小林緑:名誉教授(音楽学)

小林緑

在職33年、退職後17年、合わせて半世紀間、お世話になりました。苛烈な世界情勢下での創立100周年、心より感謝し、お祝い申し上げます。一回も欠けることなく給料を、そして退職金も、規定通り頂けました。
1993年ころから女性作曲家研究を天命と定めたため、圧倒的にオトコ社会である日本のクラシック音楽界ではずっと肩身の狭い想いをしました。けれど学内の小さな授業では、女性作曲家無視こそは女性差別そのもの、と熱弁した甲斐あってか、今読み返してもうれし涙がこぼれるような女子学生からの手紙は大事にとってあります。また、ポリーヌ・ヴィアルドの“星”という歌にショックを受け、サックスのアンサンブルにしたい!とアンケートに書いたのは男子学生でした。
本気で興味を持ち、好きになる心持ちは男も女も同じこと。名前を知らされず聴いた音楽の作者が男か女か、なんてわかるはずもありません。オペラの大歌手であったポリーヌは、ジェンダーを超えた広い声域を駆使して、オルフェーオも、鶯の歌も、自在に歌い上げた作曲家。2023 年に公刊した唯一の単著を『ポリーヌに魅せられて』と題した所以です。
“MeToo”運動に敏感に呼応した欧米クラシック業界は、21世紀が進んだ今、女性作曲家のCDやYOUTUBE情報を次々発信しています。「知られざる作品を広める会」を主宰する夫と二人掛かりでも、とても追いつけません。どうか国音もこの記念年に乗じて多様性の風をたなびかせ、安寧と平等の音楽を響かせてくださいますように。

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