鈴江由美
プロフィール
鈴江 由美さん(すずえ ゆみ)
SUZUE Yumi
会社経営者
1979年卒業 ピアノ専攻。株式会社アルマード 代表取締役社長。2000年に設立された『卵殻膜』を素材とする化粧品の企画・開発の株式会社アルマードに、43歳で就職。2005 年には代表取締役就任。TVショッピング/QVC ジャパン(注)で販売実績を大幅に伸ばし、2 万以上のアイテムの中より、10 年もの間、売上NO.1 の不動の地位を誇っている。
(注)QVCジャパン:1980年米国で設立された24時間TVショッピング専門チャンネル。品質(Quality)、価格(Value)、便利(Convenience)を信条に2001年より日本、英国、ドイツ、イタリアに展開。日本ではBSやケーブルテレビで放映。
インタビュー
『くにたち』で音楽を学んだことは、現在の仕事に生きていますか。会社の経営は勿論、テレビ撮影など企業の顔として多忙を極める鈴江さんにお伺いした質問です。中・高・大学を『くにたち』で過ごし、どちらかと言うと大人しくて普通の女の子だったという鈴江さん。そんな鈴江さんは「『くにたち』で学ばなければ、現在の自分はなかった、後輩の方々に是非その事を伝えたい。」と今回の取材をご快諾くださいました。
(「くにたち音信 No.52」2011年7月 掲載)
音大卒コンプレックス?
12歳から『くにたち』でピアニストを目指して学びましたが、厳しい実力の世界にあっては自分の力を見極めざるを得ず、大学卒業後は夫と子どもを軸にした家庭生活を過ごしました。全力を注いだ音楽に代わるものが、そう簡単に見つかる筈もなく、勿論今でも人前でピアノを弾きますし大好きですが、当時は中途半端な気持ちでいました。転機は子どもが20歳になった時です。自分の生きがいを我が子に求める生き方を反省し、一念発起して43 歳で、しかも、生まれて初めての就職活動を開始しました。キャリアがあるわけではない私は、新設の会社なら雇用して頂けるかもしれないと考え、未知の分野でしたが、飛び込んだという訳です。音楽以外の世界で自分は通用するだろうかという不安な気持ちをご想像頂けるでしょうか。音楽しか知らない〝音大卒コンプレックス〞に陥ってしまいそうで、とにかく人一倍努力し、無我夢中で働きました。周りの方から思いがけず評価を頂き、改めて自分を見つめ直して気がついた事があります。それは、どれもこれもが、『くにたち』で学んだものではなかったか、という事でした。
一つのことを極めるということ
音楽を学ぶ過程で、私たちは自然と訓練されていることが多々あります。取り立てて言葉にするまでもないように思われてしまうかもしれませんが、いくつか挙げてみます。為すべきことの優先順位を自分でつけています。例えば、本番(試験)から逆算して、曲の弾き込みや暗譜のスケジュールを立て、その為の生活を苦も無くやってしまうというような事です。また、本番の緊張や、そのときどきにある批評のプレッシャーに強くなります。その他、演奏中は誰にも頼れず曲が崩れそうになっても自力で立て直していくしかないことや、体調管理も自己責任で、本番で発揮できないものは実力と認められない事なども肌身で知ります。同じ課題曲を何人もの学生が弾く試験を受けますから、人の演奏に動揺することなく、これまでの自分の努力を信じ、やり通そうとします。正に自分との闘いです。これなどは、我が社が、大手他社の後追いをせず、独自の展開をして販売の結果をあげた時に、実は『くにたち』で私は学んでいたおかげであったと、ハッと気づきました。
音楽を学んでいた私たちは皆、日常的に鍛えられていたんですね。特別なことではありませんし、言葉で説教されたから解るというものでもないんです。『くにたち』の先生方から、日々の取組みや出来事を通してご指導いただいていたのだと、社会に出て初めて気づきました。起業セミナーに参加しても、『くにたち』で学んだことばかりだったと思ったこともありました。結局、異業種であっても、本質を求めていく強さや、努力の積み上げ方が肝要なのは、変わりません。若い時期に音楽と向き合ったという事には、大きな意味がありました。それに、クリエイティブな面でもゼロから組み立てる知恵が培われていたのではないでしょうか。考えてみると、目に見えない音を日々創り出しているのですから。そんなところは、音大卒の人は、アイディアを応用していく起業家に向いているかもしれないですね。
音楽は、究極のサービス業
学生の頃、友人と音楽という芸術を何のためにやるのか、究極のサービス業ではないか、と議論したことがありました。演奏後に「指が回っていて凄い。」と言われるより、「心を打たれた。」と言われた方が、何倍も嬉しかったものです。私が、美容の世界に飛び込んで感じた「顔のシミが消えることで、こんなにも女性に喜んでもらえるのか。」との手応えは、感動や癒しを呼ぶ音楽との共通点を、自分で無意識のうちに探り、感じ取っていたのかもしれません。
『くにたち』の後輩たちへ
人が生きていく上で大事な根っこの部分をこの『くにたち』で、音楽を通して多角的に学んでいるのだという事に、学生時代のうちに早く気づいて欲しいです。直ぐには思うような結果が得られなくとも、自分に自信と誇りをもち勇気ある一歩を踏み出してください。『くにたち』でなかったら、今の自分はなかったと私は言い切ることが出来ます。社会に出たら、あなたも気づくはずです。『くにたち』の学生時代に取り組んだもので、無駄なことなど、どれひとつありませんから。真摯に、ひたむきに、頑張ってください。