劇団四季 俳優
町島 智子 さん
舞台に立てることに感謝して今日も歌い続ける
俳優を志して国立音楽大学で声楽を学び、現在は劇団四季で活躍する町島さん。ディズニーミュージカル『アナと雪の女王』のアナや、劇団四季オリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』のフロー(フローレンス・ナイチンゲール)などを演じています。役づくりの心構えや、音楽に対する想いなどのお話を伺いました。
プロフィール
町島 智子 さん
MACHISHIMA Tomoko
Profile:東洋英和女学院高等部卒業。国立音楽大学演奏学科声楽専修卒業。2013年劇団四季研究所入所。『魔法をすてたマジョリン』で四季での初舞台を踏み、『アナと雪の女王』アナ、『ゴースト&レディ』フロー(フローレンス・ナイチンゲール)、エイミーを演じている。『美女と野獣』『リトルマーメイド』『ノートルダムの鐘』『エビータ』にも出演。
やりたいことは「ミュージカル」しかなかった
──子どもの頃から、俳優になりたいと思っていたのですか?
小さい頃は全然考えていませんでした。歌のレッスンなども特にしていなかったです。ミュージカルの道に進もうと思ったのは高校2年生の夏でした。本当にやりたいことは何だろうと考えていて、舞台、それもミュージカルが好きだなと思ったのがその頃。そこで初めて、音大を目指して勉強を始めました。
両親はどちらも教員だったので、そういう道に進んで苦労している生徒を見ていたこともあって、最初は反対されたんです。「食べていけないよ」とはっきり言われました。でも私が「やりたいことはこれしかない、他のことをしろと言われてもできない」という強い気持ちでいたので、結局、教員免許を取ることを条件に音大進学を許してくれました。
──俳優を目指す場合、専門学校などの選択肢もあったと思いますが、くにおんを選んだのはどういう理由でしたか?
ミュージカルは歌と踊りとお芝居の3つが必要で、全部をまんべんなくやるよりは、その中で一つ自分の武器になるものが欲しかったんです。踊りはやっぱり、バレエを小さい頃からやっている人にはかなわない。お芝居は、部活で英語劇をやっていたくらい。あとは歌です。私が行っていた中学高校は、なぜかみんな歌が好きで、音楽の授業の後、音楽室から自分のクラスまで、ずっとみんなで歌って帰ってくるような学校だったんです。合唱コンクールもすごく盛り上がりますし。そういう環境だったので、私も歌うことはずっと好きでした。やっぱり歌の基本はクラシックだ、と思っていたので、音大できちんと声楽を学ぼうと決めたんです。
──くにおんに入学されてから、声楽を学んでみていかがでしたか?
正直、成績が良い方ではなかったので、苦労はしました。自分で選んだ道とはいえ、どちらかというとクラシックには苦手意識があったし、だからこそ学びたかった。でも、自分が素敵だと思う「上手な人たち」の声に自分がなれず、それがすごくつらかったです。なんでこんなに苦しんで、歌うんだろうと思いましたし、私にとっては、ソルフェージュや新曲視唱は本当に苦痛でした。
それでも私は中途半端が嫌だったんです。「受験の時、声楽をちゃんと学ぶと決めたよね、私」と思い返して、耐えました。結局、クラシックをきちんと学んだこと、音楽のロジックを叩き込まれたことは、いま確実に強みになっています。
オーディション合格を導いたのは感謝の気持ち
──劇団四季では数々の舞台を務め、2021年に『アナと雪の女王』のアナ役をつかみましたが、そこまでの道のりは?
オーディションはたくさん受けました。自信満々にオーディションに臨んでも、落ちる。そのうち「どうせ選ばれない」と思うようになっていました。
そんな時に、友人に「でも、劇団四季に入っていること自体、もう選ばれているんでしょ」と言われてはっとしました。そうか、舞台に立てることに感謝して、自分の歌を聴いてくれる人に「ありがとう」と思わないといけない、と。そんな中、ブロードウェイの『アナと雪の女王』を観る機会がありました。悲しい物語でもないのに、なぜか涙が止まらなくなっていました。
劇団四季で上演するためのアナ役のオーディションでは、涙を流すくらい心が動く舞台に立てるチャンスをいただけたことに、心から「ありがとう」という気持ちで臨みました。3次審査には海外からのクリエイティブスタッフたちが審査のために来日されたのですが、その時は私の歌を聴いてもらえることに感謝の気持ちでいっぱいでした。結果、アナ役をつかむことができたんです。気持ちと技術が結びつき、良い結果を生み出せたのかもしれません。
──アナ役のための役作りや、演じる上での苦労などはありますか?
アナ役は歌や演技だけでなく、高い身体能力が求められるんです。衣裳に加えて、踊り用ではないヒールの靴を履いて演じなければなりません。リフト(男性が女性を持ち上げるなどのアクション)もたくさんあります。リフトって男性だけでなく女性の力もかなり必要なんですよ。「生まれて初めて」という曲は、ずっと動きながら歌うので、トレーニングは大きい稽古場でとにかく走りながら歌っています。うれしい、楽しい、自由だ、という曲なので、息が上がっちゃったら、見ていて辛いですよね。
私はもともと筋肉が多い方ではあるんですけど、体幹を鍛える意味で、ピラティスとバレエのレッスンを受けています。バレエでは細かい筋肉を意識してトレーニングするようなレッスンを受けています。
──アナに続いて『ゴースト&レディ』のフローという、また違ったタイプの役を演じていらっしゃいますね。
フローに関しては、音楽的にも難しいんです。音の運びが器楽曲的というか、トリッキーで、技術が試されるところがあります。アナと比べるとフローは、クラシックの発声で用いられるようなポジションを求められる曲も多くて、私はそこを開拓したかったこともあり、チャレンジしました。割と地声が強いタイプなのですが、結局、声帯も筋肉ですから、長年歌ううちに鍛えられて声も変わってきたし、苦手かなと思っていたクラシックも少しずつ馴染むようになってきているので、このタイミングでフローをやらせていただけるのはすごくありがたいと思います。
その日にできる100パーセントで舞台に立つ
──役作りのために何が必要かというのは、ご自身で導き出すのですか?
ずっとレッスンを受けている今のバレエの先生は、私の体や癖もよく知っているので、この役だったらどういうことをやった方がいいか、といった相談をしています。この仕事は気合と根性だけでは続けられなくて、技術を磨くためのロジックがやっぱり必要なんです。歌や芸術の世界は感覚、センスも大事ですが、それだけだとだめなのも事実で、喉を壊さないためにどうするかとか、今の自分がこうだからこうしてみようとか、そういった判断をするために、知識やロジックは絶対に必要だと思っています。台本にしても感覚で読むだけでは言いたいことがわからないし、演技も伝わりません。それを自分が演じる過程の中で、ロジカルに解釈して、自分の表現と結びつけることで、迷いのない演技ができるようになっていきます。
──公演中に、コンディションを保つために気をつけていることは?
くにおん在学中に小川哲生先生から言われた、今でも心に留めている言葉があります。あるレッスンの時に、風邪をひいてすごく調子が悪くて、それがそのまま歌に出ていたんですよね。そうしたら「これからプロになったら、調子が悪くても本番はある。もちろん本番に向けて万全にしておく必要は絶対あるけど、人間だからいつも万全ではない。でもその時にできる100パーセントでやりなさい」と。
ロングランで週に6回7回と公演があると、常にベストコンディションでいられるわけではありません。もちろんベストコンディションで臨みたいけれど、現実に喉の疲労はあります。でも、今日見に来てくださっている人には、ベストをお見せしたい。今日は調子が悪いのでこの程度で、というのは違う。その日にできるベストを尽くそう、と思うんです。
──音楽を仕事として続けていくための原動力は何ですか?
やっぱり、好きかどうかが一番強いなと思います。大学の同級生を見ても、やめていく人も多い中、世界で活躍している人、できる範囲で続けている人、いずれにしても好きだからやっているんですよね。私も、やっぱり好きだから歌い続けたいと思っています。ミュージカルは特に、音楽が語っている部分がすごく大きいから、音楽を学んできてよかったと思うし、作曲家の意図を汲みながら役作りをしたりするのが私は好きなので、この好きがなかったら、多分続けていけないと思います。
音楽はみんなに栄養を与えてくれるもの
──くにおんで過ごした4年間は、町島さんにとってどのような時間でしたか?
常にどこかから楽器の音が聞こえてくる生活でしたね。ピアノや歌だけでなく弦、管、打楽器の音がふぁーっと聞こえてくるあの感じ。つらい気持ちでいるときも、誰かが練習してる音が聞こえるから、自分もやろう、って思えるんです。あれはやっぱり音大にしかない環境ですね。あの空気を毎日当たり前のように摂取していたことは、すごく幸せだなと思います。
私は在学中に幅広く活動をしていたわけではありませんが、それでも、いろいろな楽器の人、専攻の人たちと出会えたことは、すごく大きかったです。歌だけやっていると知らない知識も、弦・管・打楽器の人たちや、作曲や音楽デザインの人たちと話すことで得られました。そういう人たちとの交流があったことで、音楽的にも豊かになりましたね。
──これから、音大に進んで音楽を学びたいと思っている人たちへ、メッセージをお願いします。
今は、オーケストラやオペラなど舞台の実演を見に行かない方が多いんですよね。それ以外のエンタメコンテンツが身近にたくさんあるからでしょう。だけど、音楽や舞台に、もうちょっと気軽に触れていいと思うんです。芸術は生きていく上で必要なものだと思います。人間は、食べて寝るだけじゃない。芸術から大切な栄養を得て生きていると、私は信じています。
音楽はみんなに栄養を与えてくれるもの、人を豊かにしてくれるもの。上手くなろうとか、そういうことだけではなくて、もっともっと楽しむ気持ちでいてほしいです。
