欧日音楽講座 研修報告書
中山 寛子 4年 演奏学科 弦管打楽器専修(クラリネット)
研修概要
- 研修先:欧日音楽講座(長野県)
- 担当教授:ミシェル・アリニョン教授
- 研修日程:2009年7月31日~8月11日
2009年7月31日から8月11日まで、私は長野県軽井沢市で行われる、第22回欧日音楽講座に参加しました。この講習会は、フランス国立パリ高等音楽院の教授であると同時に、フランスを代表するクラリネット奏者でもあるミシェル・アリニョン先生を招いて行われ、毎年平均して20人前後の受講生が学びます。
受講は今年で2回目となるのですが、落ち着いた雰囲気の中、生徒が皆、集中してレッスンの受講や聴講に臨み、大変内容の濃い時間を過ごすことができました。
研修の動機
前述の通り去年も本講座を受講したのですが、受講生のレヴェルの高さや、音楽に対する情熱に圧倒され、大いに刺激を受けた反面、“なんとなく”で参加してしまい、思うようにレッスンを進められなかった事に悔しい思いも抱いて帰ってきました。
講習期間に与えられる大量の情報を消化できるように、受講曲は勿論のこと、気持ちの面でも準備をしっかりして、もう一度参加したく思い、受講を決めました。
研修内容
受講曲目
- I.Stravinsky/Three Pieces
- C.Saint-Saens/Sonate
- J.Francaix/Tema con variazioni
クラス分けオーディション
今年の受講生は24人。受講者は主に音楽大学で学ぶ学生が多く、音楽大学への進学を目指す高校生や、卒業して演奏の仕事をしている人も参加していました。
初日、会場に着いてすぐオーディションが行われ、4つのグループに分けられます。先生からは、レヴェル別にクラスを分けるのではなく、スムーズにレッスンが進むようにするために分けるとのご説明がありました。
レッスンは1回30分、1日おきで、一日目の午前中にグループⅠ、午後にグループⅡ、二日目の午前中にグループⅢ、午後にグループⅣ、三日目は午前中にグループⅡ、午後にグループⅠ・・・という具合に組まれます。
私はグループⅢに振り分けられ、初回の受講曲は先生の指示でI.Stravinsky/Three piecesになりました。
レッスン
- 1回目(8月2日) I.Stravinsky/Three Pieces 1,2楽章
- 2回目(8月4日) I.Stravinsky/Three Pieces 2,3楽章、C.Saint-Saens/Sonate 1,2楽章
- 3日目(8月7日) C.Saint-Saens/Sonate 3,4楽章、J.Francaix/Tema con variazioni var.2まで
- 4日目(8月9日) J.Francaix/Tema con variazioni
レッスン時間は午前10時から13時過ぎまで、午後は14時30分から18時頃までで、この時間は自分のレッスン以外はほぼ全て聴講に充てていました。アリニョン先生のおっしゃることは、奏法に関してはシンプルだが理論的、体系的であり、また音楽的解釈は和声学や時代背景についての豊かな知識を踏まえた素晴らしいもので、先生のレッスンを聴講することは受講することと同じくらい勉強になりました。お手本として自ら演奏されることもしばしばあり、皆、間近で聴く先生の音に聞き惚れていました。
以前、先生のインタビューを雑誌で読んだときに、「歌うように」吹くということについておっしゃっていたのですが、実際に聴くと、クラリネットが体の一部となっているようで、まさに「歌って」いるのだと実感しました。
全日程を通して、ピアノ伴奏は出羽真理さんがなさっていたのですが、聴講中に交代で受講生が譜めくりをしていました。出羽さんのような一流のピアニストの方の演奏を至近距離で見聴きできたことも、この講習会で得た貴重な経験のひとつです。
私が4回に渡るレッスンでよく注意されたのが、もっとsostenutoで演奏するように、ということです。
平たくいえば、音を抜きすぎているということ。フレーズ感が損なわれ、音楽の流れを前に持っていくことができません。12日間で、自分の中のsostenutoの概念が大分変わりました。
楽譜の音符から音符に、矢印を引かれることもよくありました。フレーズの最初の音から力一杯吹くのではなく、そのフレーズの中で一番重要な音に向かうようにしなさい、ということです。
奏法に関しては、J.Francaix/tema con variazioniのレッスンの時に、音域によって息を入れるポジションが変わってしまうことを注意されました。これはクラリネットを吹く時に重要な点なのですが、気をつけているつもりでも、難しいパッセージを吹く時になると出来ていなかったようです。
聴講している時に奏法についての指摘が出ると、自分にも当てはまる事が多くあり、それもまた大きなヒントになりました。例えば、ffのパッセージを吹く時に力みすぎて硬い音になってしまう、高音域は倍音の下の音を意識して力まず出す、といったことは、他の受講生が先生のアドヴァイスによって徐々にコツをつかんでいく過程をみていると、大変よく理解できました。
コンサート
8月10日に行われた、半数ほどが出演した選抜受講生によるコンサートでは、Camille Saint-Saens/Sonateの1楽章を演奏しました。会場は長野市の美鈴楽器ホール《アンサンブル・ルーム》という小さなホールで、響きの美しい所でした。レッスンとはまた違った緊張感がありましたが、出演者は各々10日前から格段に成長した演奏が出来たように思います。
後半はアリニョン先生と、通訳をされていたクラリネット奏者の郡尚恵さんによるコンサートでした。曲目はE.Chousson/Andante et Allegro、J.Massetet/Thais,Act2:Meditation,お二人のDuoによるF.Mendelssohn/Concert Piece in F minor澄んだ音に鮮やかな表現が素晴らしかったです。
江戸原ペンション
宿泊施設はレッスン・スタジオから100歩ほど歩いた場所にある、江戸原ペンションという所です。受講生は全員ここに泊ります。宿泊場所は強制ではないのですが、レッスン・スタジオが軽井沢駅から車で30分ほどの山中にあり、ホテルなどは近くに無いので、皆ここを利用します。
部屋には3~4人ずつ一緒に泊ります。メンバーはランダムに決められており、受講生同士の交友を深めることが目的のようです。私は大阪音大の人と、東京音大の人との3人部屋でしたが、すぐに打ち解けて、音楽の事や大学生活の事についてあれこれ語り合いました。
受講生の練習場所は、ペンションの部屋が夜9時まで、レッスン・スタジオが夜11時まででしたので、講習中はひたすらレッスン・スタジオとペンションを往復する日々でした。オーナーの江戸原さんご夫妻をはじめとするペンションのスタッフの方々は、とても暖かく面白いお人柄です。去年もお世話になった私のことを覚えていて下さり、話しているうちに緊張が和らいでいくのを感じました。
研修を終えて
欧日音楽講座で得たことは数え切れません。言葉にできるものも、できないものも、この報告書には書ききれないほど沢山の事を持ち帰ることができました。最後になりましたが、素晴らしい体験をさせて下さった学生課の皆様、先生方、家族に深くお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。