国立音楽大学

宮田まゆみ(笙奏者)

究極の目標―― 宇宙の音、ハーモニーを感じること/1987年7月

プロフィール

宮田まゆみ(笙奏者)

宮田まゆみさん(みやた まゆみ)
MIYATA Mayumi
笙奏者

東洋の伝統楽器「笙」を国際的に広めた第一人者。
国内外の主要な音楽祭に招待され、ジョン・ケージ、武満徹ら数多くの国際的作曲家の新作初演を行うなど、西洋の音楽家と積極的に交流している。 国立音楽大学器楽学科ピアノ専攻卒業後、雅楽を学ぶ。1979年より国立劇場の雅楽公演に出演。
1983年より笙のリサイタルを行って注目をあび、第3回リサイタルにより芸術選奨文部大臣新人賞を受賞する。海外では、1987年・1993年ニューヨーク、1989年パリ、アムステルダム、1994年ミラノ、1995年ウィーンにてリサイタルを行うほか、最近ではドナウエッシンゲン現代音楽祭、ウィーン現代音楽祭に招かれている。現在、国立音楽大学招聘教授。

インタビュー

笙は、指の動きと息の入れ替えのバランスが難しい楽器。その笙の演奏家である宮田さんは、1983年に日本初の笙のリサイタルを開いて注目を集め、今日に至るまで国内外を問わず精力的な活動を続けています。

独奏楽器としての笙の存在

1986年3月、芸術選奨新人賞を受賞。笙演奏10年のキャリアをもつ宮田さんにとって、大きな力づけとなりました。宮田さんの功績は、何といっても笙という楽器に新しい可能性を付与したこと。それまで伴奏楽器として位置づけられていた笙を、宮田さんは最初から独奏楽器として考え、その奏法を工夫してきたのです。

芸術選奨新人賞の受賞は、笙の存在を独奏楽器として高く評価した結果といえます。また、現代作曲家たちの間でも笙がにわかに注目を集め、宮田さんのために独奏曲や洋楽器との合奏曲を作曲する人が増えてきています。新しい曲によって新しい奏法が生まれることもあるそうです。
「笙の奏法は曲によって違ってくるんです。古典はゆるやかに流れるような感じで演奏しますし、現代曲では細かく躍動感を出すこともできます。ただ、現代曲の場合、リードの傷みが激しくなるので、曲のタイプによって楽器を使い分けることも必要。リードは0.1ミリ以下の何ミクロンという薄い金属でできていますから。」

その風景が一生を決めた

国立音楽大学時代、ピアノを専攻していたという宮田さんですが、どうして笙を演奏することになったのでしょうか。
「ピアノは好きな曲を弾くにはいいんですが、課題曲となるとどうも……。もともと私は、弾きたい曲があったらそのために努力するタイプ。だから、最初にテクニックを磨こうとするのではなく、何をしたいかが先にあるんです。大学時代に『音楽美学』と出会って、それまで自分が欲していたものを発見しました。」

古代人の宇宙観や文化、古代における音楽のあり方などの講義を受けて、それまで好きだったことと興味をもってきたことが一つにまとまった感じがしたといいます。笙の世界へ入る素地は、このとき培われたといえるでしょう。
「大学を卒業した年の初夏に、“天啓”を受けたんです。いつも見慣れたはずの近所の風景に思わずハッとして……。その瞬間、地球と初めて一体になれたという実感が湧いて、それに笙の音のイメージが重なった。私の中でその景色と笙の音が完全に一体化したということですね。」

劇的ともいえる笙との出会いを体験して、宮田さんは笙の虜になっていきます。大学の先生の紹介で、信濃町の寺が主催する千日谷雅楽会の雅楽教室へ。ここで唱歌(しょうが)という笙の音の運びを元にした歌の練習だけを半年間続けることになるのです。

宇宙の音を奏でたい

笙は英語ではマウス・オルガンというそうで、宮田さんは笙やオルガンが宗教音楽の中で頻繁に使われる理由に興味を抱いているそうです。特に、笙やオルガンの倍音構造に秘密があるといわれ、倍音が人の精神に与える影響を研究していきたいと考えています。
「究極的な目標は、宇宙の音、リズム、ハーモニーを聴くこと、感じることなんです。そのための方法は笙でなくてもいいと思っています。より近いと確信すれば、舞踏でも何でもかまわない。今のところは、笙が一番近いのではないかと…。」

このような目標に向かって、秋には実験的な演奏会を予定。例えば、コンクリートの空間があった場合、観客は好きなところに座り、演奏者は動きながら好きなところで音を発するといったもの。そのとき、観客は音楽を聴くのではなく、“何か”を体験する――音を身体で感じて反応することに。同時に演奏者も、自分の音に自分の身体が感応していく。そんな演奏会の実現をめざしているのです。
「演奏会は聴衆と演奏者が共通体験できる場です。最近は、自分が面白いと思うことを人にも聴いてほしいという気持ちになってきました。」

宇宙を笙で表現しようとしている宮田さん。古典的な楽器で壮大なテーマに取り組む活動は、私達に大きな感動を与え続けてくれることでしょう。

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