国立音楽大学

加藤明久(クラリネット奏者)

繊細、かつダイナミックに/1993年4月

プロフィール

加藤明久(クラリネット奏者)

加藤明久さん(かとう あきひさ)
KATO Akihisa
クラリネット奏者

1979年 国立音楽大学器楽学科に入学。クラリネットを大橋幸夫、浜中浩一の両氏に師事。在学中は、高校時代からの憧れだった国立音楽大学ブラスオルケスターのコンサートマスターに就任し活躍。
1983年 国立音楽大学卒業。その年より制定された矢田部賞を受賞。第53回読売新人演奏会などの新人演奏会に出演。第16回民音室内楽コンクール第1位入賞。
1984年 第1回日本クラリネット・コンクール入賞。
1985年 第35回ミュンヘン国際コンクール木管五重奏部門でファイナリスト。
1988年 欧日音楽講座にて初のビュッフェ・クランポン賞を与えられる。第2回日本クラリネット・コンクール入賞。
1990年 NHK交響楽団に入団し現在に至る。東京クラリネット・アンサンブル団員。

インタビュー

その日、ブリティッシュ・グリーンの愛車・1973年型MGを駆って、颯爽と現れた加藤明久さん。現在、NHK交響楽団のクラリネット奏者として活躍中。ジャケットにスカーフを合わせたコーディネートがシックに決まっています。お気に入りの靴をパリまで買いにいくこともある、という彼のおしゃれぶりは国立時代からすでに有名でした。近ごろではN響団員の“ファッション・アドバイザー”的存在として他の団員の方のショッピングにもしばしばつきあっているとか。そんな加藤さんが、N響に入ったころのことを思い出して、「いきなり熱いお風呂に飛び込んだような経験でしたね。」とその強烈だった印象を話してくれました。

「一人ひとりの技術的レベルの高さ、レパートリーの豊富さにまず圧倒されました。そして、おたがい刺激し合うその雰囲気にのまれてしまいそうで……。」

学生時代からさまざまな演奏経験を積んでいた加藤さんですが、N響への参加はそれほど衝撃的な体験だったのです。

アンサンブルの快感、むずかしさ

加藤さんにとって、国立時代の恩師である大橋先生と浜中先生は、お二人ともN響での先輩でもあります。

「実際にオーケストラの一員として、広いホールで大勢の観客に向かって演奏して、学生時代にレッスンで先生からいわれたことを、ようやく理解することができたんですよ。『遠くを見て演奏しなさい』という言葉の意味を。」

その言葉の中には、こぢんまりとまとまった演奏になってはいけないという意味がふくまれていると加藤さんは思っています。そして「それがいちばん肝心なこと。」なのだと。

「僕は第2クラリネット。首席奏者が発信する音を、耳を感度の良いアンテナのようにして聞きわけ、それにふさわしい音色と旋律を紡ぎだしていくわけです。もちろん曲全体のこともよく考えて。あたかも一本の糸を紡ぎだすように繊細に、でもダイナミックさも忘れずに、ね。」

ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどの弦楽器、フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴットなどの木管楽器、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバなどの金管楽器、そして打楽器群……総勢100人が発するそうした“細い糸”の一本一本がきれいにより合わされて、やがて堅く結い合わされたロープのように緊密な存在感のあるアンサンブルが生み出されます――誰一人、どんな小さな“ミス”も許されません。たちまち、緊密さの糸がほどけてしまうからです。

「演奏が終わった瞬間に、思わず『やった!』という気分になることがあります。すべての要素がうまく絡み合い最高の演奏ができた時のことです。他の団員たちの顔を見ると、やはりそう感じているらしい。オーケストラ団員にとって、それはまさに至福の時といえるでしょうね。」

N響といえども、それだけの感動を味わう瞬間は年に数回のことだそうです。

偶然を可能性に変えてしまうマジック

中学からブラスバンドでクラリネットを担当していた加藤さんですが、高校2年まで決して音大志望ではありませんでした。高校時代のある日、彼は「国立音楽大学ブラスオルケスター」の存在を知ります。楽団で演奏する魅力が、彼の心をとらえました。そして高校のブラスバンドが全国大会に出場したのが縁で後の恩師大橋先生と出会います。そこで彼の道が初めて決まりました。

「クラリネットを始めたのも、国立音大で学ぶようになったのも、そして現在N響に在籍していることも、すべて偶然にそうなったという感じです。僕はドラマチックな人間ではないんですね。」

しかし、その華々しい受賞歴、ファッションへのこだわり、また英国車しか乗らないというライフスタイルから、加藤さんの等身大のドラマが見えてきます。――ふとした出会いを、大きな可能性に変えていってしまうという、最高にスタイリッシュなドラマが。

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