interview04

今井 慎太郎教授
(演奏・創作学科 音楽デザイン専修)

音を拡張し未来へ―
くにおん新世紀を創る

フロアに座り、微笑む今井教授

国立音楽大学との、
音楽デザインとの出会い

音楽大学を目指す皆さんには、各々の音楽的原体験があることでしょう。僕の場合は、小学生のときに繰り返し聞いていたファミコンのゲーム音楽、そして中学生のときエレキギターを始め、エフェクターでいかに面白い音を作れるかに興味を持ったことです。音大受験を意識した際、当時はピアノやソルフェージュなどが必須で諦めかけましたが、それらを条件としない国立音楽大学「音楽デザイン学科」に出会い、案内にあった「デザイン」「コンピュータ」「音響」という言葉に惹かれて受験、合格することができました。

「音楽デザイン」は庄野進先生が1989(平成元)年に提唱した概念で、簡潔にいえば、メディアや環境も含めた総合的な視点から行う幅広い音楽実践です。正直なところ当時は何のことかよくわかりませんでしたが、今に至るまで僕の規範として残り続けることになります。

入学後は、学生が中庭で楽器を練習したり、廊下で歌い出したりと自由な空気が漂っていて、開放的ですごくいい大学だなと感じました。

コンピュータ音楽の作曲家として高く評価される萊孝之先生に巡り会えたことは幸運でした。先生はクラシックの延長線上にある現代音楽、生楽器とコンピュータを組み合わせた新しい音楽を作ることに取り組まれており、僕も熱心に学びました。それまでは全く知らない世界だったので、入学時と卒業時では音楽観が大きく変わりました。

当時から専攻の定員は1学年10人。授業もすべてがゼミのようで、学生と教員の距離が近く密なやりとりができました。また、研究室がいつも学生に開放されていたのも、今思えばとても貴重でした。学生が制作作業をしたり、おしゃべりしたりおやつを食べたり、何にでも使える開かれた「場」の提供も大学の大切な役割なのではないかと、コロナを経て強く感じます。そこで交わされる学生同士のやりとりが創造性につながり、新しいアイデアが生まれるとしたら理想的ですよね。

音楽とコンピュータに
ついての探究

大学院修了後に国外へと目を向けた僕は、まず音楽とテクノロジーに関する研究や創作、教育を統合した世界最大の機関、パリのIRCAMで学びました。多くの研鑽を積めた一方で、自分が大学でやってきたことのレベルもかなり高かったのだと気付かされました。その後、ドイツのメディアアート研究所ZKMとベルリン工科大学の電子音楽スタジオで作品制作や研究を行いました。様々なメディアアートや映像表現、舞台表現に触れ、自作にも取り入れる中で、次第に自分は作曲家ではなく広い意味での音楽家でありたいと意識し始めました。いろんなものをつなげられるのがコンピュータの際だった特性だと、強く感じるようになったのもこの頃です。

2006(平成18)年から萊先生の後を継ぎ、本学でコンピュータ音楽を担当しています。コンピュータ科学のパイオニアの一人、ダグラス・エンゲルバートは、コンピュータの真価はオートメーションではなく、オーグメンテーションだと言いました。個人の能力を拡張する目的でコンピュータを使ったとき、最高に面白いものができることを実感しています。それを学生にも伝えていきたいと思っています。

国立音楽大学で
夢のある領域を学ぼう

今年4月から「コンピュータ音楽専修」を「音楽デザイン専修」に名称変更します。今やほぼすべての人がスマホというコンピュータを携帯し、また音楽の制作から流通、聴取のあらゆる場面にコンピュータが関わるようになりました。そうした状況でコンピュータ音楽だけではない、幅広い音楽実践の探究を専修の方針とし、かつては困難だった「音楽デザイン」の理念を達成したいと考えます。

6月の「くにおん100フェス!」では、2日目にお子さんを対象にしたワークショップを担当します。濵野先生と学生が開発した、PCやスマホのカメラとブラウザで動くツール「音たっちくん」で作品を作ろうというものです。自分だけの新しい楽器を設計、それを使って作曲して、演奏するようなイメージです。音と身体を新しい仕方でつなげる体験をした子どもたちが、音楽や音の表現の面白さと多様さを感じてくれればと思います。

今後は従来の音楽家という概念をもっと拡張したいと考えます。培った技術と美意識で音を扱う、あらゆる領域の人を音楽家と呼びたいのです。これは庄野先生が研究していた作曲家ジョン・ケージの、あらゆる音はすでに音楽である、という思想にも呼応します。

音楽が好きで何か音に関わることをしてみたいけれど、従来の演奏や作曲は少し違うと考えている人に、ぜひ本学「音楽デザイン専修」へ来てほしいです。そして将来、いまだ想像もつかないかたちの音楽家になってくれることを夢見ています。

お話しする今井教授