国立音楽大学

第15回浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァル 研修報告書

鈴木 菜穂子 4年 演奏学科 弦管打楽器専修(フルート)

研修概要

  • 研修先:第15回浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァル
  • 担当教授:工藤 重典 教授
  • 研修日程:2009年7月30日~8月4日

研修の動機と目的

浜松国際管楽器アカデミーで教鞭を執る講師陣は世界的なアーティストであり、師事する機会はなかなかない。この研修を通してそのようなアーティストの音楽に直に触れ、自身の音楽の幅をさらに広げるべく参加を希望した。また、大学でのレッスンなどを通して見つけてきた自己の課題をいかに克服するかを様々な視点から考えるきっかけを作り、演奏家として音楽をより深く理解できるようになることが期待された。

アカデミーについて

学生及びプロの演奏家を対象に開かれ、第一線で活躍する若い演奏家を数多く輩出し、内外から大きな注目を集めると同時に、高く評価されている。

世界的なアーティストである16名の教授陣によるハイレベルな個人レッスンだけでなく、会期中に開かれるオープニングコンサート、ソロコンサートは世界一流の演奏家による管楽器を中心としたプログラムで、このアカデミーでしか聴けないものとして注目されている。

研修内容

スケジュール

  • 7月30日 オープニングコンサート
  • 7月31日 開講式/クラス顔合わせ/レッスン(1回目)
  • 8月 1日 レッスン(2回目)/ソロコンサート
  • 8月 2日 講師推薦プレミアムコンサートオーディション、レッスン(3回目)/フルートクラス合同パーティー
  • 8月 3日 レッスン(4回目)/講師推薦プレミアムコンサート/フェアウェルパーティー
  • 8月 4日 講習会のまとめ、閉講式

受講曲について

私が今回師事した工藤重典教授は、J.P.ランパルの弟子としてフランス音楽を正統に学んでこられたフルーティストである。そのようなことを鑑み、フランス近代の楽曲を2曲選択した。また、J.S.バッハの無伴奏パルティータ 、モーツァルトの協奏曲はフルートのレパートリーとして基本的であり、最も重要な楽曲であるため、曲に対する造詣をさらに深めるべく選択した。

〈受講曲〉

  • Poulenc / Sonata
  • J.S.Bach / Partita in A minor
  • Gaubert / Sonata
  • Mozart / Concerto in G major

レッスン

〈1回目〉Poulenc / Sonata

フランス近代の代表的なソナタであるこの曲は、技術的に難易度が低いためか最近ではコンサートピースのように軽んじて捉えられる傾向があるが、フランス近代音楽を理解し、他のプーランクの室内楽作品に精通するためにも、大変勉強の価値がある曲である。

1楽章では動きの速い軽妙なパッセージが何度も登場するが、スタッカートのパッセージの中でもしっかりとフレーズ感をもって歌いこむことが必要と注意された。先生に言われたことに気をつけて、かなりオーバーにフレーズを作ったところ、先生はそれくらいはやるべきだとおっしゃった。確かに後で録音を聴いてみても、最初は無機質だったフレーズが命を持ったかのように動き出すように聴こえた。

2楽章はどこか悲しげなアリアのようで、フレーズの塊を美しいレガートで歌い上げることを心がけなければならなかった。ところが、途中でうまく音のつながらないところや正確なクレッシェンド・デクレッシェンドができないところがあった。先生はロングトーンの中でフレーズ感のあるデュナーミクをつける練習を日ごろから行うようにとおっしゃられた。

3楽章については、テンポの設定が曲の意図するところと全く違っていることを指摘された。この楽章はフレンチカンカンの曲で、あまりにも速いテンポで演奏しては曲の雰囲気を壊すことになるのだそうだ。しかしこの曲をCDや演奏会で何度も聴いていたが、3楽章をゆっくり演奏しているものは聴いたことがなく、その場ではあまりイメージが湧いてこなかった。ところが後でインターネットを利用してフレンチカンカンの映像を見てみたところ、長いドレスの裾を揺すりながら脚を高く上げる踊りで、確かに私が演奏していたテンポでは踊れるはずもないことがわかり、先生の話に深く納得をした。


〈2回目〉J.S.Bach / Partita in A minor

4つの曲からなるこの無伴奏パルティータは、それぞれにフランス語の題名が付けられている。バッハが当時のフランス音楽に憧れを抱いて作曲したものではないかと先生は話してくださった。この曲のポイントは、一定のベースになるテンポをもって、そのテンポが揺らぐことのないように歌い上げていくことで、私のこの曲における問題点は、ブレスのたびにそのテンポが崩れてしまうことにあった。息を節約しすぎることなく、テンポの中で無理なくブレスをとることが望ましく、息遣いを含めて全体のリズムを維持しなければならないと指導してくださった。また、短調の部分は弱めに、長調の部分は強めに吹くことを意識して、一音一音にエネルギーをもたせることがこの曲を魅力的に仕上げる大切な要素になるとおっしゃられた。

〈3回目〉Gaubert / Sonata

タファネルを師とするゴーベールはフランス楽派における重要な作曲家である。繊細でデリケートな表現を要求されるこの曲は、今の私にとってはとても難易度の高い課題であった。先生は、フォーレの作品を吹くように丁寧に、且つ色彩豊かに演奏することが好ましいとおっしゃられた。テンポのとり方も、拍子やリズムに左右されるのではなく、あくまでフレーズが生きるような方法で考えることを要求された。また、3楽章のテンポの起伏が激しい部分では、人間の感情の揺れをイメージしながら演奏するようにと指導された。このようなことに注意をして曲を組み立てていくと、とてもドラマティックで聴きごたえのある曲に仕上がり、ただ繊細なだけの曲に留まらず、とても新鮮な魅力のある曲に感じられた。

〈4回目〉Mozart / Concerto in G major

この曲についてレッスンで指摘されたのは、モーツアルトらしさがいま一つ足りないということであった。楽譜どおりに音が並んでこそいるが、そこにモーツアルト特有の美しさや様式感をもっと盛り込まなくてはならないと指導された。そのためにはこの曲に限らず、幅広くモーツアルトの音楽に触れる必要がある。先生は特に弦楽器の作品に目を向けるようにとおっしゃられた。管楽器にはない弦楽器特有の弓使いが、演奏に躍動感をもたせるためのヒントになるのだそうだ。あらゆる楽器の様々な特徴に注意を払い、自分の演奏に生かそうとすることで、音楽に新たな一面を見出せるように感じた。

〈レッスン全体を通して〉

レッスンを受講する以前から、工藤先生の演奏を何度もコンサートやCDで聴いていたが、その演奏の繊細さと流麗さからは想像しがたいほど、先生の私たちに対する指導は情熱的であった。先生は、私たちが音楽を学ぶこと、追求することは、全て聴衆のためであるとおっしゃられた。この一言で先生がプロのフルーティストとして数え切れないほどの聴衆を前にしてきた経験の奥深さが伺えるのと同時に、その精神があればこそ常に謙虚に音楽と向き合えるのだと理解することができた。時には音楽の技術を競い合う場面があるにせよ、最終的にはそこに音楽が生きているか、音楽を聴衆のために生かすことができるかどうかが大切なのであって、聴衆の心に訴えかける手段としての音楽を学ばなければならないのだと、レッスンを通して教えていただくことができた。

コンサートについて

会期中のコンサートでは、講師陣による素晴らしい演奏を聴くことができた。ソロの演奏だけではなく、様々なアンサンブルの曲が演奏され、実に華やかな舞台であった。特にG.オーリックのトリオやG.ロッシーニの木管四重奏が印象的で、細部にまで神経の行き届いたアンサンブルがとても豊かな音楽を紡ぎだしており、その美しさに心から感動した。工藤先生が演奏したR.ガロワ=モンブランのディベルティスマンは日本ではあまり聴いたことのない曲で、弱音の繊細な表現がとても理想的な響きをもっており、会場の誰もがその音楽に感じ入っていることがわかるほど空気が張り詰めていた。私もこれから勉強を続けていく中で、少しでも聴衆の心を動かせるような力を身に付けていきたいと、心からそう思った。

受講期間中の生活

期間中はレッスンのための練習やレッスンの復習が生活の中心となったが、昼休みに他の受講生と食事をしたり、フルートの3クラス合同でのパーティーに参加する機会があり、このような交流が私にとっては得難い経験であった。

今回のアカデミーには海外留学中の受講生も多数参加しており、海外で音楽を学ぶことの醍醐味だけでなく、生活面のことなど様々な体験について聞くことができた。西洋音楽に携わっていたらいつかはヨーロッパに行って勉強をする時が来るのだろうと漠然と考えていたが、今回ほど切実に、また真剣に海外留学のことを考える機会は今までになかった。留学生たちの生の声を聞けたことで、まだまだ自分には勉強すべきこと、広げるべき視野があると改めて感じることができた。

研修を終えて

私は研修が始まる前、ハイレベルなレッスンについていけるのか、自分の考えているような成果が得られるのかということで頭がいっぱいだった。しかし、実際にアカデミーに参加すると、そこにある全てのことが私に「前向きに考える力」を与えてくれた。

レッスンを通して、自分が未修得の演奏技術や曲の解釈について学ぶことができたのはもちろん、音楽家としてのあるべき姿や、どのように音楽と向き合っていけばよいのかを教えていただき、心から共感し理解することができた。また、今回のアカデミーに参加していた受講生の中にはすでに第一線で活躍する演奏家も多く、このようなことが自分にとって大変良い刺激になった。著名なコンクールで優勝したり、幅広く演奏活動をするようになっても、音楽家としての悩みが尽きることはなく、逆に言えば、音楽は人生を通して追求していく価値のある財産であるということも改めて感じることができた。

研修での様々な経験は、私がこれから音楽家としての人生を歩んでいく上でとても重要なものであり、得がたい糧であった。これを無駄にすることのないよう、今後は一層努力をして学び、音楽家としてあるべき姿、自分の理想とする音楽に近づいていきたい。

最後に

国内外研修奨学生として貴重な機会を与えていただいたことに心より御礼申し上げます。いつも熱心にご指導をしてくださる先生方、大学の関係者の方々、そして一番の心の支えである家族と友達に、これからも感謝の気持ちを絶やすことなく精進し続けたいと思います。本当に有難うございました。

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