梅本 実学長
(ピアノ)
伝統を未来へ―
くにおん新世紀に向けて
外部にも研究者にも温かい
国立音楽大学
他大学出身の私と国立音楽大学との最初の関わりは、北海道の大学勤務時の論文執筆がきっかけでした。都内の大学図書館のリサーチを始めたところ、友人から国立音楽大学を推薦され、すぐに連絡を入れて初めて国立音楽大学を訪れたのです。研究対象はドイツ歌曲で、資料不足を覚悟していましたが、ドイツ語の文献も含め大変充実していました。それ以上に、図書館の職員の方々がとても親切で、外部者にも温かいことに心打たれました。研究者を大切にしている大学であることがわかり、第一印象は非常に良かったです。
その後、都内の大学に勤務し、当時本学の学長だった植松東先生からお誘いがあって非常勤講師になりました。背景には、大学が改革を進め、外部の風を取り入れようとしていた事情があったと思います。また、アンサンブル、特にピアノのアンサンブルにも力を入れようという時期で、ドイツ歌曲の伴奏者として活動していた私に声がかかったのでしょう。音楽大学勤務は初めてで、施設や設備、教員、カリキュラム、事務組織など、音楽を学ぶための環境、音楽家、教育家を育てるための教育体制が整備されていることに改めて感心しました。
時間がかかっても
クオリティの高さを追求
音楽学がご専門の髙野紀子先生が学長になられた際、専任として採用していただきました。大きな世代交代があった時期で、教員採用等、相当ご苦労されていたのではと推察します。次の庄野進学長は音楽デザインがご専門で、学長になる前から学科再編を推進され、それが現在の土台となっています。国際交流、特に欧米やアジアの大学との交流を活発化されたのは先見の明があったと思います。ドイツのカールスルーエ音楽大学との交流・交換留学協定には、私の恩師の白井光子先生が動いてくださった経緯があり、少しは貢献できたのではないかと思っています。
前任の武田忠善学長は、以前から定評として流布していた「アンサンブルのくにたち」を改めて言語化し、積極的に使われていました。このアンサンブルとは「音楽」のみならず「人との協調」、つまり共に創り上げていくという両義があるとお考えでした。そうした精神が根付いている本学の学生だからこそ、卒業後も人間関係で美しいハーモニーを築けるのだと思います。本学では創立以来の「自由・自主・自律」の精神が尊重されてきました。教員がサポートしながら学生自身が考えるという基本的理念は誇りであり、今後も続けていくべきことです。また近年は即効性が重視され「くにおんは堅実だが地味」などといった外からの声もあるようです。しかし、すぐに答えが出るもの、表面的に派手なものではなく、時間がかかってもクオリティの高いものをしっかりと追求するという伝統はこれからも大事にせねばなりません。
伝統を未来へと伝える
それがくにおんの「新世紀」
他の音楽大学同様、本学もこれまで西洋クラシック音楽を教育の中心に据えてきました。その伝統も守りつつ、平成以降は応用演奏、音楽デザイン、音楽療法、ジャズ、ミュージカルと枝葉を広げてきました。卒業後、多彩なジャンルで活躍する人が多いのも本学の特徴で、今年6月に開催される「くにおん100フェス!」の出演者の顔ぶれを見れば一目瞭然です。新しい枝葉は時代のニーズによっても変化しますが、土台となる根がしっかりしていれば何事にも対応できるはずです。
2023(令和5)年の学長就任からは、創立100周年に向けた行事・事業もスタートしています。データサイエンスの拠点校の1つである滋賀大学との協定締結、くにおんフォルテピアノの製作・お披露目コンサート、地方の同調会や吹奏楽連盟との共催・後援によるブラスオルケスター盛岡・山形特別演奏会、ピアノコンクールのプレ企画、福島県相馬市での合唱行脚復活など、枚挙にいとまがありません。
そして、今後の100年を展望すると、少子化の進行は予想以上に速く、音楽大学に限らず、すべての大学が存在意義を問われる時代に入っています。高校生のニーズを探り、それに寄り添う教育体制を再構築するとともに、今後重要になる海外からの留学生や生涯教育にも力を注ぎたいと考えています。これまで留学は日本人が欧米で学ぶ一方通行でしたが、アジアでは日本の教育機関への関心が高まっており、その受け入れ体制を強化したいと考えています。学びたいときに学べる環境づくりも進めていく必要があります。
本学は、創立以来の基本的理念を「伝統」として堅持し、周囲に惑わされることなく、今後も継承していく。同時に新しい時代の要請にも応えていく、それがくにおんの「新世紀」が歩むべき道である。その自覚を胸に、国立音楽大学の発展に努めてまいります。
