ウィーン音楽・演劇大学(オーストリア)
大学院修士課程音楽研究科 器楽専攻(鍵盤楽器ピアノ) 2年 栗田 桃子
研究概要

シューマンを主として、ドイツロマン派の作品に楽曲を勉強した。実技のレッスンに加え、シューマンの権威と言われる教授のレッスンが受けられる講習会に二度参加した。室内楽の授業では、ドイツロマン派のピアノカルテット、また、幻想曲をテーマに研究報告を作成していたため、二台ピアノによるスクリャービンの幻想曲を勉強した。
12月にはドイツを訪ね、エンデニヒ、ライプツィヒのシューマンハウス、2月にはツヴィッカウのシューマンハウスを訪れた。身近に作曲家の気配を感じる、貴重な体験をした。ツヴィッカウのシューマンハウスの方々は大変親切で、事前にメールをしたこともあり、Op.114の幻想小曲集の自筆譜を閲覧できた。
何故か、シューマンの幻想曲が著名なピアニストによって奏されることの多い年で、欠かさず聴きに行くことができた。深く掘り下げて勉強している最中の曲の大ピアニストの演奏を聴くことができたのは大きな収穫だった。
友人やアンサンブルの仲間などの留学生同士では、音楽や演奏について、よく話をした。演奏を聴いてもらい、それに対しての指摘や練習方法の提示をしてもらったこともよくあった。先生からの意見だけでなく、多角的な考えを参考にすることが出来た。また、学部の専攻で見てもらっていた草野明子先生のお知り合いであるピアニスト、浦田・Fog・陽子さんにも演奏を聴いてもらい、ある時はモーツァルトの連弾を一緒にしたり、ウィーンフィルのチェロ奏者であるご主人とのコンサートでは譜めくりをして、合わせの様子を見ることができた。音楽の作り方を学ぶ貴重な体験だった。
6月に自主コンサートを開き、一年間にわたり知り合った方々を招待した。国立出身でウィーンにてご活躍の酒井・コィエーダー・ゆかりさんがご厚意でサロンを貸し出してくださり、語学学校での知り合いから、先輩方、友人、沢山の人が聴きに来てくれた。修了試験で弾くために用意してきた曲を披露し、色々な意見を聞いた。
自主コンサートに来てくれた語学学校の仲間達 自主コンサートの様子
留学を終えての所感

留学をしなければできない経験を沢山した。ヨーロッパ各地に赴いたこと、それぞれ3つの地にあるシューマンハウスへの訪問、ベルリンフィルの感動的なジルベスターコンサート、イタリアでの国際コンクール、全てが今となっては夢のようだ。
留学受け入れ先のウィーン国立音楽大学は、歴史がありレベルが高く、学生の演奏やレッスン、演奏に対する高い意識、練習量に圧倒された。
言葉の壁と一年のみという時間の制限には焦らされ、追い詰められた。語学学校に通い続け、何とかコミュニケーションが取れるようになり、ドイツ語の理解は深まった。発音の聞き取りに慣れるまでの3ヶ月間は辛かった。講義も全てドイツ語であるため録音して家で繰り返し聞いたり、メールを一通出すのに時間がかかったり、生活のための諸々の手続きも大変だった。短期間だったため、見てもらいたい曲が沢山あり、結果的に仕上がりが雑になったり消化しきれなかったことは、特に悔やまれることの一つだ。
今までは、集中が切れている状態の時も無理にピアノに向かい、練習していた。だが、講習会で先生から指摘され、それが無意味であることに気づいた。むしろそれは積極的に集中が切れるように練習をしているようなものなのだ。「頭は集中し、身体はリラックス、心を熱くして、初めて演奏になる。」ことをこれからも忘れずにいたい。
各国、それぞれの流派で、テクニックが異なることを、レッスンやコンクールで実感した。自分の身体に合ったテクニックを確立することもこれからの課題だ。
もう数年滞在したかったという思いが強く、機会があれば再び留学したい。今は、日本でこの一年で得たものを消化し、自分のものにしたい。
今回の留学では、国際コンクール等にも参加したことで、自身の演奏能力について客観的に把握することができた。悔しい思いをバネに、足りない点、不勉強な点、課題に真摯な姿勢で取り組んでいきたい。
そしてその後にもう一度、国際コンクールに挑戦したいと思う。

