国立音楽大学

横屋 藍さん

地道な仕事がミュージシャンの活動を支え、文化を発展させる

「著作権」に比べ、あまり世間に知られていない「著作隣接権」。中でも音楽を“演奏する人”を守る、大切なこの権利を扱う仕事をしているのが、卒業生の横屋藍さんです。芸術の道へ進む誰しも直面する「音楽を仕事にすること」について、ご自身の経験から語っていただきました。

プロフィール

横屋 藍(よこや あい)さん

Profile:横屋 藍(よこや あい)さん……1996年生まれ。2019年に国立音楽大学音楽学部音楽情報専修卒業後、クラシックの音楽祭やオペラ公演等の制作業務に計4年間従事する。2023 年、アーティストやミュージシャンに著作隣接権使用料等の分配を行っている一般社団法人MPN に転職。

オーケストラへの興味をきっかけに音楽の道へ

──大学入学までの音楽との関わりや、くにおんに進学した理由を教えてください。

ピアノは小さい頃から習っていましたし、中学生のときは吹奏楽部に入っていたので、音楽は身近にありました。ピアノのレッスンを受けていたのは中学生までだったので、演奏で音楽大学に行くつもりはありませんでしたが、音楽に関わる仕事はしたいと思っていました。具体的には、オーケストラで働きたいと思っていたんです。
将来、プロの音楽家と仕事をするなら自分自身もきちんと音楽を学びたいと思ったので、アートマネジメントと音楽学が両方学べる音楽情報専修を選びました。

──オーケストラはご自身でもよく聴いていたのですか?

学生の頃、演奏会にはよく足を運びました。一人で行っていたので、終演後に他のお客様同士で感想を言い合っているのを聞いて、「この人はああいうふうに感じたけど、私はそう感じなかったのはなぜだろう」と自分の感想と比較するのが面白くて、すごく勉強になったと思います。新しい作品や作曲家、演奏家を知るきっかけにもなりました。クラシックに限らず、コンサートホールで音楽を聴くことと、オーディオなどで音楽を聴くのはまったく異なります。「体験」として楽しんでいましたね。

──学生時代から、将来の仕事のことは意識していましたか? また、そのために実践したことはありますか?

音楽に関わる仕事がしたいという気持ちが先にあったので、もちろん卒業後については意識はしていました。自分の希望で音大に通わせてもらったからには、きちんと勉強して、音楽の仕事に携われるように頑張ろうと思っていましたね。
音楽情報専修では3年次にコンサートホールや出版社へのインターンシップに行くことができますが、もともと関心があったこともあり、2年次に個人的にオーケストラの事務局のインターンシップに参加しました。このインターンシップがきっかけでオーケストラ関係のアルバイトにお誘いいただいたことが、音楽業界で働く上での下地になったと感じています。新卒で入社した会社の募集情報を教えてくれたのも、インターンシップでお世話になったオーケストラの事務局の方でした。「この業界に興味がある」「こんな仕事がしたい」といろいろな場で話してみることで、世界が広がる可能性もあると思います。

音楽家へのリスペクトを持って仕事に臨む

──現在お勤めの職場の、業務内容について教えてください。

「著作権」という言葉はご存知かもしれませんが、「著作隣接権」は知らない方も多いのではないでしょうか。「著作権」は、作詞や作曲など、その楽曲を創作した人の権利ですが、「著作隣接権」は、その楽曲に演奏で参加した人(実演家)や、音源の製作に投資した人(レコード製作者)、すなわち「著作物の伝達に重要な役割を担う人」に与えられている権利です。私の職場では、その中でも「実演家」の著作隣接権使用料を取り扱い、権利者へお支払いする業務を行っています。アーティストやミュージシャンの皆さま一人ひとりが、ご自身が参加した音源や映像を使用したい方々(テレビ局など)と個別に使用料や条件等を交渉し、お支払いを受けることはとても困難なため、権利者に代わって集中管理をしています。適切な報酬をお支払いすることで、クリエイターの皆さまが安心してより良い作品を生み出すことができるようになり、ひいてはそれが文化の発展につながることになります。

──具体的には、どのようなお仕事をされていますか?

私は、楽曲の使用者から徴収した使用料を実演家に適切にお支払いする「分配業務」を担当しています。膨大かつ重要なデータを扱うため責任が伴いますが、その分大きな達成感を得られる業務です。分配をするためには、使用される楽曲に誰が参加しているかの情報を収集することがまず必要になります。ディレクターやアレンジャー、制作会社に問い合わせたり、CDジャケットの情報を調査したり。実演者本人の自己申告も情報源です。
さらに、まだ十分とは言えませんが、著作隣接権というものを広く知ってもらうための「広報活動」も行っています。著作権に比べて著作隣接権の知名度はまだまだ低いので、これから音楽家になる方々にも、まずは著作隣接権を広く認知してもらう必要性を日々感じています。また、誰もが容易に作品の配信ができるようになった時代ですが、法整備は追いついていません。クリエイターの皆様が適切な対価を受け取れる環境の整備に向け、関係団体との連携をはかりながら、国への提言等も行っています。

──くにおんで学んだことは、いまのお仕事にどのように生かされていると思いますか?

音楽の専門知識が必ずしも必要というわけではないので、音大の卒業生は私一人なんです。ただ、音楽好きが集まっている職場ではあるので、その中で「この分野は自分が詳しい」と思える分野があるのは、大学で専門的に学んだ強みかもしれません。やはり音大で一通りのことをきちんと勉強したからこそ、自負を持って働けると思っています。同世代がみんなちゃんと音楽をやっていて、互いに切磋琢磨している環境で学んだことは大いに刺激になりましたし、この仕事を続ける上でベースになっている、アーティストやミュージシャンに対してのリスペクトの気持ちは、そんな環境があったからこそ持てるものだと思います。

演奏の現場からは離れていますが、今でも音楽に関わる仕事を続けられていることに、まずはやりがいを感じています。文化が脈々と受け継がれていくことはもちろん、新たな音楽が生まれ享受される環境の整備を、少しでも下支えができればという思いで仕事に取り組んでいます。

さまざまな仕事に実際に触れて、イメージを広げよう

──横屋さんにとって、音楽とはどういう存在ですか?

音楽は小さい頃からずっとやっていたこともあり、家にピアノがあるのが当然の人生を歩んできたんです。転職した頃に引っ越して、初めてピアノがない生活になりそうだったとき、「ピアノがなくなる」ということが、嫌だなあ、と感じたんです。別に、毎日弾いていたわけでも、それほど弾けるわけでもないのに…。それで電子ピアノを買って、今も家にあります。結局弾かないんですけど(笑)、あるだけで満たされている。それくらい「ないことが考えられない」存在だったんでしょう。好きだからこそ、音楽に関わる仕事を続けられていると言えるかもしれませんね。

──これから国立音大を受験する人に伝えたいメッセージはありますか?

音楽と本気で向き合っている同世代と同じ環境で学べることは、なによりの強みだと思います。音楽学は一般大学でも学べますが、キャンパスのあちらこちらから練習の音が聞こえる環境はとても刺激的です。同期や先輩、後輩がさまざまなジャンルで活躍している姿を見ることも、自分の励みになります。
将来は音楽に関わる仕事がしたいと考える方は多くいらっしゃるでしょう。演奏家や、その演奏の現場に関わる仕事はもちろんですが、それ以外にも音楽業界にはさまざまな仕事があります。インターンシップでもアルバイトでも、ごく短い期間であったとしても、実際に音楽関係の仕事に触れる機会を持つと、イメージも広がると思います。自分の軸を大切にしつつ、時には自分とは違う視点から音楽と向き合っている仲間からの刺激を受けながら、視野を広く持つことが必要ですね。

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