オルヴィエート国際夏期声楽講習会 研修報告書
枡本 侑子 3年 演奏学科 声楽専修
研修概要
- 研修先:オルヴィエート国際夏期声楽講習会(イタリア・オルヴィエート)
- 講座名:Accademia Spazio Musica per Cantanti (Prof.Gabriella Ravazzi)
- 研修日程:2009年7月24日~2009年8月18日
研修の動機と目的
本研修に参加することで発声の明確な課題を見つけること、ディクションについて学ぶこと、またイタリア音楽を学ぶにあたり、文化や歴史・空気を肌で感じて音楽をより豊かにしたいと考えた。
将来はイタリアでの勉強を希望しており、今回の研修を通して海外で勉強する意義や、さらなる目標を再確認したいという思いがあった。またイタリアで自分の音楽を見直し、より発展させていくことを目的とした。
研修内容
オーディション
講習会の初日、マスタークラス希望者のオーディションが午後にあるとのことで(電話で時間を何度も問い合わせたが、とにかく午後に来るようにとのことであった。)正午に会場に向かうが、誰一人来ていない。扉も開いていないのでとても驚いて心配になった。
その後4時まで待つと、少しずつ人が集まりやっと先生にもお会いすることができた。イタリアでの「午後」という時間が日本のように厳密ではなく、比較的遅いということがわかった。またオーディションというものはなく、今回初めて参加する生徒のみ、歌を聴いて頂くということであった。
第一回レッスン Sognai
私が歌い終わると、「きちんと歌っていて良いけれど、呼吸が違います。もっと意識は下で、息は恥骨から入って尾骨から出る」とおっしゃった。
今までも「支え」や「ポジション」が上がってこないようにとは意識していたが、もっともっと意識は下であるという事を再認識した。
また「息を吸おうとすることに頑張りすぎている」ともおっしゃられ、フレーズが終わった後にはまず鼻腔や軟口蓋、頭蓋骨を開けるように意識し、その後に肺に息を入れるようにとのことであった。私は息を吸うタイミングが早すぎるために息を吸う音(スーッ)がしていた。歌う前にaprire(開ける)そして、歌う直前にrespire(呼吸)。この少しの意識の仕方を変えるだけで声の響きや出方が変わったので驚いた。
第二回レッスン Sognai
前回レッスンして頂いた呼吸について意識して歌うと、声が体から離れていくのがわかった。先生から「前回よりもずっと良い」と褒めて頂いた。
その次のステップとして、さらに体がVuoto(からっぽ)な状態になるために、先生が背後から肋骨をこじ開けるように開いてくれた。この助けの中で歌うと、さらに「体が外側へ開く」ということを感じることができた。
また、言葉を発音する時に音を聴いてしまうと高いポジションを維持できないので、絶対に「自分の音、そのもの」を聴いてはいけないとおっしゃった。Tacco di suono(声のかかと)を外に思い切って離してあげることで響いていくとの事であった。
第三回レッスン Tu che di gel sei cinta
今回用意してきたTurandotのリューのアリアをレッスンして頂いた。音楽的なフレーズの処理について、「フレーズの終わりは常にmorbido(ふかふか)にする。絶対に押してはいけない」とおっしゃった。
どうしても呼吸と支えが不十分なので、フレーズの終わりで押してしまうのかもしれないと感じた。またフレーズからフレーズへとできるだけレガートに音楽的に処理するためには、身体の使い方をよく勉強しなければいけないと感じた。
第四回レッスン Tu che di gel sei cinta
とにかく歌う前に全てを開けなければいけないとおっしゃっていたが、開けるということは口を大きく開くということと勘違いしないで欲しいということであった。意識する手段としては
- 上の奥歯をもっと上に引き上げること
- 耳の後ろを奥に引っ張る感覚
- 顎を捨てる
- 口蓋の小アーチ状の開口部を開くように意識
- 鼻の横の筋肉をもっと上げる
- しかし、口全体を奥にひくようなことをすると、ブロックされて力が入ってしまうので間違いである
このようなことを意識するようにとレッスンの中で色々な表現で説明して下さった。
第五回レッスン Tu che di gel sei cinta
奥を開けることの実践的な練習としてスプーンを使った。
口の中にスプーンを入れてugola(軟口蓋垂)をグッと上に押された。
これはとても辛く、吐き気がするのでウッとなってしまうのだが、spazio(スペース)を意識するために必要なことだと感じた。
私の場合一日5回するようにとのことであった。
このことで、「口を大きく開くのではなく、意識するのはもっと奥であること。」とわかった。
第六回レッスン Tu che di gel sei cinta
最後のレッスンでMaestraが私におっしゃったことは3つあった。
- Deciso (決心)
- Concentrazione(集中)
- Volonta(意志)
また歌うということは、「歌うか・歌わないか。」だともおっしゃった。
いつも自分の気持ちを引き締めて、歌うという確固たるゆるぎない決意を持って学ばなければいけないと感じた。
コンサート
講習会の最終日にオルヴィエートにあるTeatro Mancinelliでコンサートが開かれた。
Teatro Mancinelliは大きな劇場ではないが、とてもよく響くホールで何より天井画や装飾が素晴らしかった。このような素敵な劇場で歌えることに感激し2週間学んだことを精一杯出せたらと感じた。曲はリューのアリア<Tu che di gel sei cinta>を歌うことになり、先生がおっしゃったこと一つ一つを思い出して順番を待った。
歌い終わるとたくさんの拍手を頂き、思い切って歌えたことにホッとした思いであった。
先生から「初めて聴いた時よりも、たくさんのことがわかってとても良くなったね。Brava!」とお言葉を頂いた。
研修を終えて

今回の講習会で、私は「学ぶ」という姿勢の大切さを強く感じた。
音楽をつくるたくさんの要素のうち、テクニックはもちろんだが、自らの意思や決意・集中力などの精神の強さが大変重要であると改めて感じる素晴らしい機会となった。
レッスンの受講はもちろんのこと、夜はオルヴィエート国際声楽コンクールを聴き、ヴェローナでは野外オペラを鑑賞し素晴らしい舞台に感激した。
また講習会では様々な国で同じように学んでいる学生達の演奏を聴き、レッスンの合間には音楽の話をして本当に楽しいひとときを過ごした。
実際にイタリアの文化に触れコミュニケーションの中でイタリア人の気質を知り、感じた多くのことは、非常に貴重なものであり、かけがえのない経験であったと強く感じた。
学ぶことはたくさんあるが、学ぶ姿勢がわかった今、これからの道が見えてきたように思う。目に見えないような一歩でも自分を信じて学んでいきたい。何をどのように伝えたいのかということを意識し、チャレンジすることを恐れずに一生をかけて自分の音楽を育てていきたいと思う。
そして今、こうして音楽を学べる素晴らしい環境に感謝し、真摯に向かい合っていきたいと再認識した研修であった。
おわりに
今回、国内外研修奨学生として貴重な機会を与えて下さいました学生生活委員会の先生方、学生課の皆様、ご支援下さいました先生方、そしていつも熱心にあたたかくご指導下さる澤畑恵美先生、無事に研修を終えることが出来ましたことに心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。