国立音楽大学

ハラミちゃん(ポップスピアニスト)

一台のピアノで心が通い合う
ストリートピアノは私の原点です
/2024年4月

プロフィール

ハラミちゃん
ポップスピアニスト

ハラミちゃん

国立音楽大学音楽学部演奏学科鍵盤楽器専修(現演奏・創作学科鍵盤楽器専修)卒業。IT企業の会社員を経て、2019年から「ハラミちゃん」として本格的な活動を開始。YouTubeの登録者数は約223万人、動画総再生数は7億回以上。22年には日本武道館での単独公演、23年には47都道府県ピアノツアーにて5万人を動員。24年は「ハラミちゃん5周年記念ツアー」の第一弾として、8月3日・4日に横浜BUNTAIでライブを開催。

インタビュー

ジャンルも年代も洋の東西も問わず、あらゆる曲を耳コピと即興で弾きこなす型破りのピアニスト、ハラミちゃん。YouTubeのチャンネル登録者数は220万人を超えるなど、音楽に縁遠かった層も含め、幅広いファンの人気を集めています。「実は挫折だらけだった」というこれまでの道のりや、くにおんでの日々で得たものについて聞きました。

挫折の先にあった、新たな出会いと学び

ハラミちゃん

──小学生の頃から、ストイックな生活だったそうですね

 兄の後を追うように4歳からピアノを習い始めて、気がつくと本気になっていました。学校の休み時間に、ポップスやアニメの曲を弾くと友達が「わああ!」と喜んでくれるのもうれしくて。勉強も運動もそれほど得意ではなかった私にとって、「ピアノキャラ」が自分のアイデンティティになっていた感じですね。小学1年生になると、音楽理論のテキストを使った勉強が始まり、聴音のトレーニングも開始。週末は8時間ものレッスンを受けていました。

──くにおんへの入学を決めた経緯を教えてください

 高校2年から、本格的な受験準備のためにある高名な先生に見ていただくことになりました。その最初のレッスンで1曲弾き終えたとき、「あなたにピアニストは難しい」と言われました。ずっと追いかけていた夢がバッサリと断たれてしまったことはショックでしたが、コンクールなどで全国での自分の位置というのは認識していたので、先生に言われて楽になったなという部分も正直ありました。
 その後、くにおん出身の高校の先生が「きちんとした環境で教員免許を取れるし、自由でいい学校だよ」と勧めてくれたこともあり、進学を決意。入学後は、「音楽の先生になる」という新しい目標に向かって勉強を始めました。法学や心理学といった教養科目から児童の発達に関することまで、それまで全く触れたことのない分野の勉強はすごく面白かったです。無事に教員免許も取得できました。

──くにおんの授業で、印象深いものはありますか

 クラシックでもジャズでも即興演奏でも、得手不得手はさておき人前で弾く機会が多かったので、メンタルが鍛えられました(笑)。「私、即興が結構得意かも?」と気づいたのも、くにおんの授業中でした。あとは、難解なリズム譜が配られて、90分間みんなでずっと手を叩いてリズム感を鍛えるというユニークな授業もありましたね。
 それから、久石譲さんや神保彰さん、小曽根真さんといった第一線で活躍されている方々による特別講義もありました。当時の私はただのミーハー心で受講していましたが、各界の一流の方々の話をあんなに間近で聴けるというのは、本当に貴重で素晴らしい経験だったと思います。

──先生の指導や言葉で、特に忘れられないものは

 私が師事した今井顕先生は、音楽そのものはもちろん、音楽家の精神面についてもよく話をしてくださいました。心に響いたのは、「観客全員の視線を集めてパフォーマンスできる職業というのはそう多くない。それができる立場であることに感謝しましょう」という言葉。それから、「人に意見を求めるのはいいが、自分の心からの欲求には素直に従って行動しなさい」とも。私は卒業後、音楽の道には進まず、IT企業に就職する決断をしたのですが、その報告をしたときも、先生は温かく受け止めてくださいました。私の人生というものを何より大切に考えてくださったことが、とてもありがたかったです。

音楽は本当に「世界の共通言語」だった!

ハラミちゃん
©️avex

──会社員時代、東京都庁でのストリートピアノの演奏の様子がYouTubeで話題になったことをきっかけに、「ハラミちゃん」としての活動が始まりましたね

 会社勤めを辞めて音楽の道を歩むことには、迷いもありました。でも、都庁に連れ出してくれた当時の会社の先輩いわく「人生、一度でも多く笑った人の勝ち」だと。その言葉にも背中を押され、貯金が続く限りやってみようと決心。それからほぼ毎日、動画やライブの配信を続け、半年後にはワンマンライブを開催することができました。
 活動を始めて5年目になりますが、ずっと変わらず大事にしているのがストリートピアノの演奏です。通りすがりの見知らぬ他人同士でも、一台のピアノを介して心が通い合ったり、思いを共有したり……。その時その場だけで生まれる一期一会の音楽が好きなんです。「亡くなったお母さんが好きだった曲なんです」とリクエストしてくれた女の子が、演奏に涙して喜んでくれたこともありました。
 昨年は、パリを訪れていろいろな駅のストリートピアノも弾かせてもらいました。私は英語もフランス語もできないのに、現地の人と鍵盤に向かうと、「このコードで始めたいのか」「ここでチェンジするんだな」となぜか分かるんです。むしろ言葉よりも内面がむき出しになるので、温かい人だなとか、性格まで分かっちゃう。「音楽は世界の共通言語」とよく言いますが、それをまさに肌で感じた経験でした。

──一昨年は武道館ライブ、昨年は全国ツアーを開催するなど、活動の幅をどんどん広げていますね

  昨年は47都道府県全てを回り、約5万人もの方々に会いにいくことができました。コンサート自体が初めてという方も多かったので、「ピアノの音を浴びる楽しさ」を味わってもらいたいという思いで臨みました。環境音に埋もれる街中の演奏とは違って、一音一音がしっかりと届くホールでは、繊細なものからダイナミックなものまで表現の幅がグッと広がります。「ピアノの音がこんなに多彩だとは知らなかった」「ピアノがもっと好きになった」といった反応をいただけたのはうれしかったですね。

もう一つの“武器”を探すのも面白い

ハラミちゃん
©️avex

──これから新たに挑戦してみたいことはありますか

 音楽教育に何らかのかたちで携わってみたいという思いがあります。いま思い描いているのは、「音楽に苦手意識がある」「自分の好きな曲を弾けるようになりたい」という子どものために、いわゆる王道の練習曲集とはまた違うアプローチを提案できないかなということです。
 例えば、映画『君の名は。』でおなじみのRADWIMPSさんの「スパークル」という曲。同じメロディーが繰り返されるイントロが印象的ですが、あのメロディーを弾くのって指の独立運動のいい練習になるんですよね。弾きたい曲をマスターできるうえに、基礎力もいつの間にか身に付く。そんなカリキュラムができたら、ピアノの楽しさをもっと多くの人に知ってもらえるのではと思っています。あとは、耳コピができるようになるためのレッスンというのもやってみたい。ポップスピアニストならではの着眼点や経験を生かして、いつかお役に立てたらと思います。

──音楽を学ぶ若い世代に、メッセージをお願いします

 厳しい現実をいえば、音楽を学んだ誰もが、必ずしも希望どおりのキャリアを歩めるわけではないと思います。でも一つ確かなのは、皆さんは長年真剣に向き合ってきた音楽という “武器”をすでに手にしているということです。大いに誇るべきことですし、それをどう生かしていくかに正解はありません。音楽という“武器”をひたすら磨き上げていく道もあれば、もう片方の手に持つ“新たな武器”を探すという道もあっていいと思います。「テクノロジー」「教育」「カウンセリング」「地元」など、何を音楽とかけ合わせるかによって、仕事にも生き方にも多様な可能性が見えてくると思うのです。
 だから、「音楽が自分の全て。もしうまくいかなかったらどうしよう」などと思い詰めないでほしい。くにおんの恵まれた環境と貴重な時間をフル活用して、どんどんいろいろな経験をしてください。未知の学問を学んだり、サークル活動を頑張ったり、気になる企業のインターンシップに行ってみたり。くにおんでの出会いが、皆さんの“武器”を増やし、可能性を広げてくれることと思います。

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