国立音楽大学

清水華澄さん(メゾソプラノ歌手)

今、自分ができることをしっかりとやる。その積み重ねでここまで来ました。私の“スタイル”は、これからも変わらないと思います。/2007年9月

プロフィール

清水華澄さん(メゾソプラノ歌手)

清水華澄さん(しみず かすみ)
SHIMIZU Kasumi
メゾソプラノ歌手

静岡県常葉学園高校卒業後、国立音楽大学声楽学科に入学。荘智世惠氏に師事。国立音楽大学声楽学科首席卒業。同大学大学院首席修了。卒業時に武岡賞、NTTドコモ賞受賞。桃華楽堂御前演奏会、読売新人演奏会に出演。大学院修了時に「国立音楽大学大学院研究奨学金」を授与される。ちなみに奨学金の使途は、「オペラやオーケストラの演奏会鑑賞、海外研修や留学の資金、それと世界の情報を集めるためのパソコンを購入」とのこと。
大学院修了後は、新国立劇場オペラ研修所に第4期生として入り、数々の研修所公演で舞台を経験する。研修所修了後は、文化庁在外派遣研修員として1年間イタリア・ボローニャに留学。留学中に、オーストリアのウイーン・バーテン市立劇場オペラ公演「こうもり」で、本場の舞台も踏んだ。
調布市民オペラ結成15周年記念公演「カルメン」にタイトルロールとして出演。小澤征爾音楽塾マーラー「復活」のアルトソロカヴァー、「カルメン」メルセデス役カヴァーとして参加。07年9月には二期会オペラ公演「仮面舞踏会」ウルリカ役で二期会オペラデビュー。同10月「国立音楽大学フレッシュ・コンサートくにたち2007」にも出演。二期会会員。

いつか演じてみたい役は、ヴェルディ作『ドン・カルロ』のエボリ公女。
今の私の大きな“夢”ですね。

インタビュー

2004年度から推進してきた本学独自の新カリキュラムが、今年度の1年生を迎え、全学年揃って履修されることになりました。
基礎に重点を置いた1・2年次の学び、3・4年次から始まるコース制、さらには卒業後の進路の選択肢についてなど、今年度より新しく学長に就任した庄野進教授が語りました。

譜面も読めないソフトボール少女が音大をめざす

中学3年生のとき、新しく赴任してきた先生が担任になった。いま思えば、それが自分の運命を変えた瞬間だったのかもしれない。前の学校で合唱部の顧問を務めていたその先生は、新しい赴任先でも合唱部の顧問を務めることになった。そして「この学校の合唱部を強化します!」と、クラスの生徒たちに宣言した。

「中学時代はソフトボール少女だった私。グラウンドで大声を張り上げているのが耳に届いたのでしょうか。担任の先生から合唱部に誘われたんです。先生の“合唱部を強くする”という言葉が印象的で、ソフトボールと合唱を掛け持ちすることにしました。」

合唱部に入ったものの、それまでほとんど音楽と縁のなかった清水さんは、楽譜を読めないため、すべて“耳コピー”で対応。歌うことは楽しいと感じつつも、本格的に歌うことに目覚めたわけではなかった。

「もし真剣に音楽をやるなら、中学卒業後は音楽科のある高校に進学したと思います。私はソフトボールを続けるつもりだったので、普通科の高校に進みました。」

ところが入学した高校のソフトボール部が、期待に反してあまり活発ではなく、「これでは上をめざせない」と、入部を断念する。その一方で、合唱部が、全国大会を狙えるほどレベルの高いことが判明。清水さんは、より高いステージをめざすために、合唱部への入部を決意した。と同時に、「どうせ本格的に歌を始めるのなら、音大をめざそう」との考えも頭に浮かんできた。

「高校の合唱部顧問の先生の出身校であり、進学している先輩もいる国立音大に、顧問の先生の勧めもあり、進学を決意。そのときに初めて、入試にピアノ演奏が必要なことを知り、焦りました(笑)。」

「音大をめざす」と言いながらピアノを弾くどころか、譜面さえ読めない清水さん。それでも音大に行きたいとの強い気持ちは顧問の先生にも伝わり、部活の終了後、毎日のように個別レッスンを続けてくれた。またピアノの先生も紹介してもらうなど、必死でレッスンに打ち込んだ高校3年間。努力の甲斐あり、無事に国立音大に入学した清水さんは、そこで大きなカルチャーショックを受けることになる。

「とにかくみんなのレベルが、“素人”の私にすればビックリするくらい高く感じたんです。ほとんどの人は、小さい頃からピアノをやっていて、本の文字を読むような感覚で譜面の音符を追えますし、ソルフェージュの力も私なんて足元にも及びません。“わあ、みんなすごいなぁ~”って、感心してしまいました(汗)。」

大学生活は2年間の発声練習から始まった

大学では、ドイツリートの権威として知られる荘智世惠先生に師事。しかし、清水さんの1年次のレッスンは、発声練習だけに明け暮れた。しかも声楽学科では年に1度、実技の試験で曲を歌うことになっているが、清水さんは曲を歌うことも許されなかった。他の人が課題曲を練習したり、エチュードを教わったりしている横で、1年間、ただ発声だけを繰り返したのだ。

「何も基礎ができていないのは自分でもわかっていたので、当然だと思っていました。まわりの人たちが何歩も先を歩いていても、焦ることはなかったですね。“とにかく自分が今できることだけ、しっかりやっておこう”と考えていました」

2年次になっても発声中心のレッスンが続く。せっかくの“基礎づくり”がムダになるからと、オペラ研究会などの課外活動も先生から禁じられ、もちろん友人とカラオケなんて論外だった。

そして3年次になり、ようやく歌うことを中心としたレッスンがスタート。そのとき自分自身でもはっきりと“成長”を感じることができた。

「あれっ、私、この曲が歌えるようになってる!って、感じでした。2年間の発声練習がムダでなかったことがうれしかったですね」

歌うことが楽しくなると、自然と曲にも興味が湧いてくる。合唱部からスタートしたこともあり、本場のオペラとは縁が薄かった清水さんが、突然オペラに目覚めたのは3年次の後半。時間があれば図書館へ通い、オペラのLDやCDを片っ端から視聴した。知れば知るほどオペラへの憧れ、特にアリアへのこだわりが深まってくる。その思いは、4年次のときに国立音楽大学国内外研修奨学金で参加した、ザルツブルク・モーツァルテウムでの国際夏期セミナーで、さらに大きくなった。

「初めての海外で、見るもの触れるものすべてが新鮮でした。異国の人と一緒に勉強したり、歌曲を聞いたり…。特に生で聴いたアリアがかっこよくて、私もいつか歌ってみたい!と、強く思いました」

大学での4年間を終えると大学院への進学を決意。アリアへの憧れも大きく「オペラ科」で技術を磨くつもりだったが、荘先生から「あなたはもっと曲と対峙することが必要」と、「リート科」への進学を薦められる。“自分のことを最もわかってくれている”荘先生への信頼感もあり、リート科を選択した。

「大学院での2年間では、ただ歌うだけでなく、音楽観を広げることができたと思います。荘先生のアドバイスを信じて大正解でした。」

留学したイタリアでの“感動”と“挫折”

大学院修了後は、新国立劇場オペラ研修所第4期生として、同じ夢を持つ仲間たちと切磋琢磨。数々の舞台も経験し、歌うことの楽しさや難しさを身を持って体感する。そして研修所を修了した04年の秋には、文化庁在外派遣研修員として1年間、イタリアのボローニャに留学。オペラの本場イタリアで、もう一度発声を学び、高音域を開拓するとの課題を持って旅立った。しかし、これまで出したことのない音域を出すには、かなりの勇気が必要。「怖がってしまった」と、清水さんは言う。

「留学の期間中、精神的に自分自身と戦う日々でした。」

結局、発声のレッスンでは、思うような結果を残せなかった。とはいえ、留学中には、オーストリアのウィーン・バーデン市立劇場オペラ公演「こうもり」に、オルロフスキー役で出演するなど、本場の舞台を踏む大きな経験を積んだ。

「オーストリアで舞台を経験できたことは、大きな心の支えになりました。留学から帰ってきてからも、“今、自分のできることをしっかりやるしかない。頑張っていれば、いつかいいことあるさ”という気持ちになれましたから。“焦っても仕方ない”と、大学時代と同じ考え方。結局はそれが、私のスタイルなんでしょうね」

不思議なことに考え方にゆとりを持てると、それまで悩んでいた音域に少し広がりが出てきた。すぐに結果には表れなかった留学でのレッスンだが、実際にはしっかりと身についていたことを帰国してから知ることになる。

ヴェルディ作『ドン・カルロ』のエボリ公女を夢見て

現在は二期会の会員として、さらなる飛躍の機会を伺っている。二期会入会後、自身初のオーディションとなった07年9月公演の「仮面舞踏会」では、見事にウルリカ役を射止め、二期会オペラデビューを果たした。もちろん、これで満足するはずもなく、これからもチャレンジは続いていく。

そんな清水さんが、自身の“夢”として、いつか演じてみたい役がある。それは、ヴェルディ作『ドン・カルロ』に出てくるエボリ公女。国立音大の図書館で見たLDで、一番印象に残った作品であり、役柄だったという。これまで一歩一歩、自分にできることをしっかりとこなしながら確実に前進し、目標を手にしてきた清水さん。いつか夢である『ドン・カルロ』の舞台にも立っているはずだ。

「決して器用ではなかった私の大学時代。そんな私から今の学生たちにアドバイスできることがあるとしたら、学生時代に、いろいろな経験をして、いろいろな感情を味わってもらいたい。“音楽”に関係ないことでもいいんです。バイトや恋愛…。例えば失恋することも貴重な経験。心から笑ったり、泣いたりできない人には、舞台の上でいろいろな役を演じることはできませんから。私もまだまだ貪欲に“感情”を磨き続けたいと思っています。」

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