花田ゆういちろう(歌のお兄さん)
くにたちでの日本歌曲との出会いが
ターニングポイントになりました
/2021年4月
プロフィール
花田ゆういちろう さん
Hanada Yuichiro
歌のお兄さん
2012年国立音楽大学音楽学部声楽科卒業。文学座附属演劇研究所にて演劇やミュージカルなどの舞台を中心に活動。2017年1月に同所を卒業、同年4月よりNHKEテレの『おかあさんといっしょ』に第12代目“歌のお兄さん”として出演。ファミリーコンサートやスペシャルステージなどの公演のほか、『映画 おかあさんといっしょ』シリーズにも出演、人気を博している。
インタビュー
『おかあさんといっしょ』の歌のお兄さんとして、子どもたちだけでなく幅広い層から人気の花田ゆういちろうさん。幼い頃から歌が好きで、ミュージカルへの出演を目指してくにたちへ。そしてたゆまぬ努力が実を結び、「ゆういちろうお兄さん」が誕生しました。「人前に出るのが好き」と言う言葉通り、天性の華がある花田さんの歌と笑顔は、世代を超えて多くの人の胸に響きます。
(スタイリスト・吉岡ちさと ヘアメイク・井上好美)
日本歌曲は奥深く、かつ難しい
──音楽との出会いについてお聞かせください
両親が洋楽や邦楽のポップスをよく聴いていたので、小さい頃から妹と一緒に歌手の真似をしながら歌っていました。そのうち「シンガーソングライターになりたい」と思うようになり、高校1年から歌のレッスンに通い始めました。でも、レッスンで歌う曲がなぜかポップスではなく、数回目のレッスンで何か違うぞ、と気づきました。その後、劇団四季のミュージカル『CATS』を観て「こんな世界もあるのか」と感激し、自分もミュージカルに出たいという思いがわいてきました。『CATS』のパンフレットを見ると、くにたちを卒業されたキャストが多く、「くにたちで声楽を学べば劇団四季に入ってミュージカルに出られるのかな」と考え、受験準備講習会を受講するなどして、くにたちを目指すようになりました。偶然にも教室で声楽の指導を受けていた先生もくにたちの卒業生でした。
──どんな学生生活を過ごされたのでしょう
声楽専修に入学後はとにかくレッスンが楽しかったですね。山下浩司先生が「やりたいことは何でもやっていいよ」と言ってくださったおかげで、レッスンにミュージカルの曲なども取り入れていました。レパートリーの幅を増やすことで、音楽の世界が開かれていきました。今できることは何でもやってみたいという思いで、その頃からバレエのレッスンにも通うようになりました。
授業では花岡千春先生の「日本歌曲演習」の授業が印象深く残っています。それまではイタリア語やドイツ語で歌うことが多かったのですが、母国語で歌うことで、歌詞の意味もしっかり理解でき、日本歌曲の良さを改めて感じるようになりました。日本歌曲は奥深く、かつ難しく、レッスンでも積極的に取り組むようになりました。旋律の美しさやおしゃれな響きも魅力的でした。僕は身体が大きくなく、あまりオペラには向いているとは思えなかった一方で、日本歌曲は自分の声にも心理的にも合っていると感じました。振り返れば、くにたちで日本歌曲と出会えたことがその後の僕のターニングポイントになりました。
また、くにたちに入学して感じたのは、「学生がみんな自由で良い意味で独立していて、けれど“輪”もある」ということでした。そういう仲間との関係は新鮮かつ快適でしたし、学業面でも良い刺激を受けました。声楽専修の友人たちとは今でも付き合いが続いていて、今はなかなか会えませんがオンラインで話したりもしていますよ。
お芝居の経験を経て歌のお兄さんへ
──卒業後はミュージカル俳優を目指されたのですか
「卒業したら劇団四季に入りたい」と思っていたのですが、在学中にお芝居もたくさん観るうちに、お芝居に求められる表現力に魅力を感じ、「お芝居をもっと頑張れば、“生きている歌”を歌えるのでは」と考えるようになりました。そこで、演技の勉強をするために文学座附属演劇研究所の聴講生になり、基礎から演劇について学びました。演劇漬けの日々は本当に充実していたのですが、聴講生は1年しか在籍できず、研究生にスライドもできません。気持ちを切り替えて、長い間目標だった劇団四季研究所を受験したところ、合格しました。しかし、どうしても文学座への未練が立ち切れなかったのです。翌年に文学座附属演劇研究所の研究生を目指し改めて受験して、合格することができました。その後、研究生となり、演劇やミュージカルなど舞台での活動をしていました。
──文学座の研究所を卒業後、『おかあさんといっしょ』に出演されるようになりました
研究生2年目のときに、お世話になった方が演出するミュージカルに出演しました。その振り付け担当の方が偶然にも『おかあさんといっしょ』も担当されている方だったのです。そして「歌のお兄さんのオーディションがあるから受けてみないか」と声をかけてくださったのです。それまで、自分が歌のお兄さんになろうと意識することがなかったのですが、オーディションを受けられる貴重な機会を得たのだから挑戦してみようと、すぐ心は決まりました。
──「歌のお兄さん」になってから、変化や気づきはありましたか
収録ではハプニングやアクシデントも起こりますが、どんな状況でもしっかり歌うことを常に意識しています。歌のお兄さんになってから初めて気づいたのは、スタジオで子どもたちと一緒に歌うとき、レコーディングで歌うとき、そしてコンサートで歌うときとでは、同じ曲でもまるで違って、歌う楽しさも異なるということです。気をつけていることは体調管理、特に喉ですね。昨年から新型コロナウイルスの影響で、コンサートなどで歌う機会が減りました。それまでは一日に3本ずつの収録、リハーサルやレコーディング、コンサートと喉を酷使する日が続き、声帯結節になってしまいました。幸い手術はしないで済みましたが、以来、常に吸入器を持ち歩いたり漢方を飲んだりと、喉のケアに努めています。また、『おかあさんといっしょ』の出演者に、調子が悪いメンバーがいるときは、ほかのメンバーがカバーするなど、収録ではみんなで助け合っています。
──大学での学びが活かされていると感じることはありますか
今は番組の中で演じ、ダンスもしますが、僕の「芯」は歌です。くにたちで学んだ発声練習やレッスンで先生方に教えていただいたことは今も僕の軸になっていて、学んだことがすべて活かされていると実感しています。
コロナ禍でも子どもたちに歌と笑顔を届けたい
──子どもたちが参加しない収録が続いていますが、どのようにモチベーションを維持されているのでしょう
子どもがいない状態で子どもの歌を歌うのはよりパワーが必要だと、回を重ねるほど感じます。子どもたちがいれば大人は元気になれます。体調が悪くても声が出なくても、子どもが元気をくれて楽しく歌えます。だから一日も早くスタジオやコンサート会場で子どもたちに会いたいという気持ちでいっぱいですが、その日までは見えない向こうにいる子どもたちに歌と笑顔を届けよう、という思いでいます。
──今後の目標をお聞かせください
今は歌のお兄さんに全力投球の日々ですが、将来は舞台やミュージカルの仕事もやりたいですし、機会があればドラマにも挑戦したいと思っています。また、いつか一人芝居を作りたいというのも目標ですね。それから、保護猫2匹の里親になってから動物愛護にも関心を持つようになりました。まずは里親が見つかるまでの一時預かりボランティアから始めようと思っています。
──くにたちを目指す人たちへメッセージをお願いします
「くにたちで音楽を学びたい」という思いをさらに掘り下げて、入学後はどう学びたいか、卒業後は何をやりたいか、そのためにくにたちですべきことは何かを明確にすることが、将来につながっていくと思います。また、情報過多の時代ですから、ときに余計な意見が聞こえてくることもあるかもしれません。客観性や人の意見はもちろん大事ですが、必要以上に多くの意見を聞きすぎず、余計な情報を入手せず、ひとりで考えることも必要だと思います。頑張ってください!