栗山和樹(作曲家)
プロフィール
栗山和樹さん(くりやま かずき)
KURIYAMA Kazuki
作曲家
1963年、神戸市出身。小学生の頃から映画音楽の作曲家を志す。国立音楽大学作曲学科を首席卒業と同時に有馬賞を受賞。
同大学院作曲専攻修了後、米・スタンフォード大学CCRMA(コンピュータによる音楽・音響研究所)に留学。
コンピュータプログラミング、音楽音響学をベースとしたDSP(デジタル信号処理)を学ぶ。
主な活動に東映映画「極道の妻たち~決着」、松竹映画「陽炎3」、松竹映画「怪 The Movie」、TBSドラマ「to Heart」、NHKドラマ「日輪の翼」、NHK大河ドラマ「北条時宗」など映画音楽のほか、NHK「芸術劇場」、TBS「ベスト・タイム」などテレビ番組のテーマ曲、CM音楽など作曲。
山下洋輔「エンカウンター」、NHK名曲アルバムなど編曲も多く手掛ける。また、ローマ国際コンピュータ音楽祭、アメリカ国際コンピュータ会議、ACL青年作曲賞(タイ、バンコク)など、海外で現代音楽作品の発表も行っている。
インタビュー
日曜夜に鳴り響くモンゴルの大平原からの強烈な“叫び声”
2001年のNHK大河ドラマ「北条時宗」。元寇をテーマに取り上げたドラマ自体もさることながら、栗山和樹さんが担当したテーマ曲が大きな話題を呼んでいます。特に前奏で聞かれる強烈な“叫び声”。あれは、人の声? それともコンピュータで創った音?「あの声はモンゴルの伝統的な歌唱法“オルティン・ドー”。モンゴルを代表する女性歌手ノロヴバンザドさんを招いて録音しました。NHKのスタッフから『これまでの大河ドラマにない曲を書いてください』と言われ、曲作りはもちろん、録音方法なども新しい方法を積極的に試してみたんです」 前奏に続いて、メインのメロディを演奏するのは韓国の伝統楽器「ピリ」と日本の「篳篥(ひちりき)」のアンサンブル。大規模な対外戦争に臨む日本、元と日本の間で微妙な立場にあった高麗国、それぞれの苦難と決意の思い……そんな当時の東アジア情勢が雄大なスケールで表現されています。「少年時代から、ずっと映画音楽の作曲家になりたいと思い続けてきました。」
ラジオ製作が好きだった栗山少年は、自分の作ったFMラジオから聞こえてくるスクリーン・ミュージックに魅せられる一方、4歳でピアノをはじめ、小学生で早くもバンド活動を開始。中学時代はロックバンド、高校の時はブラスバンド部でトロンボーンを担当しました。ビッグバンドジャズをやりたくて、他高校から優秀な人材を自らヘッドハントしたこともあるそうです。そして、そうしたバンド活動の最中でも、常に作曲者としての自分を意識し続けていたといいます。
学生時代から音楽制作の現場に身を置いてきた
大学2年生の時、栗山さんは早くもプロの作曲家に“弟子入り”し、演奏から、録音プロセス、マネジメントまで、集団作業としての音楽制作の現場を体験。昼は教室、夜は現場というハードな大学生活を送っていました。「なにしろ当時はナマイキ盛りでしたから、ある先生に大学の教育に対する不満を訴えたことがあります。すると『では、君は大学の図書館にあるレコードを全部聴いたのか?せめてひとつのジャンルの音楽を全て聴くぐらいの努力をすべきではないのかね』と問い返され、何も言えなくなって(笑)。確かにその通りだと思って、一念発起して図書館にある弦楽四重奏のレコードを全て聴き、楽譜にも目を通しました。」
そんな栗山さんが母校の存在感をほんとうに意識するようになったのは、実はプロの作曲家として活躍しはじめてからでした。
今村昌平監督作品「カンゾー先生」で音楽を担当した国立音大の大先輩であり、世界的ジャズピアニストの山下洋輔さんとも、編曲に起用されたことがきっかけで知り合うことができました。大河ドラマの後に放送されているミニ番組「時宗紀行」でバックにながれている音楽は、栗山さんのタイトル曲のモチーフを山下さんが即興で演奏した“国立コンビ”によるものです。
「山下さんのほか、N響の首席オーボエ奏者茂木大輔さんなど、国立音大出身の音楽家には皆どことなく同じカラーを感じるんです。そうした先輩たちとの交友関係を通して自分のアイデンティティとしての母校を強く意識するようになっています。」
「技術面ではまだまだ勉強中ですね」と謙遜する栗山さんですが、2002年、日韓交流行事の一環として、わが国を代表して交響楽の作曲を担当することが決まっているなど、気鋭の作曲家としての評価はますます高まるばかりです。
「現在までの日韓の歴史の中で、複雑な思いを抱いて生きている38歳の男としてどんな表現ができるかを曲の中で追究していきたい。『何の仕事』をするかではなく、『何のために作曲しているか』……それが表現者としての自分にとっていちばん重要なことなんです。」
フィクションとしての映画・ドラマ音楽で鍛えられてきた栗山ミュージック。今、リアルワールドをバックグラウンドにして、世界へ向けて鳴り響こうとしています。
