国立音楽大学

『映画ドラえもん のび太の地球交響楽(ちきゅうシンフォニー)』監督インタビュー

音楽が苦手な子にこそ、届けたい

2024年3月に公開された「映画ドラえもん」最新作のテーマは「音楽」。この映画の製作に、国立音楽大学が協力しています。
なぜいま「音楽」なのか、作品に込めた思いを、今井一暁監督に伺いました。

撮影:山口 大輝

今井一暁 IMAI Kazuaki

Profile: 1976年生まれ、東京都出身。アニメーター。
テレビアニメの『ドラえもん』を経て、2018年『のび太の宝島』で長編アニメ監督デビュー。2020年公開の『のび太の新恐竜』に続き『のび太の地球交響楽』は3作品目。

音楽は人として何か根源的なものにつながっている

──今回の「映画ドラえもん」のテーマ「音楽」ですが、映画のテーマはどのように決めるんですか?

 「音楽」でやりたい、と言いだしたのは私なんです。2020年にコロナ禍という思いもよらない事態が起きました。私には小学生の息子がいるんですが、学校にも行けない、家から出られない、じっとしていなくちゃいけない。子どもにとってこんな苦痛なことはないですね。すごくストレスが溜まっているだろうなと感じました。あの時期、コンサートも全部ストップしている状況の中、ある時テレビで、いろいろな楽器の奏者がリモートで演奏しているのを編集で一画面に映して合奏するという番組をやっていたんです。それを子どもが見ていて、大声で一緒に歌い出したんですね。その時、音楽ってすごいな、人として何か根源的なものにつながっている部分があるんだなと思いました。それをドラえもんの設定に乗せて、子どもたちに「音楽って面白そうだな」と伝えられたらいいんじゃないかなと考えて、プロデューサーに相談したのが始まりです。

 

──企画から映画の完成までの流れを大まかに教えていただけますか?

「音楽」のテーマは「映画ドラえもん」では描いていなかったので、ドラえもんの世界観として果たしてありなのか、アイディアが通るのかどうか心配でしたが、プロデューサーの方も最初は驚いたものの、話を進めていく中で、これは面白いと全面的にバックアップしてくれました。

企画が通ってから私とシナリオライターの内海照子さん、シナリオ協力の佐藤大さん、その三人がメインになって、物語の構成を詰めていきました。全体の制作期間は3年以上かかっていますが、シナリオがある程度OKというところまで行くのに、ほぼその半分を使っています。

シナリオが固まったらその後が絵コンテ作業。監督である私が映像の設計図みたいなものを1カットずつ起こしていく。今回でいうと全部で1446カットです。絵コンテができたそばから、原画のアニメーターさんに1カットずつ実際に絵を描いていってもらう作業に入ります。原画はキーになる動きだけを描いているので、背景も含めて原画がOKになったら、その間を埋める絵を描いていって動きがつながるようにする動画作業になります。基本的に、人の手ですべて描いています。最終的には10万枚くらいの絵を描いていますね。

ある程度映像の材料が揃ってきた段階で、本編の大体の尺(長さ)を決めます。それができたら、作曲家の服部隆之さんをはじめとする音楽の方々と打ち合わせをして、「ここにこんな曲を入れよう」というのを考えていきます。その後、アフレコの声優さんたちがセリフを入れたり、効果音を入れたりというふうな流れになります。

 

──今回のお仕事の中で、表現者としての監督が感じたことがありましたら教えてください。

私が「これでOK」と思ったけれど誰かは「これはダメ」という状況の時、どうその壁を乗り越えるかというのが、今回いちばん勉強になったことですね。最初に自分が「これをドラえもんでやりたい」と思った、その核の部分は何とか守りつつ、みんなが「これならいいよ」というものに、妥協ではなくより良いものにすり合わせていく。とてもいい経験でした。時間はかかるし苦しいけれど、やっぱりそこは大事だったんだなと思います。もし、全て私の自由で作っていいという状況だったら、多分違うものになっていたし、面白かったかどうか分からないですね。

もの作りって、100パーセント自分の意思だけでまかり通る状況はそうそうないと思うんです。プロジェクトになると、関わるスタッフなど、自分で選べない部分の要素も多い。そのとき縁があった人たちの中で、折り合って、作っていく。自分でもどっちへ行くかわからないという状態で、徐々に進めていかなければならない。どんな物作りでも、それこそ音楽にも似たようなところはあるでしょうね。そこをどう作っていくか。難しいことですが、だからこそ面白い。

ここでもらったいい空気が、作品に反映された

──国立音楽大学はどの段階からどのように関わったのでしょうか?

シナリオがある程度大まかな形が見えてきたものの、まだ完成していない時期でした。やっぱり今回の作品では音楽を扱うので、当初から、音大の学生さんに協力を仰ぎたいと考えていたんです。私自身は音楽に関してはまったくの素人なので……。最初は学生さんたちに、楽器のことなどいろいろインタビューさせてもらって、その内容からヒントをもらったりして、シナリオを組んでいきましたね。音楽学の教員・吉成順先生とも早い段階でお会いして、講義をしていただいたんです。その時先生に、リンゴ・スターが主演している『おかしなおかしな石器人』という映画を紹介していただきました。その中に、原始人が偶然何かを叩いたら音がして、ほかの人も叩き出して、最初はバラバラに音を出していたのが、あるところからリズムになっていって、それがみんな楽しくなって、音楽が生まれる……というシーンがあって。実はそのシーンは今回の映画のアイディアとして取り入れているんですよ。

そんなふうに、くにおんの皆さんからはいろいろなヒントやアイデアをいただきましたね。ドラえもんのひみつ道具も、学生さんにインタビューする中で思いついた、映画オリジナルのものです。「音楽ライセンス」というんですが、自分の楽器と意思疎通ができて、仲良くなれる。さらに、カードを楽器にピッとタッチすると小さくなって、身につけていられる。これは、楽器の持ち運びに苦労している人が多いと聞いたので(笑)。

さらに、映画で使う曲を学生さんに実際に演奏してもらって映像におさめ、体の使い方や指づかいなどを参考にしながら、作画に落とし込んでいるんですよ。

 

──国立音楽大学を訪れて学生たちと接する中で、どんな感想を持たれましたか?

先ほども言ったように私自身音楽に関しては全く門外漢だったんです。なにしろアニメを作ろうというタイプなので、ずっとノートに絵を描いているような子でした。けれど音楽への憧れみたいなものはあったし、国立音楽大学に来てつくづく、こんな学生時代を送っていたらよかったなあと思いましたね。

絵コンテを描く作業の中では、その時に吸っている空気みたいなものが意図せず出てしまうんです。何かそのときに受けた印象で、「いやこっちの方がいいな」とか、「これ面白いからこっちをもっと膨らませたいな」とか、変わっていくんですね。だからその間は自分自身がなるべく音楽の世界の空気をまとっていた方がいい。そういう意味で、くにおんの皆さんには非常に貴重な時間をもらっていたと思います。アンサンブルを大事にされているという校風、みんなで一緒に何かを作っていくという雰囲気が、結果として今回の作品に反映されているかもしれませんね。たぶん、すごくいい空気をもらったんだと思います。

言葉に頼らないコミュニケーション、それが音楽

──音楽をテーマとした「ドラえもん」を通して伝えたかったメッセージはありますか?

音楽って、言葉に頼らないコミュニケーションだと思います。他人が出している音を聞いて、そこに自分の音を合わせて音楽にする。音楽で会話をしているわけです。言葉が、自分と他人、敵と身方を分けるツールになりがちな昨今、なんて素敵なんだろうと思いますね。この作品も、そういう感じを本編の中で表現できるといいなと思いつつ作っていました。

子どもたちに向けて作ったのはもちろんですが、どちらかというとのび太くん的な「音楽なんて嫌だ」っていう子、音楽の授業やリコーダーの練習が苦手という子たちに、「でも、その先にはもっと面白くて深くて広い世界があるんだよ」ということを伝えられたらいいかなと思っています。

みんなで音を出し合って一つの音楽を生み出すって、すごく楽しそうだな、と子どもたちが映画を見た後に思ってくれたらいいなと。今すぐでなくても、何かのきっかけがあった時に、あんな映画があったよね、面白そうだったな、ちょっと楽器やってみようかな、なんて思ってくれたら嬉しいですね。

音大生にぜひ気づいてほしい! こだわりポイント

  1. 生音にこだわった効果音
    効果音は全部「生音」で録音。のび太がリコーダーで出す独特な音はリコーダーを水面に近づけて録った。他にもユニークな効果音満載、何をどう録ったのか想像してみよう。
  2. 鳥が止まっている電線は……
    電線の数が5本、つまり楽譜と同じ五線になっているのだ。飛び立つ時のポロンとした音も、止まっていた位置の音符に合わせている。
  3. あっ、この曲はもしかして……
    劇伴をよく聴いてみると、アレンジがされているけれど実はおなじみのあの曲やこの曲が使われている。いくつわかるかな?
  4. ラストの地球シンフォニーのとき、世界中の包丁がきざむリズムは、実は国によって強拍の位置が…

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