国立音楽大学

根本 晃帆(オーケストラ・ライブラリアン)

ライブラリアンとして生きる道
くにたちでの出会いと学びが礎に
/2023年10月

プロフィール

根本 晃帆さん
オーケストラ・ライブラリアン

根本 晃帆

1994年生まれ、茨城県出身。聖徳大学附属取手聖徳女子高等学校音楽科卒業。国立音楽大学音楽学部音楽文化デザイン学科音楽研究専修(現・音楽文化教育学科音楽情報専修)作曲理論コース卒業。同大学院音楽研究科修士課程作曲専攻(ソルフェージュコース)修了。在学中より、サイトウ・キネン・オーケストラ及び小澤征爾音楽塾、読売日本交響楽団のアシスタントライブラリアン、ぱんだウインドオーケストラのライブラリアンを務める。2020年より京都市交響楽団のライブラリアンに就任。

インタビュー

オーケストラ等で楽譜の管理を担う「ライブラリアン」。現在、京都市交響楽団で活躍する根本晃帆さんはくにたちの学生時代にこの仕事の存在を知り、アシスタントとして研鑽を積んだ末、夢をかなえました。「指揮者と対等な立場で仕事をすることが求められる」というライブラリアンの日々の業務とは。その矜持とは。

好きな音楽を学び続け、見つけたもの

根本 晃帆
楽譜にボーイングを書き込んでいく

──くにたちで音楽学を学ぼうと思ったのはなぜですか

 6歳の頃、友だちに誘われてピアノを習い始めました。ソロだけでなくアンサンブルの指導も熱心な教室で、のびのびとレッスンを続け、高校は音楽科に進学しました。
 ただやがて、「自分にはソリストとして活躍するには適性がない」と考えるように。それでも音楽は好きだし、特に楽譜を読むのが大好きでした。当時は特にドメニコ・スカルラッティの現代音楽のような曲想に惹かれ、楽譜を自分なりに分析したりもしていました。高校の先生が「音楽学という道があるよ」と教えてくれたこと、さらに師事していたピアノの先生の出身大学だったこともあり、くにたちの音楽文化デザイン学科音楽研究専修(現・音楽文化教育学科音楽情報専修)に進みました。

──くにたちの授業や先生の教えで、特に印象深いのは

 音楽学の先生方が、各々の専門領域に没頭して研究している姿はかっこいいなと思いました。中・東欧の音楽が専門の横井雅子先生からは、「いま調べられる環境にあるのに調べ尽くさないような怠慢は避けるように」と指摘されたことも。インターネットのない頃から、現地に行く、手紙でやりとりするなどして研究を続けてこられた先生の言葉は重く、心に刺さりました。生涯忘れないと思います。
 3年次からは、「楽譜をもっと理解したい」と作曲理論コースへ。作曲・編曲した楽譜を提出すると、奥定美和先生をはじめ先生方は、音楽の内面に加えて、楽譜の作り方──「この1音目と2音目の幅をもっと空けて」「声部の段間はもう少し広げた方が指揮者が見やすい」など──までみっちり指導してくださいました。最初は「細かいなぁ」と思いましたが(笑)、そういう積み重ねが奏者の演奏のしやすさに繋がるのだと気付かされました。
 大学院は作曲専攻ソルフェージュコースに進学。今村央子先生のご指導のもと、ピアノ初見について研究しました。友人と有志で、国内外の楽譜出版社の特徴を比較し、その成果を図書館で展示したこともあります。

──アシスタントライブラリアンになったきっかけは

 入学して間もない学部1年の時、くにたちの図書館の情報誌『Parlando』で、ライブラリアンに関する本『Insights and Essays on the Music Performance Library』(Meredith Music Publications)の紹介を読み、「世の中にはこんな面白い仕事があるのか!」と衝撃を受けたのです。ただ当時は、優秀で才能のある人しかできない仕事なんだろうな……と諦めていました。
 3年後、大学の求人で「サイトウ・キネン・オーケストラのアシスタントライブラリアン募集」の情報を発見。「作曲理論を勉強したし、できるかもしれない」と思い切って応募し、採用していただきました。初めて足を踏み入れたオケの現場は、すべてが新鮮で勉強になることばかりでした。何より楽譜に関するハプニングがこんなにも多いのかと驚いたのを覚えています。その後、読売日本交響楽団のアシスタントライブラリアン、ぱんだウインドオーケストラのライブラリアンも兼任。大学院2年の頃からは3カ所掛け持ちで働いており、忙しくも充実した日々でした。

ライブラリアンの多忙な舞台裏とは

根本 晃帆
楽譜庫にはこれまでの楽譜がたくさん保管されている

──現在は、京都市交響楽団に所属されていますね

 ライブラリアンの募集は滅多に出ないのですが、京都市交響楽団とご縁があり、2020年から所属しています。京響は長年の固定ファンが多いですし、地域の子どものための音楽鑑賞教室も盛ん。地元に根差したオーケストラとして愛され、音楽を届けられていることを誇りに思います。

──ライブラリアンの仕事を時系列で教えてください

 ライブラリアンは、公演プログラムの検討段階から携わります。演奏の条件、楽譜の著作権や入手にかかる費用などの情報はライブラリアンが調べてクリアにし、その上で、演奏する曲目が決定されるからです。
 曲が決まると、指揮者と打ち合わせをしてエディション(版)の確認をします。版の違いというとブルックナーやマーラーが知られていますが、ベートーヴェンの第九のようなおなじみの曲にも実にさまざまなエディションが存在します。演奏する版の楽譜をオケが所有していない場合は、レンタルもしくは購入の手配を進めていきます。
 楽譜を入手してからも仕事は山積みです。まず、スコアと全パート譜を照らし合わせて、間違いがないかを確認。時にはスコアが間違っているケースもあるので、資料を取り寄せて調べることもあります。また、指揮者から楽器や音の変更などの指示があれば、楽譜を修正します。古い楽譜の場合は、補修・製本の作業をすることもあります。
 それから、コンサートマスターや各首席奏者にボーイングを付けてもらい、後ろのプルトの楽譜に書き込んでいきます。再演を重ねている定番のシンフォニーなどであれば、「オケが築いてきたボーイング」がすでに書き込まれていますが、その場合も細部の変更指示が全プルトへ反映されているかなど、すべてのパート譜に目を通して確認します。こうした準備を重ね、リハーサルの約1カ月前には、間違いのない見やすい楽譜を奏者に渡せるようにしています。

──楽譜を渡すまでが、そんなに大変なんですね

 そうですね。リハーサルが始まると今度は、指揮者に「ホルンにアシスタントを付けたい」と言われて楽譜を追加で作ったり、奏者に「譜めくりの箇所を変えたい」と頼まれて手直ししたりと、さまざまなオーダーに応えていきます。
 本番が終わると、公演日や弦編成などをきちんと記録して楽譜庫に保管し、レンタル楽譜の場合は返却作業へ。そこまで済ませてようやく一つの公演が終わります。

音楽をつくる一員として、誇りを持って

根本 晃帆

── 音楽・楽譜の知識や理解に加えて、ライブラリアンとして大事なスキルや心構えはありますか

 一つは、指揮者や奏者と対等に仕事をする姿勢でしょうか。以前、リハーサル直前に指揮者から「エディションを変えたい」と打診されたことがありました。もし楽譜の準備が間に合っても、いま変更すればオケが混乱するだろう。そう思った私は「ライブラリアンとしてそれはできない」と答えました。すべてにYESと応じるのではなく、時に指揮者に不機嫌な顔をされても(笑)、オケ全体の最適のために言うべきことは言う。その姿勢は大事だと思います。
 また、限られた時間で間違いのない楽譜を用意するための段取りや、日頃のこまめな情報収集も大切です。

──ライブラリアンとして最も喜びを感じる瞬間は

 リハーサル初日、自分の用意した楽譜を皆の譜面台にセットする時はいつも、緊張とともに「行っておいで!」と我が子を送り出すような気持ちになります。そして、この初日に皆で最初に音を奏でる瞬間が、私は一番好きです。楽譜を読めばどんな音楽かは分かるのに、なぜかいつも新鮮に聴こえるんです。これだけの人が集まって一つの音楽をつくる、その過程に自分も参加しているのだと思うと、ライブラリアンって本当に素敵な仕事だなと実感します。

──今後の夢、読者へのメッセージをお聞かせください

 いつか海外のオケでライブラリーしてみたいですし、指揮者のパーソナルライブラリアンとしての経験も積んでみたいです。また、去年からライブラリアンのお仕事紹介の動画制作などもしていますが、今後はさらに情報発信に力を入れていきたいです。
 私は学生時代、周りの人がキラキラして見えて自信をなくした時期がありました。現役の学生や受験生の皆さんも、思うようにいかないことがあるかもしれませんが、失敗や挫折もその後の人生に必ず生きてきます。くにたちで思いっ切り学び、遊び、充実した日々を過ごしてくださいね。

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