田中靖人(弦管打楽器奏者)
“心”と直結しているところがサクソフォーンの魅力/1996年7月
プロフィール
田中靖人さん(たなか やすと)
TANAKA Yasuto
弦管打楽器奏者
千葉県立小見川高校出身。
国立音楽大学器楽学科在学中に第4回日本管打楽器コンクールのサクソフォーン部門で第1位を獲得という鮮やかなデビューを果たす。
大学卒業時には矢田部賞を受賞。数々のリサイタルで絶賛を博す。
1991年にはCD「管楽器ソロ名曲集・サクソフォーン」(日本コロムビア)を発表。
1995年、ピアノの小原孝氏の協力でオール・ドビュッシー・プログラムに挑戦したアルバム「ラプソディ」、1997年3月「サクソフォビア」(東芝EMI)をそれぞれリリース。
一方、室内楽の分野ではサクソフォーン四重奏団トルヴェール・クヮルテットで活躍。この四重奏団は1992年の東京国際音楽コンクールで第2位を獲得し、サントリーホール(大ホール)でのリサイタルも成功させた。
現在東京佼成ウィンドオーケストラ団員。昭和音大同短大非常勤講師。
インタビュー
田中靖人さんは日本を代表するサクソフォーン奏者の一人。現在、ソロ、室内楽、吹奏楽団の一員として、幅広い活動を続けています。演奏家としての自分、演奏活動の在り方に自信めいたものが出てきたのは、ここ2、3年だといいます。
在学中に日本管打楽器コンクールで第1位となる。早くから周囲の称賛を浴びてきた“天才”には、控えめな発言のように思われますが。
「コンクール入賞はたいへんな名誉だしうれしかったけれど、それだけで演奏家になれるとは思わなかった。ソロとしてやっていきたいという気持ちが強かったので、それを納得のいく形で行うためにも、何かしら全ての活動の基盤になるものが欲しかったんです。」それが、音大卒業1年後に得た“定職”、東京佼成ウィンドオーケストラへの入団。
「吹奏楽でもやりたいことはいっぱい。吹奏楽もサクソフォーンも比較的歴史が浅いので、立場が似ているというか、佼成の活動から僕のソロ活動へのアイディアをもらうことも多い。楽しいし、勉強になります。」
大学卒業の2年後、東京でデビューリサイタル。以後ほぼ2年ごとに東京でのリサイタルを行ってきました。でも、最初はただ自分のレパートリーを提示するだけで精一杯。しかし「リサイタルはもっと単純に、お客さんが楽しめるものでなくては。」と思い直し、努力し続けてきました。
ジャンルなんて関係ない
「ただ自分がいいと思う音楽を、いいと思う形で聴衆にアピールしていく。特に四重奏のトルヴェール・クヮルテットでは、半分ぐらいがポップスです。スタンドプレーもあるし、衣装も派手なシャツを着たりして。」
田中さんは、音楽の中の“ジャンル”というものに全くこだわりをもっていません。地方で行うリサイタルでは、1曲ごとにしゃべりを入れながら進めます。「そのほうが、演奏者の人柄が見えてきたり、曲についてもよく分かるから、お客さんもリラックスして楽しんでくれるみたいです。そういうコミュニケーションを大切にしたいですね。サクソフォーン自体が新しい楽器ですから、あらゆる意味で新しくていいものを作って、お客さんに楽しんでもらいたい。」
音楽と楽器に集中した学生時代
田中さんは中学時代、友だちに強引に引き込まれた吹奏楽部でサクソフォーンと出会ったそうです。国立音大に進んだのも、ジャズにのめり込んでいった結果。
「クラシックに学ぶべき基本はたくさんある。ジャズだクラシックだ、ではなく、ただサクソフォーンがもっと上手くなりたいという一心で進学したんです。」
学生時代は「楽器のことで自分の身になることをやろう。」ということだけを考え、朝9時に大学に来て、夜8時まで練習、そんな毎日が続きました。おかげで、何でも根気よく集中力を持って続ける姿勢が身についたと語る田中さん。
「音楽をやっていくうえで、集中力は本当に大切。本番中に、もしフッと集中力を失ってしまったら、とんでもないミスを犯してしまうかもしれない。サクソフォーンは、ちょっとした加減で音色がガラッと変わりますから……。自分の気持ちが音に出る、まさにハートと直結している楽器なんです。」
こうしたサクソフォーンの人間的な部分が、また、田中さんを魅了してやまない大きな要因だと言えるでしょう。
