国立音楽大学

ウィーン音楽・演劇大学(オーストリア)

大学院修士課程音楽研究科 器楽専攻(鍵盤楽器ピアノ) 2年 内川 夏子

研究概要

私は大学院でシューベルトのピアノ曲を研究テーマとしている。彼がその生涯を過ごした都市ウィーンに留学することで、歴史的背景や文化、伝統を肌で感じ、レッスンを通じて演奏法や曲の解釈を深めたいと考えた。

私が師事したヴォルフガング・ヴァッツィンガー教授のレッスンではシューベルトをはじめ、ベートーヴェン、ハイドン、モーツァルト、ブラームスなどのウィーンに関わりのある作曲家の曲を中心にみていただいた。私自身のテクニックの問題の指摘、及び曲の解釈とそれを実現するための表現方法、という両面から丁寧にご指導いただき、毎時間たくさんの発見や気づきがありとても充実した時間であった。学内ではどの門下もクラスコンサートが頻繁に行われており私も何回か出演する機会をいただけたが、他の学生のレベルの高い演奏を聴けて学ぶことも多かった。

レッスン以外では室内楽の授業も取っており、他の楽器の学生や教授との関わりを持てた。合わせの練習では皆自由な発想で意見を言い合い、曲やレッスンに積極的に臨む仲間の姿勢に刺激を受けながら、一緒に音楽を作る楽しさを味わうことができた。鍵盤楽器学の授業では楽器の構造や歴史などを学んだ。専門用語も多くドイツ語で理解するのに苦労したが、王宮の古楽器博物館を見学したり先生の工房で調律について教わったりと学外での授業も印象深かった。

学校や練習以外の時間は積極的にコンサートやオペラ、美術館や博物館などに足を運んだ。ウィーンには著名な演奏家が多く集まり、国立オペラ座やフォルクスオーパー、楽友協会やコンツェルトハウスなどで、素晴らしい演奏にたくさん触れることができとても有意義だった。

またシューベルトをはじめとする大作曲家たちが過ごした地を訪れ自筆での貴重な資料や実際に住んでいた家、使っていた物を目の当たりにし、彼らの見たものや過ごした時間に思いを馳せながら作曲家をより身近に感じた。そして一年間生活してひと通りの季節や行事を体験し現地での生活や習慣を知ることで、ウィーンに根付いた文化や伝統を感じることができた。またイタリア、ドイツ、フランス、チェコなどにコンクールや旅行で訪れる機会もあり、ヨーロッパの文化に触れる良い機会となった。

    

                          シューベルトの生家                                                                          レッスンの様子

留学を終えての所感

最初は外国で初めての一人暮らしということに加え、ウィーンでの住居は学校や中心地から離れていたので電車での移動など慣れるまでに少し時間はかかったが、周りの親切な方々のおかげもあり生活は問題なく、むしろ快適であった。ウィーンでまず思ったことは、非常に様々な国籍・人種の人々が生活しており、そういった多様性を受け入れる環境であるということである。それぞれの宗教や思想を尊重し対応し得る体制が整っているように感じた。様々な人との交流を通して、相手を理解し自分や日本の文化を理解してもらおうとすることで私自身の考え方の幅が広がり、異なる価値観を尊重し合うことの素晴らしさを実感し、多くの人と関わりを持ちたいとより一層思うようになった。

また最近特に国際情勢が不安定な状況にあり、私がウィーンにいる間にもヨーロッパでいくつものテロが起こっていた。空港や市内でも人が多く集まる場所やイベントでは警戒態勢がとられているのを感じた。また大使館からも日本人のスリの被害報告やテロへの注意喚起がよくあったため、生活には慣れても常に緊張感を持って過ごすように気を付けていた。日本にいるときには意識しなかった世界情勢や治安の問題を身近に感じるようになったが、こういった感覚も留学の大切な部分なのではないかと思った。

留学中、常に苦労したのは語学であったが、海外での生活を有意義にするために一番必要なのも語学であることを痛感した。ビザの取得や学校での手続きをはじめ、人とコミュニケーションをとるうえで、なかなか自分の伝えたいことがうまく言えずにもどかしい思いを数えきれないほど味わった。語学の勉強は語学学校にも通っていたが、ウィーン大学の日本学科の学生とのタンデム(言語交換)で会話の練習をしたりして、音大以外の学生との交流も楽しみながら勉強できたことが良かった。語学は世界中の人と繋がるための重要なツールであるのでこれからも引き続き勉強していきたい。

この一年間の経験は私の考え方や視野を広げてくれた。世界には様々な環境や立場で、人それぞれ様々な思いを持ちながら音楽を勉強している人たちがいると分かり、私もこれからどう音楽と向き合っていくかを改めて考えることができた。ピアノでの課題も多く見つかったが諦めずに前向きに努力を重ねていきたい。毎週のレッスンで丁寧に、優しくあたたかくご指導いただいたヴァッツィンガー先生には感謝してもしきれない。

お世話になった全ての方に御礼申し上げます。ありがとうございました。

内川 写真3
王宮の舞踏会、交換留学生と
内川 写真4
大学のピアノ科の校舎の前で

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