国立音楽大学

モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー(オーストリア・ザルツブルク)

石川 遥 4年 演奏・創作学科 鍵盤楽器専修(ピアノ)

研修概要

研修機関 : モーツァルテウム夏期国際音楽アカデミー
研修期間 : 2025年7月17日~7月28日
担当講師 : Christoph Declara教授

研修目的

私は国立音楽大学でこれまで音楽を学んできて、「現地の音楽に直接触れたい」という思いが次第に強くなった。現地でしか味わうことのできない感動や刺激が、きっと言葉では言い表せられないほどに大きいと感じている。それは心と体で感じ、音として得られたものから、自分自身の音楽表現の幅を広げ、さらには感性を磨いていくことにつながると考えるようになった。
今の自分の演奏は、音楽に真面目に向き合いすぎていてその結果音楽が硬くなってしまい、音楽本来の楽しさを音として表現することができていない。だから今回の講習会で現地の音楽を自分の耳で聞いて肌で感じ、もう一度、自分自身の音楽を見つめ直したいと思った。

研修内容

レッスンについて

受講生は、全員45分レッスンを4回受けることができた。通訳はおらず、レッスンはすべて英語で行われた。そして、公開式のレッスンであったため、聴講者は自由にレッスン室を出入りでき、様々なクラスのレッスンも聴講可能だった。
まず先生とクラスの受講生と集まってレッスン打合せを行い、4回分の自分のレッスン枠を決定した。
練習室については、大学内の練習室をピアノの人は一日3時間、他楽器の人は一日2時間無料で借りることができ、3時間連続して借りることもできたし、午前中1時間、午後2時間と分けて借りることもできた。それ以上練習したい場合は有料にはなるけれど、貸出は可能だった。

7月21日レッスン1回目

ベートーヴェン ピアノソナタ第3番1楽章

この日が講習会初日で、打合せ後、すぐのレッスンだった。まず通して一度先生の前で演奏した。特にご指導いただいたことは、「呼吸をもっとする」ことだった。私自身、自分の演奏中、呼吸が十分にできず、あわただしくなってしまうことが悩みだった。今回ベートーヴェンでのレッスンで、隣で先生が一緒に呼吸をしながら歌いながらわかりやすくご指導してくださったので少しでも「呼吸する」という感覚が分かった気がした。
そして、第2主題の旋律について、歌が足りていない、とご指摘を受けた。「ここはお花の素敵な匂いを嗅いでいるように」、「このアクセントはため息のように」、「この部分は夢の中にいるような音で」など、先生からのイメージするお言葉をたくさんいただいた。自分では歌っていたつもりでも、それが聴く人に伝わらなければ意味がないので表現や音色の幅を増やす必要があると実感した。

7月22日レッスン2回目

ベートーヴェン ピアノソナタ第3番1楽章

昨日のレッスンの最後に、もう一度レッスンをしましょう、とおっしゃったので続きをレッスンしていただいた。今回のレッスンで主に指摘いただいたことは、ffやsfの音の鳴らし方だった。力強い音を出すときは、上半身に力をいれず自由な状態で、腕、手首に力をいれずに指は1本1本しっかりと動かす。「どれだけ大きな音でも、決してうるさい音はだしてはいけない」とご指導を受けた。無駄な力が入らないために、ストレッチをすることが基本だとおっしゃっていたので、改善するために常に頭で考えて演奏するように心がけたい。また、同じfの部分でもどんな感情のfなのかを考えて音を鳴らせるように、常に音をコントロールする意識を持てるようにしたい。

7月23日レッスン3回目

リスト 巡礼の年第1年より第6曲「オーベルマンの谷」

3回目のレッスンでは、リストをレッスンしていただいた。この曲は、休符や長い休みが多い。「音が鳴っていないときも音楽を感じて、気持ちが途切れないように」とご指導いただいた。音数が少なかったり、音がない間・瞬間の音楽の感じ方や気持ちの持っていきかたの難しさを感じた。

7月24日レッスン4回目

リスト 巡礼の年第1年より第6曲「オーベルマンの谷」
バッハ 平均律2巻D dur

レッスンの初めに、「バッハの作品は何か弾けますか?」と先生から聞かれたので、レッスンしていただく予定はなかったけれど、平均律を一曲見ていただいた。そして昨日のレッスンの続きのリストを見ていただいた。バッハは、特にプレリュードが、自分では気付かなかった内声に隠れたテーマや横の流れのつながりを新しく発見できた。

クラス修了コンサート

この日がクラスでは最後の日となり、大学内のホールでコンサートを行った。誰でも聴けるスタイルで、一般の方や大学内の他の先生も聴きにこられた。コンサートで弾く曲は、先生と相談をして、ベートーヴェンのピアノソナタ第3番第1楽章に決まった。順番が一番だったのでとても緊張したが、先生やクラスメイトが温かく見守ってくださり、安心してのびのび演奏することができた。同じクラスメイトの演奏にもとても刺激を受けた。

研修を終えて

Christoph Declara教授と
Christoph Declara教授と

初めての地に足を踏み入れ、はじめは不安や緊張でいっぱいだったけれど、本当に充実した日々を過ごすことができた。美しい街並みや建造物、街に響き渡る鐘の音色、道端で演奏している楽器の音、見るもの聴くもの全てに感激して、まさに街全体が芸術だった。

研修期間中に聴いたコンサートや、同じ講習会に参加していた学生の演奏を聴いて、演奏者は本当に音楽を心から楽しんで演奏しているなと感じた。そして、本来の音楽はこのように楽しむものだと気づくことができ、それと同時に自分の今後の課題点も見つけることができた。現地の先生のレッスンを通して、音楽は思っている以上に自由に表現してよいのだということに気づいた。それまで自分の中にあった「こうしなければならない」という枠を少しずつ外せた気がして、自分らしい演奏について考えるきっかけになった。

このような機会をいただけたことで、本当にかけがえのない1週間を過ごすことができました。お世話になった奨学金担当の皆様、たくさんサポートをしてくださった金子先生はじめ大学の先生方、受け入れてくださったクリストフ・デクララ先生、関わってくださった全ての皆様に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。今回の研修での学びを活かし、これからも精進していきます。

新納洋介先生のコメント

石川遥さんがザルツブルクでの研修を通して得た経験は、演奏技術の向上に留まらず、音楽との向き合い方に変化をもたらしたように感じます。Christoph Declara教授からのご指導を通じて、呼吸、音色、休符の意味など、演奏の根幹に関わる理解が深まったことは、今後の音楽活動において貴重な糧になることでしょう。特に「こうしなければならない」という思いから少しず自由になり、石川さんらしい表現を模索し始めた姿勢には、深い探究心が感じられます。また、街の音や文化に触れた体験も、感性を育てるうえで大きな刺激となったことと思います。一週間という限られた時間の中でも工夫を重ね、修了コンサートでは堂々と演奏されたとのこと、嬉しく読ませて頂きました。この研修で得た学びが、石川さんのこれからの未来における意味深い節目になることを期待しています。

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