国立音楽大学

武田忠善(国立音楽大学学長・クラリネット奏者)

教員として、音楽家として
そして卒業生として
これからのくにたちを創りたい

/2015年4月

プロフィール

武田忠善(学長・クラリネット奏者)

武田 忠善 学長(たけだ ただよし)
TAKEDA Tadayoshi
クラリネット奏者

ソロクラリネット奏者。1975年国立音楽大学器楽学科卒業。フランス国立ルーアン音楽院に留学し巨匠ジャック・ランスロ氏の下で研鑽を積み、同音楽院にて一等賞を得て卒業。1977年パリ・ベラン音楽コンクール第1位、78年第47回日本音楽コンクール第1位、続く第35回ジュネーブ国際音楽コンクールでは、日本人初の入賞をはたし銅メダルを受賞。国立音楽大学演奏・創作学科教授として多くの逸材を育てるとともに、東洋人クラリネット奏者として初めてパリ国立高等音楽院でマスタークラスを担当する他、シンガポール、韓国、台湾、スペイン、アメリカに招聘されるなど、近年海外でも演奏家、教育家として大いに注目されている。2015年4月学長に就任。

インタビュー

武田忠善 学長

大学創立90周年を翌年に控えた2015年に学長に就任した武田忠善教授は、
“くにたち育ち”のクラリネット奏者の第一人者でもある。
そんな新学長が、「教員」「音楽家」「卒業生」の視点から見た「くにたち」と
今後の大学、学長としてめざすリーダー像について語りました。

90年間脈々と培ってきた
豊かな音楽を育む環境を守りつつ、
新たな「くにたち」を目指したい。

学科再編、入試制度改革 新たなくにたちへの歩み

 2016年に大学創立90周年を迎える国立音楽大学。その節目に先立って、従来の3学科から2学科へと改組し2014年度より新たな一歩を踏み出しています。その目的とするところは、「高い専門性と国際感覚、人としての良識を具えた次代の音楽家・教育家の育成」にあります。その柱となっているのは、カリキュラムの改編と入試制度の改革です。
 カリキュラムの改編では、13の学びの領域を設定し、人間、文化、社会、身体について幅広く学ぶことで教養教育の充実を図るとともに、外国語教育の拡充などにより国際感覚を涵養し演奏やコミュニケーションに活かすグローバル人材の育成を目指しています。さらに、3年次からのコース制度により、専攻・専修以外の科目群も学ぶ機会を得ることで、将来の可能性を広げるキャリアデザイン支援への取り組みも同時に行います。
 入試制度では、「大学入試センター試験」を利用した入試制度を新たに導入し、幅広く受験生を受け入れられるようになりました。同時に、原則4年間の学費免除や2倍のレッスン時間などの特典が受けられる「特別給費奨学生入試」を新たに設け、才能あふれる人材の確保につなげていきます。
 これらの改革は、前学長の庄野先生が中心となり成し遂げたことで、私はその意をしっかりと引き継ぎ、今後につなげていく役割を全うしていくつもりです。国立音楽大学の学長は、私で7代目となりますが、弦管打楽器からは初とのこと。また、私自身くにたちの卒業生でもあります。同窓会組織である「同調会」からの期待の大きさもひしひしと感じています(笑)。

今も色褪せない“くにたちらしさ”を次代にしっかりと受け継ぐ

 40年以上も前の話になりますが、私が在学していたころは、現役学生ながらプロで活躍する人もいた時代で、国立音楽大学ブラスオルケスターに憧れ入学した私も、プロの音楽家を目標に3年生になるころには留学を視野に入れていました。ブラスの仲間と切磋琢磨し、「プロの音楽家になる」という夢を毎晩のように語り合ったことや、作曲の先生の自宅で飲み明かしたことなどは良い思い出です。
 大学を卒業してフランスへ2年間留学。くにたち在学当時も一生懸命でしたが、フランスでは週3日レッスンを受けるなどくにたち時代の倍くらい練習しました。そして、日本音楽コンクールで1位をいただくなど、音楽家として順調にスタートしたように見えましたが、挫折も味わっています。海外のコンクールで審査員からこんなことを言われたことがありました。
 「技術的には何の問題もないが、音楽がステージの前に出てきていない」プロとして何が大切かを教えてもらった機会でした。それからはステージでのパフォーマンスも積極的にやるようになりました。帰国後数年はオーケストラのオーディションを受けたりもしました。しかし、どこも不採用。「第2クラリネットを募集しているが、キミの音はソリストだから」という理由でした。そんなときに「大学で教えてみないか」と声をかけられたのが、教員になるきっかけでした。広島にあるエリザベト音楽大学へ月2回、気づけば33年間通いました。そのときに、教えることが好きということがわかったんです。くにたちの教壇に立つようになったのは、非常勤講師を始めて10年くらいしてから。くにたちの外の世界を見て戻ってきたのですが、変わらないものがありました。「自由、自主、自律」の校風、「教職員みんなで学生を見守って伸び伸び育てる」くにたちイズム、そして、基礎となる技術をしっかりと身につける教育。これらは、社会のいかなるジャンルに出ても役に立つ素養を育むうえで大切なことですので、この伝統はしっかりと守っていきたいと思います。

90周年事業と今後目指すくにたち像

本学小ホールにて

 創立90周年を迎えるにあたり、本学では2014年度から2016年度までの3年間にわたって記念事業を展開し、「伝統と未来−アジアをはじめとした国際交流に向けて」をテーマに、アジアやヨーロッパの音楽系大学との教育・研究交流・イベントを計画し、実行しています。
 演奏会・ワークショップ関連では、2014年7月に『国立音楽大学ブラスオルケスター東南アジア・ツアー』をタイ、シンガポール、ベトナムの3か国で開催しました。10日間にわたるハードなスケジュールでしたが、コンサートだけでなく、レクチャーを通じた地域の子どもたちとの交流やワークショップなどもあり、シンガポールでは、大使夫妻に「さらに文化交流を深めたい」といううれしい言葉もいただきました。また、今後も「笙と現代曲国際プロジェクト」や、タイのマヒドン大学音楽博物館と本学楽器学資料館との共同プロジェクト、記念誌の発刊、目録の制作などが予定されています。アジアをはじめとした世界各国の音楽系大学との交流を一層推進することで、世界の音楽文化の進展に寄与する取り組みを進めていきます。

“大学のための学生”ではなく “学生のための大学”であるために

 学長という職務は、大学におけるリーダーですが、リーダーにはさまざまなタイプがあります。先頭に立ってぐいぐいと引っ張る、最後尾からみんなの背中を優しく押していく……。私が理想とするのは“一緒にスクラムを組んでみんなで進むタイプ”です。“みんなで”ということは一朝一夕にできることではありませんが、くにたちにはそれを当然のようにやってきた伝統がありますし、私も含めて“くにたちファミリーで育まれた自分”を持っています。そうした環境で学び、音楽家として、そして人としての確固たる基盤を身につけてほしいと思います。くにたちには、“音楽が好き”で“好きなことをとことんやるエネルギー”を持った人が集まっています。その好きな音楽を多角的に学ぶことでより豊かな音楽が生まれることを体感してもらいたいですね。そのなかで、見て音をイメージし、聴いて色彩をイメージする「目で聴いて耳で見る」というスタンスを身につけていく、それと、学生時代だからこそ“音と音の共有”や“価値観の共有”を積極的にしてほしいと思います。楽器は1人で演奏できるかもしれませんが、オーケストラのような音楽は仲間が必要です。それは社会においても同じことが言えます。人との交わり・関わりはハーモニーと同じなのです。
 私が感銘を受けた言葉に「名演奏家は名指導者とは限らないが、名指導者は名演奏家でなければならない」というものがあります。留学から帰国する私にランスロ先生がかけてくださった言葉です。音楽活動を自ら高めていくことが教えることにプラスに作用するのはもちろん、高めることに伴う苦労・苦悩は、これからそれを学ぼうとする人の気持ち、できないことへの苛立ちや焦りなどをくみ取ることにも相通ずるものがあります。ですから、音楽家と教育家は二足のわらじではなく“一対のわらじ”なのです。ランスロ先生の言葉には続きがあり、「あなたは名演奏家でもある名指導者を目指しなさい」と。私も含めくにたちには400名を超える教員がいますが、その全員に、自らを高めることを求めたいと思います。そして、これまでの改革を経て教育制度が整い、最高の音響空間を誇る校舎を備えたくにたちの改革を、さらに完成に近づけたいと思っています。

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