第30回霧島国際音楽祭 研修報告書
高橋 亜侑美 4年 演奏学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)
研修概要
- 研修先:第30回霧島国際音楽祭
- 講座名:マスタークラス 若林 顕 教授
- 研修日程:2009年7月26日~8月9日
霧島国際音楽祭は、豊かな自然の中で開かれ、国内外からの約150人の受講生を集める15のマスタークラスと、60人余りの国際的音楽家によって数多くのコンサートが行われる。個人レッスンだけでなく、オーケストラ・コンサートのリハーサルや室内楽をとおして、他の楽器の受講生や教授との人間的・音楽的交流を図ることができる。
研修目的
この講習会に参加するにあたり、これまで学内での授業やレッスン、演奏会などで勉強し、培ってきたものが学外ではどのように受け取られるのか、自分の力を試しそして知ることが、まず一つ目の目的であった。この講習会で、国際経験豊かなピアニストのレッスンを受講したり、様々な国、様々な環境で 音楽を勉強してきた人々の演奏を聴いたり、そういった人々と交流することはとてもいい刺激になり、これからまた音楽を続けていく自分にとって大きな糧となると思う。これまで知らなかった新しい世界を肌で感じ、音楽的な視野を広げたいと思い、今回この講習会に参加した。
研修内容
スケジュール
- 7月26日 オリエンテーション、オープニング・ガラ・コンサート、ウェルカム・パーティ
- 7月28日 第1回レッスン
- 7月29日 第2回レッスン
- 7月31日 室内楽コンサートⅠ【弦楽器を聴こう】
- 8月 1日 コンサート【ピアノ!ピアノ!!ピアノ!!!】、室内楽コンサートⅡ【管楽器を聴こう】
- 8月 2日 第3回レッスン
- 8月 2日 音楽祭バースデーコンサート、ビュッフェ・パーティ
- 8月 5日 第4回レッスン
- 8月 6日 室内楽クラスコンサート1
- 8月 7日 第5回レッスン
- 8月 7日 キリシマ祝祭管弦楽団公演
- 8月 8日 クラスコンサート
- 8月 8日 室内楽クラスコンサート2、若い音楽家たちのコンサート
- 8月 9日 ファイナル・コンサート、修了式、フェアウェル・パーティ
以上が受講生必修のコンサートとイベントであり、7月27日にクラスミーティングが行われその際にレッスン日程が決められた。レッスンは基本的に全て公開であり、自分のクラス以外のレッスンや他の楽器のレッスンも聴講可能で、またコンサートのリハーサルも鑑賞することができ、とても興味深く貴重な機会であった。
レッスン
第1回レッスン:Mozart Sonate K.457 c-moll 第1、2楽章
初回のレッスンということで最初に1楽章を通したときは少し緊張したが、通し終わり先生から初めに受けた注意が、「腕の重みをそのままかけて」ということだったので、腕を脱力して自然に指を鍵盤に下ろすと、「そうそうそう!」と先生はおっしゃった。そこで一気に体がほぐれ、気持ちもリラックスして弾くことができた。全体的に、鍵盤が下りた後の腕の使い方・音の響かせ方について指摘され、流れが止まらない音・固まらない音を教わった。特に2楽章はテンポが遅い分、長く伸ばす音符が停滞せずに響きが横に流れなくてはいけないので、このことが非常に大事であった。私はどうやって鍵盤を下ろすかということだけでなく、音が鳴った瞬間からどうやって腕を使い響かせるのかをもっと研究する必要があると思った。2楽章は、「丁寧に弾いていていいんだけれど、もう少し解放感をもって、明るく上に音が立つアップの音を増やすともっといい。」とアドヴァイスを受け、もっと気持ち自体を広くもって楽器から音が上に響いている感覚を意識しようと思った。
第2回レッスン:Mozart Sonate K.457 c-moll 第3楽章/Chopin Nocturne Op.27-2
今回はモーツァルトの続きで3楽章からみていただいた。細かな注意を受けたが、すべて分かりやすく直すこともそんなに困難ではなかったので、注意一つ一つ納得しながらレッスンを受けることができた。初めの通しで、細かい音や小さい音を出すときに時々指が浮いてしまったので、主にpの音を、「もっと発音をはっきりと質量のある音で。」と注意されたところがいくつかあった。しかし、それは指が浮いてしまったからではなく、もともと音を小さくしようとしすぎて質量の足りない音になっていたのだと気付き、意識が浅かったから指も浮いたのだと思った。小さい音を出すときに縮こまらず、小さくても遠くまでしっかり届く音を出さないといけないと思った。また、同じパターンで調が違うところは、その調のニュアンスの違いを表現することや、最後の二つの和音をそれまでときっぱりと区切り意識をスパッと変えるなどのご指摘があり、先生がその和音を弾いてくださったのだが、硬くないけれどもくっきりとしていて響きが豊かな音が無理なく出ていて、その音がとても心に残った。時間が少し余ったので、ショパンのノクターンを一回通してコメントを頂いた。「綺麗によくまとめて弾いていますよ。もう少し右手のメロディに音色のパレットを増やしたらもっといいかな。」と先生はおっしゃった。自分のノクターンにどこか物足りなさを感じながら弾いていたので、音色をもっと追究するために色々なヒントを得たいと、次のレッスンを心待ちにしながらその日のレッスンを終えた。
第3回レッスン:Chopin Nocturne Op.27-2/Chopin Ballade No.4 Op.52 f-moll
まず初めにショパンのノクターンをみていただいた。通しで、私は、上昇したり下降したりしながらハーモニーが移り変わる左手に気を取られすぎてしまい、肝心な全体の響きを聴けていなかった。先生は、「左手大事だけれども歌いすぎているから、もっと静かに一定の響きでずっと平行にながれているように。」とおっしゃってくださり、そして私の左手首を下からひょいっとあげて、「この角度でずっと弾いていくといい。」とアドヴァイスを頂いた。その高めな手首の角度は、分散和音がむら無く自然な手首の動きで流れて弾け、そして手の甲と手首の間のあたりを意識してそこで手を吊っているような感じで弾くことも教えていただき、一気に楽に自在に左の分散和音が弾けるようになった。その他に、エスプレッシーヴォに歌おうとしすぎて左右がずれないこと、流れて弾くのだが終止のときの主和音に行く前の属7のときに頭の中をセットし直すこと、所々フレージングをもっと長くすることなどを指摘していただいた。バラード第4番の最初の3ページもみていただいた。ここの部分がこの曲で一番難しく、悩んでいたので、何かを得ようと必死になった。先生からは、「音ばかりに気をとらわれすぎないで。その景色が見えてこなくなってしまう。」と言われ、もう一度気持ちをリセットしなければ!と思った。そして、誰か聴いている人の中にターゲットを一人つくって、その人に伝えるという強い表現力がもっと必要だと教わった。悩んでいる場合ではない!一心不乱にやらなければ!と強く感じたレッスンであった。
第4回レッスン:Chopin Ballade No.4 Op.52 f-moll
この前の続きでバラードをみていただいた。楽譜通りにきれいに弾けているが、やはりタッチのことばかりに考えが片寄りすぎていると指摘され、音が生まれる根源は内面からだということを今一度自分の中で整理する必要があると思った。出したい音が出ずに悩んでいるうちに、どうやればその音が出るのだろうと考えすぎてしまい、大事な"気持ち"をどこかへ置いてきてしまって徐々に道が逸れてきてしまっていた。その夜、初心に帰って新鮮な気持ちで楽譜を広げて眺めていた。やはりすべては感情からだということを改めて感じた日であった。その他に、指の腹をよく使うように、呼吸をもっと深くすることなどの助言を頂き、がさつな音でいいから息を全部吐き出しながら弾く練習をするといいと言われた。実際にレッスン中にそれを実践したとき、「ずっと太くていい音だったよ。」と先生に言われ、太い音など苦労する私にとってとても嬉しい言葉であった。また、呼吸一つでこんなに音が変わることを実感し、自分の中に音色の種類をもっと増やせるのではないかという希望と意欲が湧いた。
第5回レッスン:Chopin Ballade No.4 Op.52 f-moll/Chopin Nocturne Op.27-2
この日のレッスンは時間が30分と短かったので、基本的にアップとダウンの音の出し方について教わった。先生は新体操を例にあげ、新体操みたいに音を上に投げてあげてそのままの重みで下ろす、その時に感情も伴って音と一緒に感情が起伏することを教えていただいた。その方法でショパンのメロディを弾くと、その場ではまだ慣れずにぎこちなくなってしまった所が多少あったが、しかし感情とタッチと音がすべて合致し、感覚が分かった。この瞬間は、今まで悩んでいたものが少し解きほぐされた感じがして、とても嬉しかった。クラスコンサートまでにできる限りのことを精一杯やろうと思った。
クラスコンサート:Chopin Ballade No.4 Op.52 f-moll
若林先生クラスでクラスコンサートが行われ、私は、まだまだ自分の描く理想のショパンとはほど遠かったが途中経過として今の自分ができることを試したいと思い、ショパンのバラードを弾いた。納得のいくところ、そうでなかったところ、本当に素晴らしい曲だなぁと感じると共にやはり難しさも感じたが、弾き終わり、先生に最後のアドヴァイスとして、「よく弾けているし、この前注意したことが直っているところもあったから、この調子で頑張って。もっとめりはりのある、焦点を合わせる音というのを意識したらいい。それもすべて頭からではなく感情からね。」と言われ、やってきたことが間違っていなかったこと、そして改善すべきことが明確になり、これからの練習につながるコンサートになった。
コンサート
オープニング・ガラ・コンサート
霧島国際音楽祭がちょうど第30回という節目であったので、オープニングは盛大に開かれた。合唱から弦楽器・ピアノ(2台)のコンチェルトまでプログラムが豪華で、合唱のハレルヤのときに合唱団の方が笑顔で口が裂けそうになるくらい思いっきり大きな口を開けて張りきって歌っている姿がとても印象的であった。これから始まる霧島での2週間が楽しみでワクワクした瞬間であった。
室内楽コンサートⅠ【弦楽器を聴こう】
音楽祭教授&アーティストの方たちによる室内楽コンサートを聴いた。皆さん、どこかの交響楽団首席奏者であったりコンサートマスター・コンサートミストレスの素晴らしい方たちが勢ぞろいで、それぞれの個性の強さと、それがバラバラに発揮されるのではなく、アンサンブルとして調和されそれぞれのパートが生きていてかけ合いのアピールも視覚的にも楽しませてくれるような、本当に素敵な演奏であった。メロディだけではなくそれぞれのパートの役割を感じ、こんなにヴィオラという楽器に引き込まれたのは初めてであった。また弦のこするグワンという直接的ではない後から充満してくる響きや弦の多彩な音は、音が減衰するピアノを弾く私にとって特にモーツァルトのレッスンで音が鳴ってからの響きを注意されたので、とても勉強になった。伴奏形を弾くチェロなどを聴き見ていても、目立たないがとても音楽的で音楽の支えになっていて、自分のモーツァルトに生かすべきものが溢れている演奏会であった。
コンサート【ピアノ!ピアノ!!ピアノ!!!】、室内楽コンサートⅡ【管楽器を聴こう】
私がレッスンを受けた若林先生やダンタイソン先生も出演された。若林先生の重く深い音は、ベートーヴェンのソナタ「月光」の1楽章の時に、ズーンと心に響き、ステージのスポットライトの明るさと客席の暗さが、暗い夜の中の月の光をイメージさせとても雰囲気があった。ダンタイソン先生のショパンは、とても即興的な豊かな歌で、聴いている側の耳をそちらに持っていかれる感覚であった。とても引き込まれ、随所に鳥肌が立った。
そして、後半にはピアノが4台並び、4台16手という生で聴いたことのない編成が登場し、曲はラヴェルのボレロであったのだが、最後は迫力満点でコンサートを締めくくった。
管楽器の室内楽コンサートでは、空間に息が流れ込んで音がポワーンと広がる感じが、また弦楽器と違う魅力があり、自分がピアノを弾く時に管楽器のタンギングや息使いをもっと想像しながら弾くことができたら、音や旋律の流れ、呼吸などが変わるだろうなと思った。アンコールに編曲された「運命」が演奏され、わざと音をつぶしたり裏返したりするユーモアのある音楽で面白かった。
その他にも沢山のコンサートが開かれ、8月7日の宝山ホールで行われた「キリシマ祝祭管弦楽団公演」では、あまりに感動してボロボロと涙が出てきた。本当に音楽は美しく、楽しいものだなぁと実感し、出演者の方々の熱演ぶりに大変感激した。また、8日に行われた「若い音楽家たちのコンサート」では、各クラスから1人ずつ先生に推薦された受講生が出演され、それぞれのカラーが出ていて、自分と年齢が同じくらいの人たちの素晴らしい演奏を聴いて、とてもいい刺激になり、自分ももっと頑張ろうと励みになった。
レッスンの聴講
今回のこの講習会のマスタークラスで、自分がレッスンを受けることはもちろん勉強になるのだが、他の人のレッスンの聴講もとても良い勉強になった。
ヴァイオリンのゲーデ先生クラスのレッスンを聴講しに行った時、とても表現意欲が豊かで曲の場面の変化や緩急の付け方上手で、聴き入ってしまった。レッスン室が狭いので自分の目の前で、弓の使い方などによる音色の変化を聴くことができて良かった。ダンタイソン先生クラスを聴講したとき、身長が145cmのとても小柄で手や腕も特別がっしりしているわけではない受講生の方が、リストのソナタを弾き、レッスン室にいた人たちが皆その演奏の虜になっているような、そんな感動の30分があった。この2週間で最も感銘を受けた演奏であった。あの体のどこからあのような音が出てくるのかとても不思議であったが、ダンタイソン先生がおっしゃるには、重力をとても上手く使っているそうで、弾き終わったあとは先生からも聴講生からも拍手が沸き起こった。私はそのレッスンが終わったあと直ぐ様その受講生のもとへ駆け寄り、いろいろな話をした。話を聞くと、やはり人一倍苦労して悩んで努力していることが理解できた。でも逆に、そういった苦労があるからこそ人を感動させる音楽ができるのだとも思った。他にも、自分に持ってないものをもっている人たちの演奏を沢山聴くことができて、特に他の学校の方や外国人の方の演奏は聴いていて新鮮であった。他の人のレッスンであっても、先生のアドヴァイスは自分にも当てはまることなので、レッスンを何倍も受講したような、たくさん吸収できた気がした。
研修を終えて

私は今回が初めての講習会であったのだが、音楽漬けの日々でとても充実した2週間を過ごすことができた。霧島は空もきれいで緑にあふれ、虹が出た日もあった。またお昼には地元のボランティアの方々がランチパーティを開いてくださり、とても美味しいご飯を頂き元気に過ごすことができた。地元の方は親切で、ホテルやホールまで送り迎えをしてくださった時もあり、霧島全体で音楽祭を盛り上げ、受講生をバックアップしてくださる環境に、とても感謝した。数多く開かれるコンサートも、弦楽器・管楽器・ピアノ・オーケストラ……独奏から大編成まで様々な、そして生き生きとした音楽を聴き、濃密なカリキュラムのもと、たくさん得るものがあった。コンサートやパーティなどイベントも多いため、いろいろな人と交流をもつ機会があり、他の学校の人や外国人の受講生、色々な先生と沢山話をしたり演奏を聴いたことは、とてもいい刺激になり、勉強になることばかりであった。また、若林クラス会が3回ほど行われ、先生と受講生と、沢山食べ、話し、笑いにあふれた時間を過ごすことができ、とても楽しい思い出である
レッスンでは主に、腕の重みをそのままかけ呼吸を深くすること、そして意識を深くもつことを教わり、これは大きな課題であり、自分の音色のパレットを増やし自分の音楽というものを深いものにする為に、非常に大事なことを学ぶことができたと思う。。そして、様々なコンサートや人の演奏を聴いて何度も心を打たれ、自分は本当に音楽が好きなんだということを改めて実感し、また、人を感動させられる演奏家になりたいとまた強く思った。表現するという熱意、演じるという強い意識をもつことの大切さを感じ、これからの練習で実践していこうと思う。霧島での2週間はとてもいい思い出であり、全ていい経験になった。霧島で学んだこの宝物を糧に、これから自分に厳しく、そして音楽を学べることに感謝して、頑張ろうと思う。
最後に
今回、このような大変貴重な機会を与えて下さいました学生生活委員会の先生方、学生課の皆様、指導してくださっている先生、いつも支えてくれる家族や友人に、心より感謝いたします。本当に私は幸せ者だと改めて感じます。最後になりましたが、お礼申し上げます。本当にありがとうございました。