食事についてあまり良い話は聞いていなかったが、私個人的にはとても美味しく感じた。講習中は朝、昼、晩と食堂で料理が出た。

食堂はバイキング形式であったが、基本的には肉と芋が多く、みんな朝から良く食べた。私も日本にいるときの2倍くらいの量は食べていたように思う。帰国後体重をはかったら少し増えていたが、4日ほどでまた元に戻ってしまった。

また、食後にはケーキなどのデザートがたくさん出た。1日3つ以上ケーキを食べていたため帰国後もしばらく甘いものが欲しくなった。

日本食が欲しくなった時のために煎餅を持っていくと良いと言われていたので持って行ったが、特に欲しくならなかったので配ったら喜ばれた。

研修を終えて

今回、研修に参加したことにより、私にとって手探りの状態の楽器であったテイバーパイプ、そしてその周辺の音楽についての手がかりを掴むことが出来た様に思う。これを自分なりにつき詰め、様々な場面で生かす方法を考えていきたいと思う。

貴重な機会を与えて下さいました先生方、学生課の皆様、さまざまな面で支えて下さいました多くの方々に心より御礼申し上げます。私が想像していた以上に外国は未知の世界でした。

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