宮坂純子(ピアニスト)
温かく澄んだ音色が歴史の中で調和して――/1996年4月
プロフィール
宮坂純子さん(みやさか じゅんこ)
MIYASAKA Junko
ピアニスト
ハンマーフリューゲル奏者。
1981年国立音楽大学卒業後、ドイツ、フライブルク国立音楽大学大学院及びビュルツブルク国立音楽大学大学院卒業。
ビュルツブルク楽友協会室内楽コンクール最高位、ブルージュ国際モーツァルト・ハンマーフリューゲル・コンクール入賞。
ピアノを砂川啓子、伊達純、A・トルガー、ペペル・ミュテール、また、室内楽をH・パルト、H・ホリガー、そしてチェンバロ、ハンマーフリューゲル、クラヴィコードをG・ウィルソン、E・ウルザマーの各氏に師事。
1991年音楽之友ホールで「ハンマーフリューゲルによるモーツァルト」リサイタルで国内デビュー。
国内外でのソロ活動として、室内楽ではチェロのP・ヴィスピルウェイ、ヴィオラのH・シャオ、ヴァイオリンのC・アナスタシア等と共演。ドイツ・フォノ社よりCDを発売、1997年は2枚目のCDを制作。
活水中学・高等学校音楽コース教諭。1995年度村松賞受賞。
インタビュー
ピアノの壊れたような音
久しぶりに母校を訪れた宮坂純子さん。意欲的な活動で世界各地を駆けめぐっています。まずは、ハンマーフリューゲルとの出会いについてお聞きしました。
「同じ古楽器でも、チェンバロは弦をはじいて音を出しますが、ハンマーフリューゲルは小さなハンマーで弦をたたきます。つまり、歴史的に現代のピアノの原型になる楽器なんです。」
宮坂さんは明るく話し始めました。
「ハンマーフリューゲルの打鍵は、ピアノのような力で押すと音が割れてしまうんです。だから、音が割れないように、しかもいろいろな音を引き出す難しさがあります。木質感のある繊細な響きは、現代のピアノでは出せません。」
当初、この音があまり好きではなかったそうです。国立音楽大学を卒業し、ドイツのヴュルツブルク国立音楽大学大学院に留学中、教授の勧めでベルギーのブルージュで開催される古楽器の国際コンクールに、ハンマーフリューゲルでエントリーしたのが、この楽器との本格的な出会いだったといいます。
「最初、ハンマーフリューゲルはなんだかピアノの壊れたような音で……。でも、始めたからにはやってみようと。」
実は、宮坂さんがこのハンマーフリューゲルの魅力にとりつかれたのは、レジデンス宮殿のトスカーナザールで、教授がこのコンサートのために開いてくれたリハーサルコンサートだったのです。
「私の弾いている曲がホールの丸天井に広がりました。天井には一面にフレスコ画が描かれています。そのとき、ハンマーフリューゲルの温かく澄んだ音色が歴史の中に調和して、空間にのびのびと舞っているような感動を覚えたんです。」
きっと、これがモーツァルトやベートーヴェンの楽しんだ音に違いないと思ったとか。楽曲の歴史は楽器の歴史です。つまり、作曲家にとってその時代に使用できる楽器が、作品を構成する重要な要素となるのです。もちろん、モーツァルトやベートーヴェンの時代に、現代と同じピアノはなかったはず……。
こうして心の底からハンマーフリューゲルに魅せられた宮坂さんは、ブルージュ国際コンクールでは見事に入賞。チェンバロもハンマーフリューゲルも、本選で残った日本人は、彼女一人だけでした。
旋律は会話
「よく、“演奏中は何を考えているのか”と聞かれるんですが、私は、演奏中に旋律が会話に聞こえるんです。」
それは、演奏する楽曲の持つさまざまな情景や歴史、文化の流れの中に、一つひとつの音が何かを語りかけてくるということなのでしょうか。
「すべてのものが音楽に影響すると思います。その音楽のバックグラウンドとして、常に歴史や文化に触れて、人々の生活を理解し自分自身の感性を育てることが大切です。朝から晩まで練習するだけではすばらしい音楽は生まれないような気がします。さまざまな経験やたくさんの出会いの中にこそ、ヒントがある。」
自分と競争する
「久しぶりに国立音大に来て施設の充実ぶりに驚きました。特に楽器学資料館。古楽器を秘蔵品として陳列するだけでなく、実際に触れられるシステムを実施しているんですね。音楽を教える環境としての意識の高さを改めて感じました。」
国立音大では、毎週水曜日、順番に特定の古楽器を調整して、学生たちに開放しています。宮坂さんは、古楽器に触れることで何が良くて何が良くないのかを知ることが大切だといいます。また、そこに音楽をめざす者にとっての大きなきっかけがあると……。これも彼女の言うヒントの一つだと考えられます。
最後に、これから音楽をめざす後輩たちにアドバイスをいただきました。
「他人と競争するのではなく自分と競争すること。無理して120%の力を発揮するのではなく、自分の100%の力を確実に。そうすれば、自由にのびのびと自分が伸びていくものです。」
