国立音楽大学

横山克(作曲家)

くにたちでの出会いや学んだことが
作曲家という仕事の随所で

活かされています
/2017年4月

プロフィール

横山 克 さん(よこやま まさる)
YOKOYAMA Masaru
作曲家

横山克(作曲家)

長野県出身。長野工業高等専門学校電子情報工学科、国立音楽大学作曲学科卒業。ドラマ、アニメ、映画、ドキュメンタリーなどの映像音楽を中心にアーティストやアイドルへの楽曲提供、CMなどの作編曲も手がける。大学在学中の2005年から作曲家として活動。音楽を担当した主な作品は、映画『ちはやふる』、『ヒロイン失格』、『心が叫びたがってるんだ。』等多数。テレビはアニメ『四月は君の嘘』、『機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ』、TBS系ドラマ『Nのために』、『夜行観覧車』、CX系ドラマ『僕のヤバイ妻』、NHK『クローズアップ現代+』、『ファミリーヒストリー』、NHKスペシャル『生命大躍進』等多数。CDは『横山克NHKWORKS』、ももいろクローバーZ『Chai Maxx』、『白金の夜明け』、イヤホンズ『一件落着ゴ用心』等、多数の作曲・編曲担当。2017年4月からはTBS系ドラマ『リバース』音楽担当。

インタビュー

映画、TVドラマ、アニメ、アイドルへの楽曲提供など、横山さんの音楽を耳にしない日はないというほど精力的な活動をされている作曲家、横山克さん。
作曲家を志したきっかけから学生時代の思い出、そして現在の目を見張るほどの活躍まで、飾らない言葉で語っていただきました。

いい音楽を作るだけでなく
そこに独自のアイデアを
提案するのが作曲家の仕事

 

常に進路選びの根幹にあったのは「音楽」

―どのように作曲に関わるようになったのですか

 くにたち出身でもある伯母が長野県の地元でピアノ教室を始めたので、3歳からそこに通いました。でも練習嫌いで、決められた曲を弾くことが苦手でした。自分の作った曲なら楽しく弾けるんじゃないかと思ったのが小学校5年生の時です。そうして作曲のまね事を始め、中学生になるとシンセサイザーや自宅のコンピュータを使って曲を作るようになりました。バンドもやったりしましたね。コンピュータが好きで、より中身を知りたいと思い、専門的に5年間学べる高専に進学、電子情報工学について学びました。高専卒業後は音楽の道に進みたいという思いは常にあったものの、音楽の体系的な勉強をほとんどしていなかったので、音大に進学するという発想を当時は持っていませんでした。しかし、ある日伯母に「音大を目指してみたら?」と言われたことで気持ちが傾き、目指してみようかなと思ったんです。

ー高専の勉強と受験勉強の両立は大変だったのではないですか

 高専ではレポートや試験が山のようにあり、留年も珍しくなく、恐怖心との戦いでした(笑)。でも、自分で選んだのですから、やるしかないですね。子供の頃から好きだったスタジオジブリの作品を手がける作曲家で、同じ長野県出身である久石譲さんがくにたち出身であったこと、また伯母が卒業生であったことなど、シンプルな理由でくにたちを目指すようになりました。 
 受験勉強は、まずくにたちの受験準備講習会に通い、和声を習うことから始めました。それまで楽譜を読むことはしていましたが、きちんと手で書くという経験が少なく、臨時記号を音の右側に書いてしまうようなレベルからのスタートでした。地道な勉強の積み重ねでしたね。

新たな出会いや刺激があった学生時代

横山 克さん

―印象に残っている授業など教えてください

 大学においていちばん勉強になったのは現代音楽についての授業です。最初に聴いたときは「何だこれ?全然わからない?!」と思いました。そのような、一見難解な音楽語法をどうして表現手段として用いるのかということを、そこに至るまでの道筋を自分が理解できるところまで学べたことは、大学4年間の学びの中で最大の収穫だったと思います。また、自分の学科ではありませんでしたが音楽デザイン学科(※)の授業に、ひんぱんに顔を出していました。インタラクティブ・コンピュータミュージックに触れられたことは、かなり刺激を受けました。ここは、高専で学んだ知識と繋がった部分でもありますし、今でも自分なりの個性を入れ込む手法の一つとなっています。

※音楽デザイン学科は、現在の演奏・創作学科コンピュータ音楽専修です。

―先生や友人とはどんな出会いがありましたか

 音楽理論を学んだ今村央子先生から「和声の勉強をこれほどしっかりするのは、あなたの人生で今だけだ」と言われたことが印象深く残っています。本当にその通りなので、今学ばなければ、と。クラシックの知識が本当に足りなかった僕に「なんでお前そんなことも知らないの?」と率直に言ってくれる同級生もいました。そのくらい言い合える関係性は本当に貴重です。僕も色々と言ってましたし(笑)。コンピュータで作曲するときに使うソフトのことをみんなで教え合う勉強会などもやったりしていて、学生時代ならではの経験でしたね。現在同じ事務所に所属しているギタリストであり作曲・編曲も行う堤博明とは、くにたちで知り合い、僕が手がけた曲のギターはほとんど彼の演奏です。同じ先生に習っていた仲間には富貴晴美さんもいて、よく色んな情報を交換していました。同じ大学で一緒に学び、お互いの成長過程を知っているというのは心強いものがあります。

―在学中から作曲の仕事を始められましたね

 大学に入学したのが20歳の時でしたので、早く仕事をしなければ、という危機感が強くありました。3年生になった頃から色々なところに自分の曲を送り、声優さんへの楽曲提供やCMの仕事をするようになりました。音楽プロデューサーから、「君の音楽はなんでこんなにダサいんだ」、「音大生なのにわからないの?」といった罵詈雑言を毎日のように浴びながらもみっちり教育を受けましたね(笑)。知識不足を恥じ、それまでにも増してさまざまなジャンルの音楽を毎日作っていました。打ち合わせの後にすぐ曲を作って録音ということも珍しくなく、今の自分を構成した大切な時期でした。

大切なのは自我を持ち自分で選択すること

横山 克さん
ニューヨークでのレコーディング風景

―作曲活動で心がけているのはどんなことでしょう

 いい音楽を作るというのは、ある意味では多くの人にできることだと思っています。映像に合う音楽というのもまた、当たり前と考えています。毎日曲を書き続けていれば、必ずたどり着けます。その上で、作品に合致する何らかのアイデアを曲の中に入れ込んで表現することを大切にしています。例えば今、僕が熱心に取り組んでいるのはさまざまな国での録音です。音色やフレーズの捉え方、グルーヴ感が違うと思っています。育ってきた環境や音楽に由来しているのでしょうか。「海外のミュージシャンは上手いね」という意見を聞くこともありますが、それは全く違います。「上手い」のではなく「違う」のです。同様に、曲も、プロダクションの進め方も違います。記譜のルールでさえ違いがあるんですよ。違いを取り入れることで、自分の持てる音楽性が変質するのが面白いんです。
 オーケストラはもちろんですが、さまざまなバンドや楽器、ミュージシャンを取り入れたりもします。例えば、作品のコンセプトから「成り上がり者たち」を表現したことがあります。成り上がり感をブラスアンサンブルの荒々しい感じで表現しようとしましたが、楽器編成は似ているものの、陽気なラテンブラスと、土着的なバルカンブラスでは全く表現されるものが違いますよね。この「違い」は、その人のバックグラウンドからにじみ出るものが大きい気がするんです。
 もちろん、決まった形がないので、毎回チャレンジです。言語の壁もあり、とても苦労しますが、このようなアイデアの実現ができると、次の仕事では、それはチャレンジではなく「普通のこと」となり、その分また別のことにチャレンジできます。実は、僕は音楽の才能は大してないと思っていますが、やり方を見つけたり、組み立てたりするのは得意です。これは、くにたちで現代音楽に触れた影響が大きいんですよ。自分がなぜこういった表現手段をとるのかを、しっかりと考えるためです。大学での学びが社会に出た今、確かに役立っていることを感じます。
 ドラマ、アニメ、映画、アイドルとさまざまな仕事をしていますが、それぞれのフィールドから得たものと、自分のアイデアを全てリンクさせていきたいです。この繰り返しが、新たな自分の発見へとつながっていくので、ここでは一例を挙げましたが、考えることは、現在進行形でどんどん変わっています。進化することが重要です。

―横山さんのアシスタントの皆さんは、くにたちの作曲科出身の方が多いですね

 人のつながりもありますが、純粋にスキルをみて仕事をしています。くにたちはきちんと勉強すればスキルを身に付けられる場とも言えます。同じ大学出身だと、何を学んできたかが見えやすいという点がいいですね。

―くにたちをめざす人へのアドバイスをお願いします

 「選択は自分でする」ということを、常に意識することが大切だと思います。そして、その責任は自分で取る。そのためには、身近な人…例えば、親や先生が言うことだけが全てではないと自覚する必要があります。もちろん、それらは全て貴重で、経験からの良いアドバイスでもあります。ただ、自分にとってどうなのか、考える必要が必ずあります。人と繋がることがSNSなどを通しても簡単にできる時代です。さまざまな人から意見を聞き、その中のどの意見を受け入れるのかを自分で判断して選択するという「自我」を持つことが大事です。そして、選択するからには、その責任を自分で持つ必要があります。そうすれば受験勉強する意味も見出せるでしょうし、意味を見出せない人はそもそも大学に行くべきではありません。大学に行くというのは贅沢なことですから。
 大学に入ってからも常識にとらわれたり周囲に流されたりすることなく、くにたちに入学した目的を明確にして学んでほしいです。自分にとってくにたちがどういう場所なのかを意識できれば、勉強もしやすく仲間も作りやすい、非常に恵まれたいい場所だと思います。自分で選ぶ、そして目的を明確にする。それが僕からのくにたちを目指す人へのメッセージです。

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