Tomggg(作曲家・編曲家・ビートメイカー・プロデューサー)
「コンピュータ音楽」は未知数
だからこそ、いま学ぶ価値がある
/2025年4月
プロフィール
Tomggg
作曲家・編曲家・ビートメイカー・プロデューサー
1988年、千葉県生まれ。2011年、国立音楽大学音楽文化デザイン学科音楽創作専修(現 演奏・創作学科コンピュータ音楽専修)卒業。2013年、同大学大学院修士課程作曲専攻修了。2015年、デビューEP「Butter Sugar Cream」をリリース。以後、国内外で多様なプロジェクトを手がける。現在、国立音楽大学非常勤講師。アーティスト名は、学生時代のあだ名「トム」に、力を込めるときの擬音「ぐぐぐ」をくっつけたもの。
インタビュー
ポップでいてスタイリッシュ、可愛らしくも少し不思議な世界観。
一度聴いたら耳から離れない、唯一無二の音楽を生み出すTomgggさん。
ポカリスエットやApple StoreのCM音楽を手がけるなど
近年は、その活躍の幅をさらに広げています。
遊び心あふれる音作りの原点は。コンピュータ音楽の面白さとは。
くにおんでの日々で得たもの、くにおんで学ぶ意味について聞きました。
志望理由は、将来の「選択肢の広さ」
──子どものころから音楽が好きだったのですか
家には、父のギターやベース、ロック系のCDが大量にあったり、母がマイケル・ジャクソンの曲を聴いていたりと、色々な音楽に囲まれて育ちました。幼い頃からピアノも習っていましたが、それほど熱心ではないというか、ゲームの方が好きなごく普通の子どもでした。
高校生になるとバンドを始めて、次第にオリジナル曲も作るように。既存の曲のコード進行やスケールを真似て、色々試しながら遊んでいる感じでしたね。あと当時のガラケーって、着メロを作れる機能があったんです。メロディや和音をポチポチ入力していくと、思い通りの音楽が再生されて、「おぉぉ……」と感動したのを覚えています。
──くにおんへの進学を決めた経緯を教えてください
作曲をきちんと学んでみたいと思う一方で、「将来食べていくのは難しいだろう」と悲観的に考えていました(笑)。それで、作曲やコンピュータ音楽、音響や録音などを幅広く学んでおこうと、くにおんの音楽文化デザイン学科音楽創作専修※への進学を決めました。僕は、この境界のない“曖昧”な環境が、当時もいまもすごくいいと思っています。広い選択肢のなかから、実際に色々学んでみたうえで、自分に合う道を選べますから。
──とくに思い出深い授業や活動は何ですか
くにおんには、コンピュータ音楽を学ぶ学生有志が30年以上にわたって開催している「Sonic Interaction」という音楽イベントがあるんです。企画から会場設営、PA、照明、広報などをすべて学生が手がけるのですが、これが本当にいい経験になりました。舞台技術や運営業務を通して広義での音楽作りの一端を学ベましたし、先輩の作品の素晴らしさに圧倒されたり、自信作だったにもかかわらずお客さんの反応が鈍かったりといった経験もしました。4年生の時には、机を叩く音や足音といった身の回りの音を素材に作った音楽を、4台のスピーカーで多方向から流すという作品を出品。これはとても評判が良くて、うれしかったですね。
師事していた今井慎太郎先生には、「音楽を丁寧に作って届ける」という姿勢を教え込んでいただきました。それから井上鑑先生は、色々な国の音楽を聴かせてくれたり、ご自身のスタジオで話を聞かせてくれたりして「音楽の世界の広さ」を教えてくださいました。当時選択できた「調律」の授業も非常に面白かったです。
──音楽から少し離れた時期もあったそうですね
3年生の時、何をやりたいのか分からなくなったんです。それでTAC(多摩アカデミックコンソーシアム)に加盟している武蔵野美術大学に行って授業を受けたり、美術館をあちこち回ったりと、フラフラと気ままに過ごしていました。そんな時期を経て、「音楽」とそれが響く「空間」の関連に興味を持つように。その後は結局、大学院まで進み、電子音楽と空間音響について研究と作品づくりに励みました。振り返ってみると、この“寄り道”も自分には必要な時間だったんだなと思います。
※現在の「演奏・創作学科コンピュータ音楽専修」。なお、2026年4月より「コンピュータ音楽専修」は「音楽デザイン専修」に名称変更予定です。
コンピュータ音楽は「変化」が魅力
──コンピュータ音楽の面白さとは何ですか
コンピュータで音楽を作るというのは、音などの情報をコンピュータに取り込んで、加工・編集し、音楽という形にして出力することです。コンピュータが誰でも扱えるものになり、さらに音楽ソフトウェアが登場したことで“民主化”が起きた、つまり「誰もが音楽を作れる」ようになりました。こう言うと「それのどこが面白いのか」とときに批判を浴びるのですが、僕はだからこそいいと思っているんです。実際、クラス全員が同じ音楽ソフトウェアを使っても、でき上がる音楽は全部違います。「好奇心の数だけ音楽ができる」「全人類が音楽を生み出せる」というのは、コンピュータ音楽が持つ可能性の一つだと思います。
長い歴史がその評価を確立してきたクラシック音楽に対して、コンピュータ音楽の姿・形は技術進歩によって今後も変わり続けるし、それを受け止める世の中の価値観も変わっていくでしょう。そこに面白さがあると思います。
──コンピュータ音楽を音楽大学で学ぶ意味とは
一定の商業レベルの音楽を“最短距離”で作りたいなら、専門学校で学ぶこともできます。では音大で学ぶ意義はどこにあるのかといえば、一つは、「コンピュータ音楽の仕組み・基礎」を理解し身につけられるという点です。例えば、既存の音楽ソフトウェアに搭載されていない独自の響かせ方をしたければ、自分でプログラミングをする必要があります。さらに、例えば音楽業界・エンタメ業界で働くなら、進化し続ける技術に常に対応していくことが求められます。土台となる基礎をしっかりと身につけておくことが、その後の応用を可能にするのです。
もう一つは、「音楽の翻訳能力」を鍛えるという側面です。例えば、社会に対するメッセージや内面の葛藤などを音楽で表現しようという場合。一般教養はもちろん、古今東西の音楽、その歴史的背景や先行研究まで、時間をかけて学んだ先に、音楽への翻訳・落とし込みというものは存在します。深く考えたり、ときに立ち止まったりしながらじっくり学べるのが、音大でコンピュータ音楽を学ぶ良さではないでしょうか。
まだこの世にない面白い音楽を
──作曲家・編曲家のほか、ビートメイカーという肩書きもありますね。お仕事内容を教えてください
作曲家・編曲家」としては、シンガーや声優に楽曲提供をしたり、テレビやYouTubeのCM音楽を作ったりしています。対して、「ビートメイカー」や「プロデューサー」としての仕事は、少し緩いというか、仲間とセッションをするような感覚です。例えば、ラッパーに「こんなトラックを作ってみたのであなたのラップを乗せません?」と持ちかけたり、バンドに「自分はこういう音を作れるけど一緒にどう?」とコラボを提案したり。試してみた結果、完成形にならないこともよくあります。どんな仕事も、自分の音楽に色々な人の才能が加わって「まだこの世にない面白い音楽」を生み出していく過程が一番楽しいです。
──お仕事で大切にしているモットーはありますか
実はいまだに、自分が音楽で生計を立てていることに少し驚いています(笑)。最初のころは、地下アイドルから頼まれて曲を提供するなど細々とやっていましたから。そうやって目の前の仕事を誠実に積み重ねていたら、いつの間にか仕事が広がっていった……という感じです。いま、企業のCMなどを手掛けて反響をいただけるのは、もちろんうれしいです。が、僕にとって一番大事なのはずっと「自分の音楽で周りの人が楽しんでくれること」ですね。
音作りという点でいえば、「絵が浮かぶ音楽」のイメージは常に持っています。僕はアニメーションが大好きなので、現実にはできないことも表現できるあの自由度や面白さを音作りにも反映できたらなと。今後は、アニメや映画の劇伴音楽などにも関わってみたいですね。
──これからくにおんを目指す人にメッセージを
受験の時期ってどうしても視野が狭くなりがちだと思うんです。でも、この世はマジで広いです。いろんな仕事があるし、いろんな表現手法がある。だから目の前のことはしっかりやりつつ、一つのことにあまり執着せずに興味の幅は広く持っていてほしいですね。将来やりたいことが定まっていない人も、くにおんなら色々な可能性に出会えるはずです。頑張ってください。
