国立音楽大学

錦織健(声楽家)

舞台には、僕の知らない“錦織 健”がいる/1992年7月

プロフィール

錦織健(声楽家)

錦織健さん(にしきおり けん)
NISHIKIORI Ken
声楽家

島根県出身。国立音楽大学声楽学科に入学。
1982年卒業。
その後、文化庁オペラ研修所で学び、優秀な成績で修了。田口興輔氏に師事。 1988年より文化庁在外研修員としてミラノに留学。
リア・グァリーニ、アルベルト・ソレジーナの両氏に師事。
1991年五島記念文化財団の留学生としてウィーンに留学。
これまでにタミーノ(魔笛)、アルマヴィーヴァ伯爵(セビリャの理髪師)、アルフレード(椿姫)、ファウスト(ファウスト)、マントヴァ公爵(リゴレット)、アルバート(アルバート・ヘリング)など、数多くのオペラの主役を演じる。
また、リサイタルをはじめ、「第九」、モーツァルトの「レクイエム」、「メサイア」、「エリア」など、各種のコンサートも好評を博している。
ジロー・オペラ新人賞(1989年)、グローバル東敦子賞、五島記念文化賞(1990年)、モービル音楽賞洋楽部門奨励賞(1994年)を受賞。
二期会会員。
ちなみに、将棋の腕前は自他共に認めるところ。

インタビュー

役を創造するという作業

舞台に“悪魔”が登場しました。女たちの心を弄ぶ彼の名は、マントヴァ公爵。観客をその妖しい魅力の虜にしようと、艶やかに「女心の歌」を歌いはじめます。

「『リゴレット』の公演の様子をビデオで観ると、声や身振り、表情までが信じられないほど“悪魔的”になっているんですよ。音楽や舞台が持っているチカラのすごさを改めて感じましたね――」
自分が悪魔のような男へと変わった舞台を、そう語る錦織さん。もちろん彼はそういったタイプの役ばかりを歌ってきたわけではありません。たとえば『アルバート・ヘリング』ではタイトルロールの内気な少年アルバート、『ドン・ジョヴァンニ』では恋人を奪われる哀れな男オッタービオへと姿を変えています。
「演じるというのは、台本に書いてあるとおりの人物になることではありません。台本をじっくり読んだ上で、頭の中にその役の人物像を創造して、その人物に可能な限り近づくという作業なんです。」
そのために、まず主な登場人物たちを細かく分析し、それぞれの役柄に自分なりの解釈で肉付けも加えて、具体的なキャラクターを設定していきます。たとえば、その人物の血液型、どんな過去を持っているのか、好きな異性のタイプ……。
「自分の役のことだけを考えていては、役どころをつかむことはできませんから登場人物すべての役柄を把握することが必要。でもやはり自分の役については特に深く、細かく考えるようになりますね。」
これまでの自分の体験、記憶の底に眠っていたような出来事などもすべて頭の中から引っ張り出して、それぞれの役を錦織流にプランニングしていく――その成果が、舞台の上の悪魔や少年の姿となってあらわれるわけです。

オペラの特質は、多面性

「オペラは音楽か芝居か、なんて言う人がいますが、ナンセンスです。両方に決まっているのですから。音楽でもあり、芝居でもあるという多面性こそが、オペラの特質です。

だから僕たちは役や場面によって音楽と芝居のどちらに比重を置くかを選んで、観客にアピールしていくんです。現代の人々から見れば筋の通らない展開でフィナーレになってしまうオペラの場合は、思いきり手を広げて『これはコンサートですよ。みなさん、歌を存分に楽しんでください』と歌いかけますし、逆に感動的な場面では演じることに集中する――勝負できる“土俵”にお客さんを誘い入れていくわけです。」
オペラ界には、音楽家の中では珍しいくらい多面性を持った人たちが集まっているようだ――と、彼は続けます。
「演技をするということ自体、多面的な人でなければできないことですからね。自分の中に数多くの引き出しを持っていることが、大切な条件になるんです。」
そんな錦織さんの「引き出し」の数を増やし、テノール歌手としてのベースを作る場所となったのが、国立音楽大学。
「今、考えると声楽学科は小さな音楽界のようなところでしたね。本当に個性的な人間が揃っていました。それに何より感謝しているのが、完成度ばかりを要求せずに僕たちを指導してくださった先生方。カタにはめようとしない“くにたち”ならではの気風が、たくさんの優れた歌い手を育てているのだと思います。」

ここは、生きがいを感じる世界

彼の今後の目標は、自分の歌の世界をさらに広げていくこと。
「狭い意味でのイタリア歌劇だけでなく、ドイツ歌劇などもやりたいですね。ソリストとしてのリサイタルでは、カンツォーネやジャズのスタンダードナンバーなども歌っていますし、今度のリサイタルでは、なんとクイーンのボヘミアン・ラプソディを弾き語りで歌う予定なんです。」
毎日が新しい発見に満ちた、生きがいを感じる世界だ――錦織さんは、自分にとっての舞台を、そう語ってくれました。

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