国立音楽大学

国立音楽大学×東京大学 共同記者会見レポート

オルタ3(Supported by mixi, Inc.)
オルタ3(Supported by mixi, Inc.)

「オルタ3」との演奏競演

2020年1月11日(土)、本学と東京大学によるオーケストラを用いたヒューマンアンドロイドによる演奏表現の共同研究の始動にあたり、本学新1号館オーケストラスタジオにて、記者会見を行いました。

当日は、東京大学大学院総合文化研究科の池上高志教授、音楽家の渋谷慶一郎氏、本学板倉康明客員教授、今井慎太郎准教授が出席、今回の共同研究の演奏実験を担当した「Alter3×くにたちオーケストラ」と渋谷氏、オルタ3の指揮、歌唱によりアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』の代表楽曲である「Scary Beauty」を披露しました。

東京大学大学院総合文化研究科 池上高志教授
東京大学大学院総合文化研究科 池上高志教授

「オルタ3」を人間に近づけるための研究ではない

演奏披露のあとは、今回の研究について、登壇者よりコメントがありました。
まず、池上教授からは、オルタ3と従来のロボットとの違いについて

「オルタ3は人と相互に作用する。一般的なロボットはタスクに基づいて動くものだが、オルタ3は人の動きに左右される自律的プログラムを持っている。
プログラマーにもわからないようなダイナミクスを指揮に生かしつつ、オルタ3のカメラで人の表情やどのような演奏者がいるかということを使って、その場、その場で動きを変えていくことも、もう少し精密化させていきたい」

と話されました。

作曲専修 板倉康明客員教授
作曲専修 板倉康明客員教授

続いて、本学板倉客員教授より、指揮者であり演奏者の立場から

「これからの音楽はどうなっていくのか、常に考えている。
この3日間、オルタ3とオーケストラの実験を行ってきたが、実際のオーケストラとオルタ3との親和性が出てくることで音楽そのものが変わってきた。
これはつまり、奏者とオルタ3の間でインタラクティブなやりとりが行われているということ。
実験に参加した学生たちにとって、世界でも類を見ないこのような研究に携わったことが将来の音楽活動に繋がる経験になるのではないか」

と話しました。

また、本日演奏したアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』を作曲された音楽家の渋谷氏は、テクノロジーと音楽の関係について次のように語りました。

「池上先生とは2005年から15年来、音楽とテクノロジーについて共同研究してきたが、その中で、テクノロジーには“制度”と“形式” が無いことが面白さでもあり問題だとも感じてきた。
非常に自由だが、それだけでは強力な意味が生まれないので数年ももたずに古くなる。一方で、オーケストラや劇場といった、音楽の中でも際立って「制度的」なものを自由なテクノロジーをぶつけた時に、どんな相互作用が起きるかがアンドロイドによるオペラという発想のもとにある。
人間にとって“未知”で“不自由”なアンドロイドというものに対した時に、オーケストラが演奏しにくかったり、人間とは違った演奏の可能性が生まれたりするといったことがあるだろうが、アンドロイドの良いところは不完全であること。
だからこそ、いろいろな音楽家と科学者の間で様々な アイディア、創発的な交換が生まれやすい。
今回、3日間、かなり厳密にオーケストラとオルタ3の関係、反応を精査したことでアンドロイドの指揮者の動きにおける偶発性や不定形さがなどが演奏にとって「何が有効/いらないもの」であるかの線引きが見えた気がする」

と感想を述べられました。

コンピュータ音楽専修 今井慎太郎准教授

最後に本学今井准教授から、アンドロイドと人間の共生という観点から

「昨今、アンドロイド研究ではさまざまな試みがあるが、アンドロイドと音楽の研究の面白いところは、アンドロイドに応答するだけでなく、“同期” するという点だと思う。
人間は、同期していることに快さを覚える生物であり、その観点から考えると、人間とアンドロイドの共生から、生活のクオリティに関わるところまで研究で見せられたら」

と語りました。

また、オーケストラを用いた実験について

「オーケストラは社会の縮図である、と言われることもある。一方でP.ブーレーズ《レポン》という作品では、オーケストラを都市に見立てている。
音楽というものは、人間が生きる環境のソフト面とハード面を内包していると言えるのでは」

と研究への意欲を話されました。

コンサートマスターの北原恵理さん(3年 ヴァイオリン)
コンサートマスターの北原恵理さん(3年 ヴァイオリン)

「身体性の知」はこれからのAI研究の核になる部分

次に、取材記者の方からの質疑応答があり、非常に活発な論議が繰り広げられました。

今回の演奏を担当した本学のオーケストラの奏者に対しても

「オルタ3の指揮を実際に体験してみてどのように感じたか」

といった質問もありました。

コンサートマスターを務めた演奏・創作学科 弦管打楽器専修(ヴァイオリン)3年北原恵理さんは

「オルタ3が指揮をすると聞いて、面白そうだなと思った。実際に演奏をしてみると、人間とオルタ3がそれぞれもつ良さと悪さがあるなと。
実験の中で感じたことは、人間は演奏していると音楽が盛り上がってくれば自然とテンポが上がったり、音量を大きくしてしまったりすることがあるけれど、オルタ3はそのようなズレは今はない。こうした違いは面白く感じた。」

この感想を受け、板倉客員教授は

「オルタ3の指揮の目的は、人間の指揮に近づけていくことではなく、「新しい指揮芸術」を見出すことにあり、本当に必要な指揮者の仕事を追究していくことに主眼が置かれている」

と述べました。

また、オルタ3の持っている機能と課題から、今後のAI研究の展望についても話が及びました。

「本番で壊れてしまったりする心配は?」

という質問に対し、池上教授は

「壊れます(笑)」

としたうえで

「例えば人間も頭だけで考えることはほとんどない。ダンスをする、指揮をするという、知の身体活動の側面はこれまであまり研究されてこなかった。
身体と脳の協調をどう取り込んでいくか、これからのAIの発展というところに関わってくるのでは」

と、現在のAIの持つ課題は「身体性の知」という部分にあることが示されます。 

とりわけ、アンドロイドは「ディープラーニング」についての研究が取り沙汰されがちですが、AIに身体性を持たせるかということが現在最も問題になっていることである、と話されました。

また

「人間は痛かったら動かさないけれど、AIは動けてしまう。そこが問題で、自律的プログラムの重要性は、痛いということをロボット自身が感じて自分で身体を守っていくことにある。
そうした自律性は、アートや音楽表現の根底にあると思っている。何でもできるということは何にもできないということ。
身体的制約が背後にあることが芸術表現に繋がり、人間とは異なる形でAIも表現できるのでは」

と、これからのAI研究、ひいては芸術表現の新しいステージについても示唆に富むコメントがありました。

今後の研究に向けて

さまざまな質問が熱心に交わされていましたが、今後の具体的な研究についても語られました。

今井准教授は、音のデータ解析の観点から、次のように話しました。

「音の入力データは楽譜と照合してテンポを測ったり、次の音楽の流れを予測したりして動きを促す。これを応用して音楽のテンポ感のコントロールというところまで行えたら。」

また渋谷氏は

「今はまだオルタ3があって曲があるという位置関係になっているが、自律生成的な音楽の形をどのように作っていくのかを検討しなければならない。」

と話されました。

その他、ウィーン・フィルの演奏を例示しながら、人間が意識的に、もしくは無意識に行っている、周囲の環境、温度や湿度、天気によってすら影響を受け演奏を変える、変わっていくといったことにも挑戦したい(オルタ3には既に気温や湿度のセンサーが内蔵されているとのお話も!)との目標も語られ、盛況のうちに共同記者会見が締めくくられました。


今後の共同研究からどのような成果が得られるのか、興味はつきません。今後も本研究の様子などは随時報告してまいります。どうぞお楽しみに!

 

※オルタ3は、人とAIとのコミュニケーションを探求するために、東京大学池上研究室、大阪大学石黒研究室、ワーナーミュージック・ジャパン、株式会社ミクシィの4社共同研究プロジェクトにて誕生しました。

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